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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第三十五話

(……いつの間に眠ってしまったのかしら)


 確か昨夜は、アレン様に私が過去に会った教師たちの話をして……それで、泣いてしまったんだわ。

 怖くて、そんな抗えなかった自分が情けなくて、それをアレン様に知られることがまた怖くって……。


(いやだ、もう結婚もしている大人なのに!)


 この土地に嫁いでから、感情を制御できなくなってきている気がする。

 それもこれも、アレンデール様と出会ってからだ。


「ヘレナ?」


「……ッ、アレン様」


「起きたのか、体調は? 大丈夫か? 目は痛くない?」


「目、ですか……? そういえば、少し……」


「泣いたから少しこすっていたから、腫れていたんだ。冷やしはしたが……やっぱり足らなかったか」


「いえ、大丈夫です……その、ご迷惑をおかけしました」


「あれは仕方ないだろう。ヘレナ、大丈夫か? 今日は一日館で大人しくしていよう。どうせ領地に戻るまでまだ数日かかるんだし」


 アレン様は社交があまり好きではない……というか、私もあのパーティーに参加してアレン様自身があまり貴族たちに好かれていないということはわかった。

 もちろん、嫌われているというようなものではなく、無骨な軍人としてのイメージの方がアレン様には強いらしく、軍人といっても指揮官として王城に詰めるような立場の方々ならともかく目つきが怖いだとか野蛮なのではないかと……言いたい放題な人たちがいたのは事実だ。


 中にはアレン様に大がかりな野盗退治などで協力してもらったという領主もいて、そんな彼らは友好的な態度だったけれど……どこか畏怖の眼差しを向けていた。

 アレン様は、ご自身で剣を持って最前線で戦うことを主軸に置いているらしく、そのせいだろうとイザヤが以前教えてくれた。


 イザヤに言わせれば、いつまでも最前線に出ないで後方に控えていてもらいたいらしいのだけれど。


 おそらく私の悪評もあって余計に疎まれているのだとは思うけれど、積極的に私たちと交流を持ちたい貴族家は今のところあまりいないのではないか、とのことだった。


「……アレン様、もしユルヨがただの愉快犯ではなくどこかの国に関係するものだったとしたら、私はどうなるのでしょう」


「ヘレナ?」


「パトレイア王国にとっては醜聞ですが、もしもそれが国家を揺るがす何かを……そういった類いのものに繋がっていて、それに私が気づかなかったのだとしたら」


「だとしてもそれはヘレナの責任ではない。だって、まだ幼い頃の話だろう? 本来なら周囲の大人が気づくべき年頃の話だったんだ。たとえ小さな悪意が周囲にいくらあろうとも、それをいいように利用したやつと、利用される状況を作り出した方に罪がある。ヘレナは、被害者だ」


「……でも」


「それに俺はヘレナを手放す気はない。パトレイア王国からヘレナは……言い方は悪いがディノス王国に人質として送られたんだ。今更返せとは言えないはずだ」


 私は、ここにいてもいいのだろうか。


 疎まれて、それをいいことにあんなおもちゃのようにいたぶられるような子供で。

 ユルヨが言った通り、私が何を言っても彼以上に信頼なんて得られなくて。


 私は、あの国で正当な王女だというのに。

 国外から来た、教師にすら及ばない。


(私は、パトレイア王国にとって、何の価値もない……じゃあ、ディノス王国にとっても)


 ぎゅうっと手を握りしめる。

 考えてはいけないと思えば思うほど、胸が苦しくなった。


 私は価値がないからこそ、この国に嫁いだのだ。

 両国の平和のために。


 でもそれこそが、間違いだったら?

 

「ヘレナ」


 震えが止まらなかった。

 そんな私の手を、アレン様がそっと握ってくれた。


「大丈夫だ。ヘレナは、俺の妻だ。大事な妻だ。お前がいてくれないと、俺が困る。だから、今は何も考えずに今日は社交で疲れた俺を癒してくれ」


「……アレンデール様」


「可愛い妻に癒してもらえないと、野蛮な辺境伯は元気が出ないんだ。頼めるか?」


 ベッドの端に腰掛けるようにしてそう笑うアレン様があまりにも優しくて。

 私は縋るように抱きつくことしかできなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ヘレナが徐々に心の内を言葉と態度で外に出していく様は良いですわー。 [気になる点] サブタイトルがアラビア数字ですよ? ユルヨはほんと何がしたいのか... [一言] 後の歴史書にはディノ…
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