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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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幕間 王は知っているようで知らないことを知った

 歓談しつつ、視線で追う。

 あの子はいつからああ(・・)だった?


 自身に問うてみても、答えは出ない。


(私は、幸せな男だったはずなのだ)


 誰もが羨むような血統、妻を迎えて子宝に恵まれた。

 血筋故になのか、男児が生まれにくいのは王家という業のせいなのかもしれないと過去の王が告げられてから、パトレイア王国では直系男児以外にも継承権が与えられ、それに相応しい教育が施される。


 私もそうであったし、私の姉妹たちもそうだ。

 幸いにも子宝には恵まれやすい家系でもあるらしく、まったく男児が生まれないわけでもない。


 男児が生まれた際はその子を王位に就けるべしと代々決められているだけの話だ。


(どこで間違った? 私が息子をほしがったのは事実だが、娘たちのことだって愛していた。あの子のことだってそうだ!)


 長女は賢く、己の立場を理解して王太女として学び、そして弟が生まれてからはその座を退き補佐してくれた。

 次女は愛嬌があり、姉の心労を案じ人々を和ませてくれた。

 三女は美しく、よく笑うその姿は天使のようだ。


 大望の長男は、健やかに育っている。

 そして四女は……四女は、どうだったろうかと今になって思うのだ。


 国のことを治めるのは確かに大変なことだ。

 妻に子供たちのことを任せっきりになったのは申し訳ないと思うが、それでも私たち王家はとても幸せなのだと疑ったことなど一度とてなかった。


 手のかからない娘たちを見て来たからか、四女は反抗的で困ったものだと頭をなやませていたが……それでも、ここに至って〝おかしい〟と気づくまでそう時間はかからなかった。


 ディノス国に嫁いで落ち着きをようやく得たのかとそのドレス姿に安堵したが、妻は大切にされていないのかと、好きなものを用意してもらえないのかと心配していた。

 だがそれもあの夫となったモレル辺境伯の言葉により、否定された気もする。


 もしや、あの子は派手なものが好きではなくあのように落ち着いた色合いが元々好きだったのか?

 派手好きで癇癪持ち、そう聞いていた自分の娘はディノス国に来て変わってしまったのか?


 楽しげにダンスを踊る娘夫婦を、目で追う。

 あんなに柔らかな表情ができたなんて、知らなかった。


(確かにあの子の残していったクローゼットの中身は、どれもこれも似たようなデザインの派手なものばかりだった)


 だが、数はそうなかったような気がする。

 おかしな話だ、華美なものを求め買い漁る困った娘――そう聞かされていたからこそ、侍女を減らし散財させないようにしたというのに。

 別にこれまで買ったものを処分しろなどとは言っていないし、処分をしたという形跡もなかった。


 ということは、あのクローゼットの中身こそがあの子の持ち物だったのだろうか。

 いいや、そんなはずはないと国を出るまで私はその自分の考えを否定し続けた。


 だが、ここディノスに来て夫の腕に抱かれて安堵した表情を見せたあの子を見て、私は不安を覚えたのだ。


(……あの子は、あんな表情をする子だったか?)


 自身に問う。

 パトレイア王国で、あの子と話したのはいつだったか。

 躾として侍女たちを外すと告げた時だった。

 あの時、あの子はどんな顔をしていた?


 無だった。

 ゾッとするほど静かな顔だったはずだ。


 反抗的だとあの場で妻が言っていたことを、そういうものかと思い込んでいたが――そうではなかったのかもしれないと、今更気づく。


(あの子は、私たちのことを何と呼んでいた)


 陛下、パトレイア王、王妃……そうだ、ディノス国に嫁ぎ臣下の立ち位置になった娘となれば、そのように敬称で呼ぶのが相応しい。

 だがこの場はディノス王が家族の再会の場として設けた時間であった。

 それなのにあの子の態度は、一度として〝親に向ける〟ものではなかった。


(私を父と呼んでくれたのは、いつだった?)


 思い出せない。

 思い出せないままに妻を見る。


 どこか呆然とする妻に、ああ、私たちは取り返しのつかない失敗をしていたのではないだろうかと今更になって胸がじくりと不安に染まるのを感じたのだった。


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