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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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幕間 アレンデールは心に決めた

 初めはこの政略結婚に不満があった。

 そりゃ押し付けられた結婚だったからな。


 俺にとって、この辺境地にとって何の利があるのかと言えば王家に恩が売れた、そのくらいでしかない。

 幸い先日の小競り合いの一件は大した被害もなかったからそこまで領民の反感を買うこともなかったが、もしも大きな被害を出していたらヘレナを領民たちが受け入れることができていたかはわからない。


 その当のヘレナは本当に変わった女で、全てを諦めているのがとても気になった。

 調べたその内容が酷すぎて、だけど何不自由ない暮らしをしていたのも事実で、哀れむに哀れむことができない、そんな矛盾を俺は抱えている。


(……でも、気になるんだよな)


 別に肌を重ねたから情が湧いたってわけじゃない。

 ただ、俺と彼女は縁あって夫婦となった。これは事実だ。


 ヘレナは家族を欲しがっているのだろうと思う。

 俺に対して『夫』を求めてはいなくとも、子は欲しがっている様子だ。


 彼女は俺にいつ捨てられてもいいと思っている。

 夫に、この結婚に、周囲の人間に対して希望を抱かないでいる。

 きっとそれが、ヘレナなりの自己防衛の仕方だったんだろう。


(……それに腹が立つんだよなあ)


 確かに俺の態度は褒められたもんじゃなかったと思う。

 結婚式の当日は態度が悪かったと思うし、初夜の日の態度も良くなかった。


 だがその後ヘレナが悪い人間ではない、噂とはまったく別の人間であると知って歩み寄りたいと思ったんだ。


 辺境地を守りたい。

 だけど、もしも共に手を取り合っていける相手なら……政略結婚であったとしても、向き合ってやっていけるのではないだろうか?


「ヘレナは優秀だなあ」


 仕事をしたいという彼女のその希望は、きっといずれこの地を去る時に必要な何かを手に入れるための手段の一つなのだろう。

 それに気づいて俺は逆に利用することにした。


 仕事を理由に、彼女と共に過ごすのだ。

 そして嬉しい誤算というヤツで、ヘレナはなかなか優秀だった。

 国元にいた時は公務に携わっていなかったそうだが、異国語は複数使えるし知識も豊富で理解力もある。

 コミュニケーション能力が低いが、俺の仕事を補佐するには十分すぎるくらいだった。


(……後はどうやって彼女に対して『俺』を意識してもらうかだ)


 これまで恋愛なんて碌にしたことがなくて知識もないと言ったら、アンナから流行の恋愛小説を渡された。


 さすがに読んで「これはない」と思ったが、それでも参考にはなった。


 あれだ、溺愛ってヤツを実践していこう。

 俺の言葉が届かないなら、態度もセットでしていけばいいだろう。


 閨での言葉は偽りなんて言われるので、ベッドで囁く愛はきっとヘレナの中に残らない。

 日常的にあれこれ囁くには俺にだって恥という概念が存在するので、こうして離れで人の目もなく過ごす時に伝えていけばいいのだ。


 仕事もできて、妻も愛でられる。

 一挙両得とはまさにこのことだ。


「ヘレナ、そろそろ休憩にしよう」


「……かしこまりました」


 彼女の心を手に入れるには、相当時間が必要だろう。

 俺も家庭環境がそれなりに複雑だったから、なんとなく理解はできる。


(だけど、俺にはじいちゃんがいたからなあ)


 肉親の情というやつを、俺はきちんともらっていた。

 だけどヘレナはそれがない。


 俺は夫として愛しているのか? と問われたらまだ首を傾げるところだが、ヘレナのことは嫌いじゃないと思う。

 壊れ物の人形みたいな肢体は心配なくらいだ。

 普段から物静かだから傍にいてうるさいと思うことなんてないし、むしろもう少し笑ってくれたらいいなと思うくらいだろうか。

 それに、俺の言動に少しだけ最近は反応を返してくれるのが、嬉しい。


「ヘレナ」


「はい」


「くちづけてくれないか」


「……今は、夜ではありませんが」


「夫婦なんだから昼間でもしていいんだ」


「そ、そうなのですか……?」


 いや、そんなルール知らねえけど。

 でも俺の言葉に困惑しながらも、そっと身を寄せてくる素直なヘレナは……やっぱり嫌いじゃないから、好きなんだろう。


 大切に、してやりたいなと思ったんだ。


 これが恋かと聞かれたら、違うとはっきり言える。

 でもまあ、妻となった人を好きになっていけたらいいなと……俺はなんとなく、ヘレナとならそうできるんじゃないかなと思ったのだった。

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