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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第七十九話

 久しぶりにアレンデール様と閨を共にした翌朝。

 いつもなら私よりもずっと早起きの夫が眠ったままなのを、少しだけ不思議な気持ちで見下ろす。

 体を起こして少しだけ軋む体にむち打って衣服を整える。


 といってもきちんとしたデイドレスに身を包むのは、もう少しして侍女に手伝ってもらわなければならない。


 ベッドに戻ってもう一眠りするには目が冴えてしまった私は、ベッドに腰掛けて眠るアレン様を見つめることにした。

 眠るアレン様の姿は、貴重な気がしたから。


(昨晩は……少し、必死な雰囲気が、あった)


 離れていたせいだとか、そういうものではなくて。

 まるで私を失わないようにしているかのように、ここにいることを確かめるように。


 でもそれも仕方のない話だったのかもしれない。


 アレンデール様にとって『モレル辺境伯』という地位も、この土地も、今となっては彼を象るものだ。

 それを唐突に奪われるとしたら、彼に残るものはなんだろうか。

 

 矜持? 剣? それは確かにそう。

 だけれど、モレル辺境伯になってから得たものはここに置いていかなければならないのだろうし、それと同じくらい『辺境伯』としてやってきた実績も何もかも、投げ出していかなければならないのだ。


 これから薬草についてや、学校についてのあれこれを……と楽しげに語っていたというのにそれらをアデラ様に託しバッドゥーラに行けと、心が落ち着く前に追い出すかのように告げられたのだから当然だ。


「……私は、ずっとおそばにいます」


 イザヤやアンナはどうなるのだろう。

 彼らは元々この地で生きていくつもりだったという話だし、今はモレル辺境伯家に仕える使用人だ。


 それにバッドゥーラ側で私たちを受け入れるにしても、使用人の同伴をどれだけ認めてくれるのか……アールシュ様は好意的であっても、あちらの方々がどのように思っているかまでは今の私たちには何もわからない。


 それらの不安を、アレンデール様は王城からこちらに帰ってくるまで一人で抱えてきたに違いない。


(これからのことを考えれば、不安しかないわよね)


 アールシュ様は何も仰らなかった。

 ただ、少しだけ……多分、これは予想外の出来事だったのではないかなと私は思う。


 だって私に『アレンが早く帰ってこれるようにした』とわざわざ仰ったのだ。

 それがバッドゥーラに行くこととは結びつかない。

 いえ、あの場で何も言わなかったのだから将来的に(・・・・)そうするおつもりではあったのだろうと思う。


 おそらくそのつもりで何かを告げてあったから、アデラ様もあの反応だったのだろう。

 いずれ、アレン様から引き継ぎをして、穏やかに交代をするつもりで……それがいきなり前触れもなく前倒しになってしまってあたかも奪うかのようになってしまったのだとしたら?

 アールシュ様がどこまで(・・・・)アレン様に話していたかにもよるだろうけれど、そこに行き違いはないだろうか?


(……だめね、勝手に想像しては。あら? でも……)


 どうして、王太子殿下だったのだろう。

 アレンデール様は仰った。王太子殿下から告げられたと。


 そんな外交官として初めて常駐させるという話なのに、王太子殿下?

 国王陛下からお話が出ないことなんてあるのだろうか?


 ああ、私にはどうして政治の駆け引きについての知識がないのかしら。

 不思議だと思う気持ちは多いし、言われてみれば理解もできるけれどこうして直面してみるとわからないことばかり。

 経験が物を言うのだとしても、人に向き不向きがあるのだとすれば私はきっと向いていない人間なのだと思う。


「……ん」


「アレン様、目が覚めました?」


「……ヘレナ?」


「はい。おはようございます」


「ヘレナ……」


 まだどこか寝ぼけた様子のアレンデール様が手を伸ばして私の頬を撫でてくれた。

 安心した表情を浮かべる夫に、私はただ身を委ねるだけだ。


 ここにいると、私がアレン様に示せるのはそのくらいしかないのだから。


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