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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第三十八話

 アレン様は、モゴネル先生を探す傍らでユルヨについても探すよう、イザヤに言ってくれていたらしかった。


「まあ俺は個人的に報復するつもりでそいつを探せって言っただけだけどな」


 私に向かって勝手なことをしてすまないと謝ってくださるアレン様に、私はただ首を横に振る。

 ドゥルーブさんとアールシュ様は一旦別室で、王城に向けての手紙を書いているところだ。


「個人的には俺が罰してやりたいが、この国でやつが何かしているならともかく、それは難しいだろう。その点、バッドゥーラ帝国は相当厳しく処分を下すつもりでいるだろうから、引き渡してもいいかと思った」


「アレン様」


「まあ一発……いや、三発くらい殴るのは許してくれるだろう」


「アレン様、どうして……」


「どうしてって、ヘレナに辛い思いをさせたヤツだから。俺が憎いと思った」


 あっさりと、そしてきっぱりと私のことを想ってユルヨが許せないと言ってくれるアレン様に、私は胸がいっぱいになる。


 これまで、こんな風に私のために怒ってくれた人はいただろうか。

 いいや、アンナとビフレスクは不満を何度も訴えてくれていた。


 だけどそれとは何か違って、その違いが私にはわからないけれど……とても、とても嬉しくて。


「……あら?」


「ヘレナ!?」


 涙が、零れた。

 泣きたかったわけじゃないのに、どうしてかわからない。


 苦しくもないし、ただ、胸がいっぱいで。


「す、すみませんアレン様。どうしてでしょう、涙が止まらなくて……」


「ヘレナ……」


「アレン様が、私のために、私の代わりに怒ってくれているのだと思ったら、どうしてでしょう。涙が出てきてしまって」


 そうだ、胸がいっぱいになったらまるでそれが溢れ出たように、涙が出てしまった。

 そして涙が止まらなくて、ポロポロと零れるのにそれは不快ではない。


「どうしてかしら、私……この国に来てから、泣き虫になってしまったみたいで。申し訳ありません」


「謝る必要なんてない。ヘレナが、俺の隣でなら泣いてもいいって安心してくれた証拠だ。嬉しい」


「嬉しい……?」


「ああ、そうだ」


 わからない。

 わからないけれど、確かにアレン様の横にいることは、私にとって心地いいことだった。


 泣いても、笑っても、許してくれるこの場所に……私は、安堵しているのだ。

 そのことをようやく体も心も理解して、涙が零れたのだとわかると胸のつかえがまた一つ、取れた気がする。


「ユルヨに関してはアールシュたちにくれぐれも頼もうな。ヘレナも、お前以外の人たちも、これ以上苦しまなくていいように」


「……はい」


「誰の名誉も傷つくことがないよう、取り計らってもらおうな」


「はい」


 私の頬に、額に、繰り返し口づけを落とすアレン様のその言葉もなにもかもが優しい。

 名前を呼ぶその声も、アレン様だったらお前と言われても何も怖くない。


「私も、ユルヨにはきちんと罪を償ってもらいたいと思います。ありがとう、アレン様」


 パトレイア王家は、私の両親はユルヨについてどれだけ知っているのだろう?

 私はふとそれを思って苦いものを呑み込んだ気持ちになる。


 だけれど、このままでいい訳がなかった。


「……アレン様、モレル領に戻る前に一度……ディノス城に滞在しているであろう、パトレイア王夫妻に話を聞きたいと思います」


「ヘレナ、それは」


「どうか、一緒に行ってくださいませんか。勿論、アールシュ様たちの了解を得て、今回の件を話したいと思うのです」


「……わかった」


 私は逃げてばかりだった。

 だが逃げることは悪ではないと思う。


 いつの日か、立ち向かえる日がくるなら、それで。


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