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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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幕間 兄は妹の顔が思い出せない

 唯一の王子。

 待ち望まれた王子。


 僕には、その言葉がついてくる。

 それはまるで、呪いのようだ。


 両親も、姉たちも、僕を大切にしてくれている。

 それはよくわかっているのだ。


 パトレイア王家は、何故か男児の出生率が低い。

 だけれど、可能な限り王太子は直系男児が望ましいのだ。

 いつから男児が生まれにくいのかはわからないが、家系図を見る限りは子に恵まれないというわけでもなく……かく言う僕だって、順番で言えば四番目なのだから。


 だが、一番上の姉上は僕が生まれるまで王太女として厳しく育てられたこともあり優秀で、二番目の姉上は話術に長けて周囲との折衝役が上手かった。


 そんな姉たちを見ていれば、両親が僕にかける期待はより一層強いものになるのも理解できる。


(だけど、苦しいな)


 朝から晩まで勉強をして、合間には剣の修行をし、両親が息抜きにと誘ってくれる茶会に行く。

 それ以外も婚約者との時間であったりするが、そこにも両親の影が見える。


 僕個人の時間が、ほしいと願ってしまうのは……これほどまでに望まれ、大切にされていながら我が儘なのだろうか。


 鏡を見る。

 僕には、双子の妹がいる。


 僕と共に生まれてしまったせいで、双子は不吉だからと言われたり、僕のオマケだなんて言われてしまう哀れな妹!


(だけど、僕は妹が羨ましい)


 放っておかれたい。

 嫁いで、この城から出て行った妹に言葉をかけることもできなかった。


「殿下、王妃様が……」


「母上がなんだ」


 顔でも見に来たと言うのだろうか。

 朝お顔を覗かせていただろうに。


 それとも父上に対する愚痴だろうか。


「そ、それが、第四王女殿下に届ける文を王太子殿下にも認めていただきたいとのことで」


「……え?」


 それは、予想もしないことだった。


 僕は、姉妹たちとあまり接点がない。

 家族仲が良いことはいいことだけれど、それよりも生まれながらの(・・・・・・・)王太子としてやるべきことが山のようにあるのだと両親である国王夫妻は期待ばかりを口にした。


 その結果、双子でありながら僕は妹のことをよく知らない。

 とても小さな頃は、一緒にいたと思う。

 それぞれの乳母が示し合わせて、会わせてくれたことだってあった。


 教師がつくようになってからは、それもなくなってしまったけれど。

 あの頃の妹は、寂しがり屋でいつも僕を心配してくれていたっけ。

 それだけが、支えだった。


 一番上と二番目の姉上たちは、僕に対して感謝の言葉を常に言う。

 僕が生まれたから自由になって好きな人に嫁げるのだ、ありがとう、と。

 それが妬ましくて、じくりと僕の胸を蝕んだ。


 三番目の姉上は、とても綺麗な人だけど……どこか僕を怖がるような目で見ていた。

 そして、時々睨むように見ていたような気がする。

 どうやら僕が生まれたことで、両親の関心が一切向かなくなったことを寂しく思っているようだった。

 罪悪感が、僕の胸を蝕んだ。


 双子の妹は、気づけば悪評ばかりだった。

 両親はいつだって僕のところに来て期待する言葉ばかり投げかけるので、きっと妹には無関心なのだろう。

 優越感が少しと、悲しい気持ちが僕の胸を満たした。


(手紙……手紙?)


 何を書けばいいのだろう。


 結婚おめでとう?

 人質としての役割を押し付けられたあの子にそんなことを言えるはずもない。


 辛くはないか?

 そんなことを聞いてどうする。辛いと言われたら助けられるのかと言えば、無理だ。


 そもそもあの子はどんな姿をしていたっけ。

 そんなことを思ってもう一度鏡を見る。


 双子なのだから、面影がどこかにあるのではないか。

 そう思ったけれど、映るのは自分の顔だけだ。


(ああ、僕はなんて)


 なんて、薄情なのだろう。

 世界でたった一人の、双子の片割れを思い出せないなんて。


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