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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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幕間 三番目の姫

 サマンサという王女は、何につけても『三番目の』王女として中途半端だった。


 それでも王も王妃も忙しい合間に相手をしたし、上にいる姉二人が可愛がってくれていたから幸せだった。

 幼いうちには、誰もが可愛らしい赤ちゃん、可愛らしいお姫様として愛してくれたのだ。


 だがそんな彼女の生活は一転する。

 サマンサが二歳の時、弟と妹が生まれた。


 男児が生まれたことによって、国中が湧いた日からサマンサは『三番目の姫』でしかなくなったのだ。

 末っ子だったからと愛されていた状況は変わり、男児優先の生活で両親が彼女に会いに来る回数が減って乳母と過ごす時間が増えた。

 姉二人は変わらず愛してくれていることがわかったが、やはり男児が生まれたことにより忙しくなった両親を手助けしたいと勉学などに身を入れ始め、共に過ごす時間が減った。


 王女として生まれた以上、彼女にも最高の環境は与えられていた。

 物心がついたときには、自分が『三番目だから』後回しなのだと、そう理解した。


 初めは、良かった。


 姉たちが自分に構ってくれるし、両親も時折顔を見せてくれて、勉強を頑張れば褒めてくれた。

 容姿が優れていたので周囲はそれも褒めてくれた。


 だが、二言目には『弟』の話題が出る。

 姉たちの口からも『弟が生まれてくれて良かった』という言葉が出る。


(じゃあ、『妹』は?)


 姉たちが自分を構うように、弟と妹にも構っているから自分と過ごす時間が減ったのではないか。

 それは少しいやだな、そうサマンサは思ったのだ。

 幼い嫉妬心が芽生えた瞬間だった。


 だが同時に、自分も姉たちのように弟妹に対して優しい姉になりたいという感情も生まれ、乳母に頼んで見に行った。

 弟と妹はそれぞれ別室で育てられていると聞いた。


 弟のところは豪奢な部屋で、おもちゃがたくさんあって、両親がいた。

 二人揃って可愛い可愛いと弟を愛でる姿に、サマンサの胸がずくりと痛みを訴える。

 だが声を上げる前に、乳母によってその場から離された。

 今思えば、乳母の優しさだったのかもしれない。


 妹のところは、静かだった。

 

 先に弟の部屋を見たせいかもしれない。

 酷く閑散としていて、自分のところよりも侍女がいなくて、初めて見た『妹』はぽつんとしていた。


(可哀想だ)


 二つしか年が離れていなかったこともあったのだろう。

 サマンサは、妹に構うようになった。


 どうやら侍女たちは妹のことがあまり好きではないらしい。

 我が儘だからと言っていた。幼いサマンサは、それを信じた。

 妹の我が儘を窘めた。


 だが成長するにつれて、自分たち家族の歪さにサマンサは誰よりもいち早く気づいてしまった。

 その頃には嫉妬する心も、恐れる心も大きくなっていた。


 三番目の姫であるサマンサは、容姿以外優れたところが特別なかった。

 そして、誰よりも臆病だった。

 

 両親の関心は相変わらず弟にだけであったし、上の二人の姉も自分の想う相手と婚約が決まって幸せそうで、それらのしわ寄せが弟と妹にいっていることに気づいていた。


 妹が我が儘だと言っていた侍女たちは、迷信を信じているようだった。

 庇うことも考えたが、自分までいやがらせされたらどうしようという怯えが表立って行動できなかった。

 助言という形で両親に訴えるように妹に伝えるしかできなかった。

 

 教師の件もそうだ。

 迷信から疎まれる妹に対し何をしてもいいと勘違いした教師がいたようで、それを相談されたときも『両親に言えば侍女も服も教師も、みんな取り替えてもらえるはずだ』と言った。

 その際は、自分が助言したことは決して誰にも明かしてはならないと妹に約束させた。

 自分が悪者になることだけは、避けたかった。


 その結果、妹は『我が儘放題の悪辣姫』といつの間にか呼ばれるようになり、そんな妹を気に掛ける自分は『とても優しい王女』として持ち上げられていることに戦慄した。


「こわいの、助けて、つれていって!」


 隣国の王子とはパーティーで顔を合わせることが何度もあったから、それなりに親しかった。

 自分の容姿は男性に好まれることも知っていたし、彼から異性として意識されていることも理解して婚約して欲しいと、連れ出してくれと頼んだのだ。


 一目惚れからの恋愛結婚などではなかった。

 実際には、あちらの恋愛感情は一目惚れだったかもしれないが……現在に至っても、サマンサは夫となった隣国の王子に対して異性としての愛情は抱いていない。

 

 それでも、連れ出してくれた夫に対して彼女は感謝しているし、尊敬もしているし、信頼している。

 逃げ出してしまったという罪悪感が常に彼女の後をついてきている。

 自国にいた頃よりはマシだったが、それでも妹のことを思うと申し訳なくて苦しくなる。


 辛らつな言葉を幾度吐いただろうか。

 慕ってくれればくれるほど嬉しかったし、愛しかった。

 だけど同時に嫌われたかったのだ。


 表立って守ってやれない自分の弱さが憎くて、いっそのこと妹が嫌ってくれたら自分を慰める理由になるのにとそう思ったのだ。

 弟に関しては知らない。殆ど、交流などなかった。

 大きすぎる期待に、潰されそうになっているということは聞いているが……両親に嫌われるかもしれないと思うと、何もできなかった。


(ああ、どうしてあの子が)


 姉として、手を引いて守ってやらなかった。

 その結果、弟も妹も辛い目に遭っている。

 自分は姉たちのように、心を救ってやれないどころか追い込んだに違いない。


「大丈夫かい? サマンサ」


「……あの子が、嫁いだの。隣国の、辺境伯に」


 悪魔のように恐ろしく、強い戦士だと聞いた。

 自国のために戦うならば、きっとどこまでも心強いことだろう。

 だがパトレイア王国との(いさか)いの結果、人質として妹がそんな敵国の相手に嫁いだだなんて!!


(ああ、神様。これは罰ですか)


 嘆く彼女に、夫は小さく苦笑する。

 この心が弱く美しい妻に、意外と妹姫は幸せになれるかもしれないよと言うタイミングを図るのだった。


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