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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第二十九話

 私たちの夫婦仲に呆れたのか、思っていた反応が得られなかったのか。

 あるいは周囲が私たちに対して好意的になったからなのかはわからないが、カルロ王子は舌打ちをしてどこかに行ってしまった。


 それについては、正直ホッとしている。


 ただその後はとても大変だった。

 旦那様と私にとって居たたまれないというか……どこに行って誰に挨拶しても『微笑ましい』『初々しい』と言われたり、夫婦仲を揶揄されたりしたものだから……。


 偽装結婚だ、不釣り合いだと言われる可能性もあったわけだからそれよりはずっとマシだとは思うのだけれど。


(でも、慣れない……)


 誰かに自分のことを褒められることも、祝福されることも。

 

 胸の奥が小さな温かさを覚えるのに、同時に遠くに見えるパトレイア王夫妻の姿に悲しくもなる。

 あの人たちに対して、親子としての期待などとうの昔に捨てていたと思っていたのに。


 温かさを思い出せば、寂しさも同時に思い出してしまった。


「ヘレナ?」


「……なんでもありません。そろそろ退出いたしますか?」


「ああ。イザヤたちが首を長くして待っていると思うし……アールシュのおかげで目的は達したしな。いずれは個人的に彼をモレル領に招いて楽しくやりたいところだけど」


「きっとお喜びくださいます。……パトレイア王夫妻に退出のご挨拶をした方がいいのかと、それを考えていただけですから気になさらないで?」


 私の視線の先に誰がいるかなんて、旦那様ならお見通しに違いない。

 だから何かを言われるよりも先に微笑んで〝なんでもないのだ〟と伝える。


 実際、私に対してあちらが何を思うかなどは知らない。

 要望通り私はディノス国に嫁いだのだし、元がパトレイア王国の王女であろうと今はディノス国民だ。


 戦争が起きて戻らなければならないだとか、講和条約が反故にされて私が離縁されたわけでもなければ、これが当然のことなのだと思う。

 サマンサお姉様も嫁いだ後はパトレイア国に戻ってくる気配もないし、手紙のやりとりもないように思う。


 それぞれに新しい道を歩き出したのだから、きっとそれでいいのだろう。


「……ヘレナは両親のことを、常に国王夫妻と呼ぶのか?」


「そう、ですね。言われてみればそうかもしれません」


 お父様、お母様。

 そう呼んでいたのはいくつまでだったかしら。


 おそらく、甘えることが許されず、あの二人の視線がこちらに向かないことを理解して諦めた頃にはそう呼んでいたのだと思う。

 あの二人に限らず、家族から自分の名前を呼ばれたこともあまり記憶にない。

 

 でもそれを寂しいとは、どうしても思えなかった。


(おかしな話だわ)


 サマンサお姉様には、名前を呼ばれていた気もする。

 でもそれが義務の延長上にあると気づいた時に、よく聞きとれない(・・・・・・)単語のようにすら思えていた。


 旦那様、いいえ、アレンに対しては名前を呼んでもらいたいと思えたのに。


「ヘレナ?」


「……大丈夫です、アレン様」


「なら、いいんだ。行こうか」


 相手からの反応があるというだけで、こんなにも感じ方が異なるのだということを私はようやく理解できたのだわ。


(もし、私がもっと行動を起こしていたら……変わっていたのかしら?)


 だとしても、今更だ。

 幼かった自分は、幼いなりに自分を守ったのだ。


 そんな過去を受け入れてくださる旦那様が、私の名を呼んでくださるなら。

 あの頃の私を、今は私が抱き留めて慰めていけばいいのだと思う。


 躊躇いながらそっと寄り添えば、アレン様は何でもないことのように私を抱き寄せてくださった。

 

 ああ、私は求めてもいいのだと……安心できる場所はここなのだなと、そう思った。


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