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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第二十四話

「挨拶は済んだか、モレル辺境伯よ」


「陛下」


「我らもまたパトレイア王たちと話があるでな、時間が取れず悪いがこのあたりで良いだろうか? そなたたちも挨拶回りが残っているだろう、すまなかった」


「いえ」


 私たちの会話など耳にしていない、そういう態度でディノス王がにこやかに述べられたので、旦那様は頭を下げました。もちろん、私も。


「パトレイア王もすまんな、ご息女ともうしばし歓談をしたいところであろうが……我らも話し合いを続けねばならぬことが山とある。今は他の参加者たちとも言葉を交わしてやってくれ」


「あ、ああ、もちろんだとも」


 パトレイア王はどこか引きつった笑みを浮かべながらそう返して、私にちらりと視線を向けました。

 少し視線を彷徨わせてから、それとは別に何かを言いかけたパトレイア王妃を手で制して私をジッと見たのです。


(……こんなにまっすぐ、私を見たのはいつぶりだろう)


 私自身も、いつしか愛されたいという願いを捨ててしまったからこそ……諦めていつも違うところを見ていた。

 大体が床だったけれど。

 顔を上げてしまえば、兄に対して満面の笑みを浮かべるお二人の姿を見て、とても悲しくなってしまうから。


 でも下を向いてばかりいると、みっともない振る舞いだと周囲に叱られてしまって……それで余計に私は嫌われていったのよね。


(そうね、私が【悪辣姫】と呼ばれるのは、私自身が悪いのね)


 抗うことを諦めてしまった私が、きっと悪いのだ。

 もっとやりようはあったのだろうと大人になった今なら思う。


 旦那様のように、周囲を頼り頼られる関係を築ければきっと良かったのだろう。

 私自身の、人間としての魅力などが不足していたために起きた現象だ。

 未熟だったという言葉では誤魔化しようがない、個人の資質なのかもしれない。


「……それでは、な。夫となったモレル辺境伯とも仲が良いようで安心した」


「はい、ありがとうございます陛下」


 できうる限りの美しいお辞儀(カーテシー)で応じれば、何故か驚かれた気がする。

 旦那様に促されて私たちはその場を去ったけれど、少しだけ気になって肩ごしに振り返ったらまだ、陛下たちは……私を、見ていた。


(どう、したのかしら……)

 

 これまで私に視線を向けることなんて、数える程度しかなかった人が見ているという事実は、私の心を波立たせる。


「ヘレナ」


「……旦那様」


「俺だけ見ていればいい」


 まだどこか不機嫌そうな旦那様に、私は何も返せない。

 甘い言葉だと思えればそれで良かったのだろう。


 だけれど、私は……その言葉を嬉しいと思うのと同時に、あの人たち(・・・・・)によって、旦那様に迷惑がかからないか。

 そればかりが気になる。


「いいんだ。陛下たちも義理を果たしたと思っているはずだ」


「……義理、ですか?」


「ああ。陛下たちはヘレナを見ておきたかっただろうし、パトレイア王国に対してお前が元気で、大切にされていることを見せることが目的だ」


「はい」


「陛下たちが求めたことは終わったし、俺とヘレナが想い合っているという事実を見せつけてやった。俺たちも義理は十分果たしたし、後は適当にパーティーを楽しんだっていいだろ」


 旦那様はそう言うと私の手をとったまま、前に立つ。

 そしてにこりと笑った。


「……踊ってくれるか」


「私で、よろしければ……」


「お前とじゃなきゃ踊らない」


 妻と最初のダンスを踊るのは、一般的な貴族の作法。

 だけれど、きっと旦那様のお言葉は本当なのだろう。


 そう思うと、先ほどまでの不安はどこか……溶けて消えてしまうような気がした。


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