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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第十一話

 旦那様がおかしい。

 絶対に、おかしい。


 私が仕事をしたいと言ったら領主のお仕事に携わらせてくれたのは、とてもありがたいと思う。

 そして本来なら女主人が月に辺境伯の妻としてどのくらいの金額を使っていいのかという話も、きちんとしてくれた。

 教会への寄付を定期的に行いたいと言ったら、やり過ぎなければその女主人としての予算内で収めるなら好きにしてくれて構わないとも言ってくれた。


 それらは大変ありがたいことだと思う。

 何も知らない小娘が嫁いで来て、碌に仕事もしなかったというのに……普通に考えてこれは好待遇以外の何ものでもないと思うのよね。


 ただ、無駄遣いだけはしないようにしようと思った。

 寄付のお金以外は何もしないでおこう。

 社交も出なければならないもの以外は旦那様も私を連れて行きたいとは思わないでしょうし……。


(それよりも、旦那様のことだわ)


 そう、旦那様がおかしいのだ。

 私に仕事をさせてくれるだけでなく、わからないところがあればすぐ話し合えるようにと何故か離れで仕事をするようになった。

 そうなると必然的に共に過ごす時間は増える。

 そもそも週に四日は共寝をなさるので、今までだったら昼頃には本邸に帰る旦那様がずっと傍にいて、朝から晩まで一緒という時間が増えた。

 それだけではなく以前から『恋人はいない』と仰ったり、『自分たちは夫婦だ』と言い含めるように言うに飽きたらず何故か閨でもないのに口づけを求められたり、手を握られたり、私のことを褒めたり……。


(一体、どうしたというのかしら?)


 別居婚のような生活を、周囲に不審がられてしまったのだろうか。

 政略結婚なのだから、おかしな話ではないと思うのだけれど……同じ屋根の下に暮らしても別の部屋で顔も合わせない夫婦も世の中にはいると以前聞いたことがあるし。


 それで考えれば私たちは確かに本邸と離れに暮らす、少し変わった関係かもしれないけれど閨は共にしているし、少なくとも役目(・・)を忘れたことはないと思うので問題ないと思うのだ。


 そもそもが私は人質のようなものだし。


「あの、旦那様……」


「うん?」


「こうした触れ合いは、その、必要なのでしょうか?」


 それなのに旦那様は今も仕事の休憩時間だからとぴったりと寄り添うようにソファで隣り合わせに座り、私の肩を抱いて時折キスまでくださるのだ。


(なんだか、勘違いしてしまいそう……)


 だってまるでそれは、アンナが貸してくれた恋愛小説の中で想い合った二人が睦み合っているかのようだと思ったから。

 旦那様と私は、違うのに。


 ああ、でも旦那様は律儀な方で、とても良い人だから……政略結婚でも、私という妻に気を遣ってくださっているのか。

 あるいは、周囲から何かを言われてしまったのだろうか。


「……旦那様、どうか無理はなさらないでくださいね」


「うん? どうした」


「いえ……あの」


「俺のことを気遣ってくれるのか。優しいな、ヘレナは」


 なんだろう、誤解をされた気がする。

 いや、あながち全てが誤解というわけではないのだけれど……。


(……なんだろう。とりあえず私はまだしばらく、この人の妻でいていいのかしら……?)


 とりあえずは離縁されるまで、妻なのには間違いないのだから。

 子も儲けねばならないことを考えれば、触れてくれるだけいいと思うのだけれど……どうしてか、心がざわめいた。


 誰かに構われる(・・・・)ということにも、褒められることにも慣れていない私はきっと上手く返事ができていない。

 でも、旦那様は決して嫌な顔なんて見せない。


(ああ本当に、どこまでも優しい人)

 

 その青い目が、私に向けられる視線が優しくて、不覚にも泣きそうな気持ちになったのを私は必死に耐えるのだった。


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