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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第十五話

「前の……奥様……」


「旦那様は奥様をとても大切にしていると聞きました! わたしたち使用人一同、奥様が本邸でお過ごしいただけたらどれだけ喜ばしいことかと……」


「え、で、でもあなたたち、私のことを嫌っているのでは」


「そのようなことありませんよ!」


 侍女はあどけなく笑う。

 王宮で美しい所作に冷たい目線の侍女たちしか記憶にない私にとって、まるで違う。


 侍女服を身に纏っていても所作はあまり褒められたものではない。

 一応、辺境伯夫人である私に対して大きな声で喋るし、口調も結構砕けている。

 どこからどう見ても、親しく思ってくれている眼差しに、笑顔。

 

 何もかもが未知の物のようで、私は困惑した。


「……何をしているんだ」


「旦那様! えっと、あの……」


「ヘレナに何を言った?」


 困惑していると、旦那様が戻ってこられた。

 私の様子に何かあったらしいということをすぐに察したらしく、眉間に皺を寄せて侍女に詰め寄っている。


「旦那様、彼女は私に本邸の部屋の話をしてくれただけです」


「……本当に?」


「本当です。私に、本邸に移り住んでくれと言ってくれただけです」


「……だが、それは使用人が言っていい台詞じゃない」


「旦那様に再三言われて尚、離れで暮らす私を想ってのことでしょう。彼女からは悪意を感じませんし、どうか許してあげてください」


 そうだ、私は何も悪いことなど言われていない。

 それなのに彼女が叱責されては、かつての私のようで悲しいだけだ。


「奥様……!!」


 なにやら侍女がキラキラした目を私に向けてくる。

 きっと私のことを優しいと勘違いしたのだろう。


(違うわ、私は……過去の自分を貴女に重ねて、いやだっただけよ)


 そっと目を逸らす。

 都合の良い勘違いをされていそうで、ものすごく気分が悪い。


「……離れで暮らすことで、旦那様にご迷惑がかかるのでしょうか。私は、人質として嫁いで参りましたのに」


「ヘレナ」


 ああ、胸が苦しい。

 どうしてかなんてわかっている。


 ここは、私を『私』としてみんなが見てくれるからだ。


「そういえば、以前も奥様がいらしたのですか?」


「は?」


「いえ、彼女が『前の奥様』の話を……」


「お前なあ……いや、ヘレナ。話を聞いてくれ!」


「え? いえ……」


「俺には恋人なんて元からいなかったし結婚はお前が初めての相手だし、これからも妻はヘレナだけだ!」


「……え、ええと……?」


 なんだろう、アンナに借りた恋愛小説で、恋人に誤解された男性が一生懸命言い訳しているシーンを見ているようだわ。


「やだ旦那様、そこからだったんですか!?」


「うるさいな、今はヘレナと信頼関係を築いてる時なんだよ!!」


「わたしたち奥様がいつ本邸に来てくれるのか、今か今かとずっと待ってたのに旦那様がヘタレだっただなんて……!!」


 なんだろう、私が思っていたよりも旦那様と使用人たちって関係がとても近いのかしら。

 王城にいたときにお姉様たちが侍女たちと親しくしている姿を見かけたことはあるけれど、あそこまで親しげではなかったような……。


 国が違うから、という問題ではなさそうな。


「へ、ヘレナ!」


「はい」


「とにかく! ちょっと話を聞いてくれ……!」


「はい」


 別に旦那様が結婚歴があろうとなかろうと、私が文句を言う筋合いはないのだけれど……。

 それでも必死に訴えてくる旦那様に、私は頷くしかできなかったのだった。


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