表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/133

幕間 異国の従者は思いもかけない話を拾う

『アールシュ様』


『どうした?』


『例の男に関する話を耳にいたしました』


『……なんだって?』


 宴もたけなわと言ったところだろうか。

 周囲の興味も俺たちやアレンデールから逸れたところで、モレル夫妻が退出するのが見えた。


 今回はあくまでパトレイア王国とディノス王国で力関係に差が生じたこと、そして両国がそれを納得しているのを示すものだ。

 だから周辺諸国の人間も、王たちが仲良く話をしている姿やパトレイア王たちが嫁いだ娘と話をしていた……という姿を見せられたという事実さえあればいい。

 その裏でどんな関係なのかなんてものは、この華やかな場では必要のない話だからな。


 だからアレンデールたちが早々に退出したのは、義理は果たしたということなのだろう。

 俺もそろそろ下がって休みたいくらいだ。

 そんな中でドゥルーブが耳に入れてきた話に俺は思わず前のめりになってしまった。


『確かなのか』


『ええ。しかもモレル辺境伯の奥方と関係が』


『……なに?』


 俺たちが言っている男というのは、かつて我が国で厄介なことを起こし追放された男だ。

 

 東方の国から流れ着いたその男はとある高位貴族の当主に気に入られ、教師として雇い入れられた。

 大変博識な男であったのは事実で、人当たりも柔らかく多くの者に好かれたために王宮にも度々招かれ、俺も目にしたことがある。


 色は白くなよやかな、美しいという表現が似合う男だった。


 その男が姿を消した。

 あれほど気に入っていたというのにその高位貴族は黙して語らず、何かがあったのだろうということは誰の目にも明らかだ。

 だがその内容がわからなかった。


 その理由が発覚したのは、そこの娘が王家に連なる人間に嫁いでからの話だ。

 そこで生まれた子供が、夫婦のどちらともにていなかったのである。


 夫婦どちらの系譜からも生まれることのないその色合いは、あの男のものであった。


 あの男は、柔和な雰囲気と物腰で多くの人に取り入り、箱入り娘を蹂躙したのだ。

 醜聞を特に気にすることもあって、娘もその家族も口を噤む。

 だがまさか身ごもっていることまでは気づかなかったと、後のその高位貴族は語った。


 ことが発覚した際に男を捕らえ処断するつもりが、あちらが一枚上手で逃げられたのだと……それを明かせばその貴族家にとっては決まっていた縁談も、周囲にその男を紹介したこともあって全ての面目が丸潰れになってしまうと言うことで口を噤んでいたというのだ!


 当然のように、貴族たちに気に入られていたその男が出入りしていたのはその高位貴族の家だけではない。

 被害者はその高位貴族の娘だけではなかったのだ。


 言い出せなかった娘も多くいたようで、発覚からどんどんと事実が明らかになるにつれ被害を訴え出る家族も増えた。

 皇国では指名手配とされている。


(……まさか、ヘレナ殿もその被害に?)


 アレンは知っているのだろうか。

 知っていて受け入れているという可能性もあるが……。


『ドゥルーブ、すぐにアレンと連絡を取りたい。もしかすればヤツの行方を奥方が知っているかもしれないからな』


『あの男はヘレナ様の教育係を務めていたという話ですが……パトレイア王がどれほど事実を知っているかですな』


『それについても調べろ』


『かしこまりました』


 ああ、この国に来て一気に忙しなくなったが……退屈するよりはマシだ。

 あの男にようやく責任を取らせることができるなら、俺は喜んで働き者になるというものだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ