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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第七十八話

 アレン様の着替えを待って、私たちは会議室に集まった。

 全員の顔を見て、アレン様は大きくため息を一つ。


「……まず、王城で今回の噂の件、そちらは納得していただくことができた」


 よかった、とか、当然だ、とか。

 みんな何も言わなかったけれどそんな雰囲気だ。


「だが、帰り際に王太子殿下に呼ばれ、話をしてきた。……それにより、俺は辺境伯の座をここにいる先代辺境伯の妹、アデラ準男爵に譲ることとなった」


(え?)


「そして俺とヘレナはバッドゥーラ帝国に渡り、ディノス国の大使として駐在することと決まった」


 唐突な話だ。

 思わずアールシュ様に視線を向けると、彼はただ目を閉じてジッとしていた。

 ドゥルーブさんも、何も言わない。


 アデラ様に視線をやれば、彼女はテーブルの上に置いた手をきつくきつく、握りしめていた。


「これは、決定事項だ」


 アレン様の声は固い。

 覆せないことなのだろう。


「……理由を、伺っても?」


 エアリス様が恐る恐るといった様子で手を挙げる。

 先生たちは、みんな疑問だという視線をアレン様に向けていた。


「……単純に、アールシュと俺が親しくなったから都合がいいというのが一番大きい。そしてヘレナを連れていくことで、バッドゥーラの恩恵をパトレイア王国にも与えられる可能性を考えてのことらしい」


「……」


 アールシュ様は、アレン様が王城から一日でも早く戻れるように働きかけると仰った。

 これが、そうなのだろうか。


「俺の伯母であるアデラは、俺の身に万が一のことがあった場合モレル家の血筋を途絶えさせない立場として準男爵という位を与えてあった。今、それが正しく機能すると思ってくれ」


「……いつ、手続きをなさるのかな?」


「近日中に王城から辞令書が届く。大使として赴任する際は、アールシュたちと共にここを発つ。繰り返し言うが、これは決定事項だ。覆らない」


 みんなが突然のことに困惑の表情を浮かべる中、少しだけ顔色の悪いアレン様を見上げて私は不思議と落ち着いていた。


「かしこまりました」


「……ヘレナ?」


「それでは出立の準備を急ぎ調えねばなりませんね、あちらで揃えるものも多いでしょうが……アンナ、ある程度必要そうな物をリストアップしておいてくれる?」


「かしこまりました」


 やることは、わかっている。

 アレン様が気持ちの整理がつかない今、私がやれることをやればいいだけだ。


「近日中ということはそう準備に時間はないということでしょうから、アデラ様には現在の領内の仕事について引き継ぎをしなければなりません。ご夫君の扱いはどのようになりますか?」


「あ、ああ……領主として辺境伯の地位はアデラ伯母さんが、その旦那さんには今伯母さんが所持している準男爵位を与えることで体裁を整えることになっていて……」


「ではイザヤ、そのように」


「かしこまりました」


 私の言葉にアンナとイザヤが一礼して部屋を出て行った。

 俯き加減のアデラ様は顔を上げない。

 そのきつく握りしめている手に私はなんとなしに、手を重ねた。


「アデラ様、引き継ぎには多くのことが含まれます。あちらの先生たちにご協力いただいている件もありますし、そちらで明日からは忙しくなりましょう。本日はもう、お休みください」


「……ヘレナ、様」


「ね?」


「……ありがとう、ございます」


「先生方も。これからの方針等、大きく変わるかどうかはまだわかりませんが……できれば今のまま、進めていく方向でお願いいたします」


 私の言葉に、先生たちは少しだけ困惑したまま顔を見合わせて、でも笑って頷いてくれた。

 そのことにホッと胸をなで下ろしつつ、私はアレン様を見る。


「さあアレン様、部屋に戻りましょう。王城からこちらまで大急ぎでお戻りでしたもの。ゆっくりお休みいただかないと……」


「ヘレナ」


「……私もご一緒いたしますから。いいえ」


 そっと手を伸ばす。

 触れることができる距離に、アレン様がいる。


 幻ではない、本物のアレンデール様がいてくれる。


「ご一緒、させてくださいませ。旦那様」


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