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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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幕間 アレンデールは知っている

 俺の親父は、クソみてえなヤツだったと思う。

 物心ついた頃には母親はいなかった。


 近所の人が言っていた話を朧気に覚えているが、酒場で働いていた女性だったそうだ。

 親父と仲が良かったかどうかはわからないが、いなくなってたってことはまあ、そういうことなんだろう。


 親父がいないときは、俺は家の中にいた。

 どっかに勝手に行くんじゃないと怒鳴られたこともあった。

 あれは愛情ではなく、探すのが面倒だって話だったんだと思う。


 そんでまあ、親父は俺をじいちゃんに押し付けてとっとと姿をくらましたってわけだ。


(だからってわけじゃないけど)


 だから、家族に愛されてないんじゃないかってヘレナの気持ちが、俺には少しだけわかるのだ。

 ただ、俺は親父には愛されてなかったけどじいちゃんと伯父さんたちには大事にされてきたと思う。


 アンナやイザヤみたいに、幼馴染もいるしな。

 俺は、そういう意味ではとても恵まれていたんだと思う。


 じいちゃんは俺の出自を鑑みて、跡取りではなく自由に生きていけるようにと強さと、金勘定と、人との付き合い方を教えてくれた。

 貴族としての礼儀は二の次で、どこででも暮らせるように。


 まあ、そんなじいちゃんの思いやりは実を結ばず、俺は辺境伯になってしまったわけだが。

 おかげで毎日礼儀作法についちゃ頭の痛い話で、正直なところ周りから侮られないよう、腕っ節だけで必死に認めてもらった感はある。


 幸いにも、俺には戦いのセンスってやつがあったらしい。

 辺境地の争いや、野盗の討伐。

 そういったもので困っている村や町を率先して手伝って回り、信頼を勝ち得た。

 いやではあるけど、勉強だってしてそれなりの礼儀作法は身につけた。


 ただまあ、母親の出自が不明なことや親父のクソっぷりで頭の固い連中には嫌われているってこともわかっている。

 だから『悪辣姫』という噂のあったヘレナを押し付けるってのも、適齢期の男子が他にいないっていう理由以外に嫌がらせの意味もあったのだとわかっている。


(警戒する意味、なかったけどな)


 俺はモレル家を、モレル家が守ってきた土地を守りたい。

 それが俺の恩返しだ。


 そう思ってここまでやってきた。

 親父に捨てられたあの日のことは、ぼんやりとした記憶でしかない。

 去っていく背中に『とうとう捨てられたのか』と子供らしくないことを思ったような気もする。


 だけど、じいちゃんたちに愛されて、大切にされた。

 俺は、それでよかった。


「ヘレナ」


 もし俺が家族を得るなら。

 この土地を、モレル家を大切にしてくれる人がいいと思ってたんだ。


 そんな相手なら、絶対に大切にすると、決めたんだ。


(毒の件とかも、別にあれが正しかろうと間違っていようと構わなかったんだ。ヘレナが動いてくれた、考えてくれた、それだけで良かった)


 領民の手をとって微笑んだヘレナが。

 スミレの花を見て、淡く微笑んだヘレナが。


「ヘレナだけなんだ、俺の妻は」


 彼女の笑顔をもっと俺が引き出してやりたい。

 そう思うこの気持ちは、きっと恋なのだろう。愛ってヤツなのかもしれない。


 だからどうか、怖がらないで。

 期待しても仕方ないって、諦めるその目に、俺を映して欲しいんだ。


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