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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第二十六話

 異国のお客様はアールシュ様というお名前で、浅黒い肌に綺麗な緑の目を持った好青年で、すぐに旦那様と打ち解けたようで……。

 私たちが婚姻関係にあると知り、そしてパトレイア王国とディノス国の架け橋であること、互いに想い合う仲になれたという話をするとアールシュ様は大層感銘を受けられて、お祝いの言葉をくれて驚いてしまった。


 アールシュ様は山一つ向こうの、バッドゥーラ帝国の第四皇子。

 今回の和平の場と共に、この国に集う周辺諸国の方々とも交流を持つために来たんだとか。


 ただ山を挟んだというだけで肌の色や言語が大きく異なっていることから、どうにも打ち解けにくく困っている間に通訳の方ともはぐれてしまったらしい。

 幸いにもその通訳の方はすぐに見つかったから良かったものの、妙な人に絡まれたりなんかしなくて良かったとそっと胸をなで下ろしたわ。


「よかったですね、旦那様」


「ああ。これもヘレナのおかげだ」


「アレンデール、ヘレナ、あり、がと」


 にっこり笑ったアールシュ様は、すっかり私たちを気に入ったようだ。

 通訳はアールシュ様の従者でドゥルーブという男性だった。

 少々大柄で厳つい顔立ちのその人は、私たちに大層恐縮していたけれど……話してみると、大変気の良い方々だった。


『なるほどなあ、アレンデールは薬草の類いをもう少しなんとかしたいんだな!』


「ああ、うちの辺境区は他国との諍いよりもまだ開拓が終わっていない森林からの野獣被害の方が多くて。民衆がもっと医師にかかりやすくするのがいいんだろうが……現状いる医師たちの負担を減らす意味でも、薬草なんかを安定供給したいと思って」


『そういうことなら任せてくれ!』


 私とドゥルーブさんを挟んで、二人は大盛り上がりだ。

 立場上そう簡単ではないけれど、いずれはモレル家にアールシュ様が遊びに来るというところまで話が進んで私は苦笑するばかり。


 旦那様は、人を惹き付けるものをお持ちなのかもしれない。


「それにしても奥方様はすごいですね、我が国の言葉は少々難解でしたでしょう」


「え? ああ、そうですね。文法などがかなり異なりますから……ですが、以前ここより東方に位置する神聖国の言語体系を学んだことがございます。それと似ているところがありましたので」


「素晴らしい! 奥方様は大層勤勉なのですなあ。アールシュ様にも見習っていただきたいものです」


「まあ、そんな……」


 楽しい出会いがあってよかった。

 アールシュ様は裏表があまりない方のようで、そのあたりも心配なのだとドゥルーブさんは仰っていたけれど……旦那様もそういう意味では、そうなのかしら。


 もしかしたら似たもの同士なのかもしれない。


「そろそろ我々も他の方にご挨拶をせねばなりません。また後ほどお時間をいただければと思います」


「ああ、とても楽しかった! 俺も帝国語を話せるよう、ヘレナに学ぶとしよう」


『できれば近日中にでも遊びに行きたいけど、その時はちゃんと連絡するから!』


「はい、お待ちしております」


 私は、きちんと妻の役目を担えているのかしら。

 でも旦那様はとても楽しそうだから、きっと合っているのだわ。


 アールシュ様も、ドゥルーブさんもとても良い人たちで、私たち夫婦の結婚を祝してくれた。

 純粋なその祝福が、こんなにも嬉しいだなんて知らなかったから自然と笑みを浮かべてお礼を言えたことも、私にとっては収穫だったと思う。


「ヘレナ、疲れてないか? あちらで飲み物を――」


 気遣ってくださる旦那様を見上げたところで、私たちに大股で歩み寄ってくる姿が目に入る。

 旦那様も気づかれたのだろう、いやそうな表情だ。


(あれは……ディノス国の第三王子)


 どうして彼はあんなに険しい表情でこちらに向かってくるのだろう?

 私はわからず、ただ立ち尽くすのだった。


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