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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第二十三話

「……両陛下によろしければ、改めて私の夫を紹介させていただければと思います」


 これ以上ドレスの件で話をしようとしてもきっと無駄だ。

 私はそう思って目を伏せる。


 それよりも『辺境伯の妻』としてやるべきことを頭に浮かべてこなしていった方が、よほどマシだ。

 これ以上惨めな思いをして、気持ちを鬱々とさせても良いことなんて何一つないのだから。


 私の言葉に両陛下はハッとした様子を見せて、旦那様を見た。


(……旦那様、気分を害されたのだわ)


 それはそうよね、私のせいとはいえご自分が選んだドレスを貶されたようなものだもの。

 本当に申し訳なくて、逃げ出していいなら逃げ出したい気分だわ。


(どうして私は上手くやれないのだろう)


 それなり(・・・・)に綺麗に装えた、そう思って生まれた自信はとっくに消えた。

 旦那様の隣に立てる人間になれた、そう思えたのに。

 変わらなくちゃ、変われるはずだって私は自分でそう思っていたけれどそれは間違いだったのだろうか。


 落ちていく思考と、視線。

 その時、私の肩をグッと抱き寄せてくれるその感触に思わずハッとする。


(旦那様?)


「ただいまご紹介にあずかりました、モレル辺境伯アレンデールと申します。ご挨拶が遅れ、誠に申し訳ございません。先日は不躾にも手紙を送らせていただきましたが、お受け取りいただけたでしょうか?」


「え? え、ええ……」


「さようでしたか。当家としても妻の好みについてはあれこれと噂を耳にしておりましたが、実際に共に過ごしてみれば事実と異なると知りまして……控え目な性格も、物腰穏やかなところも大変好ましく、私としてもこの縁は誠に得がたいものであったと感じております。重ねてお礼を申し上げたい」


「……え?」


 旦那様の饒舌さに驚きながらも、パトレイア王妃がそれについて何を言うのだろうかと私がハラハラしているとなぜだか唖然としていらっしゃる。

 陛下は苦虫を噛みつぶしたような顔だけれど。


「彼女はモレル領でも大変人気ですよ。穏やかで人の話をよく聞き、民衆に寄り添ってくれる優しい女性だと」


 そんなこと言われているのかしら。

 いいえ、多分だけれど旦那様があえてそのように領民に対して私を印象づけているのでしょう。


 敵とまでは行かずとも、あまり良い関係ではない両国のことを考えればそうやって受け入れされるのが一番安全な方法だものね。


「ヘレナは、優秀です。私は常に助けられています」


 私がまた視線を落とそうとしたのを察したのか、旦那様がグッと私を抱く力を強めた。

 それは自分の言葉を聞けと言われているようで……私は、旦那様を見上げる。


(……その言葉は、本当なのでしょうか)


 私の存在が、少しはお役に立っているのでしょうか。

 もしそうならば、どれほど嬉しいことかしら。


「知識は豊富、人に学ぶことも厭わない。辺境伯夫人という立場を理解し、無骨なばかりの私を恐れず寄り添ってくれる。……一体、彼女の何を見て『悪辣姫』などという噂を立てたものがいるのかわかりません。おそらく陛下がたもそのように思われているからこそ、ご心配なのでしょう」


「……」


「私も国家に仕える武人の一人として剣を振るうことで悪鬼だの悪魔だの、なかなか物騒なあだ名をいただいておりますが、それもこれも噂だと笑ってくれるヘレナがいてくれることは私にとって何よりの幸いです」


 ああ、だって。

 この人は、この国のために剣を振るっているのだもの。

 敵にとって恐ろしい姿でなくてはならなくて、敵にとって恐ろしいならばやはり弱いものから見れば恐ろしいものなのでしょう。

 そう思われたとしても、大切なモレル辺境地を守るためならばと心を鬼にして戦われる旦那様のことを、どうして私が恐ろしいなどと思えるでしょう。


(……優しすぎる人だもの、旦那様は)


 そんなこの方だからこそ、私はお慕い申し上げているのだから。

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