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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第七十七話

「戻った」


「お帰りなさいませ、アレンデール様」


 こんなに離れていたのは、初めてだったから。

 お出迎えに、こんなに緊張したのも初めてだった。


「ああ、ヘレナ……」


 厳しいお顔をしていたアレン様が、私の姿を見てくしゃりと表情を歪める。

 そして周囲に使用人たちも、アールシュ様たちもいらっしゃるのにぎゅうっと抱きしめて来て思わず私は目を丸くしてしまった。


(とてもお疲れなんだわ)


 出かける前からアレン様は王城に行きたくないと零すこともあったし、以前少しだけパーティーの最中に〝モレル辺境伯〟ついて友好的ではない人々の声を耳にした。

 そのことを考えると、やはりアレン様にとって領地の外は敵ばかりなのだろうか。

 味方もいるとは聞いているけれど、私も経験があるからわかる。


 人の悪意は、とても心を疲れさせるものだ。


「アレン様、大切なお話があると仰っていましたが一旦お休みになってはいかがでしょう」


「……」


「アレン様?」


「そう、だな。だけど……いや」


 私の言葉に歯切れの悪い返事をして、アレン様は周りを見渡してアデラ様に視線を止める。

 アレン様の青い目が、なんだか辛そうに曇ったように見えた。


「……話をする。その後、ヘレナと過ごしたい」


「アレン様……」


 何かを堪えて、呑み込んで。

 こんなアレン様を見るのは、初めてだった。

 あの新婚初夜の日だってアレン様は複雑そうなお顔をしていたけれど、でもこんなに辛そうじゃなかったのに。


(初めてのことばかり)


 だけど、話をしたら私と過ごしたいと言ったそれは……自惚れていいのなら、私との時間が彼の癒しになってくれているのかもしれない。

 辛そうなアレン様のことは心配だけれど、私は頷いた。


「わかりました。アンナ、会議室の準備はできているわね? イザヤ、旦那様のお着替えを」


「かしこまりました」


 アレンデール様に抱きしめられたままの私から指示を受けて、アンナとイザヤがすぐに動いて他の執事や侍女たちに次々指示を出してくれる。

 アールシュ様は笑って軽く手を振り、シュタニフ先生たちはその場を離れすぐに会議室に向かってくれたようだけれど、アデラ様はそこに立っていた。


 アデラ様も、アレン様と同じように辛そうな表情を浮かべている。

 私にはそれがどうしてか、やっぱりわからない。


「……ヘレナ、すまない」


「私はアレン様の妻ですもの。……お支えできる限り、おそばにいさせてください」


「ああ。いてくれないと……困る。俺は……」


「アレン様……?」


 普段とは違う、どこか迷うそのお姿に私は戸惑うばかりだ。

 だけれどアレン様は私を抱きしめたまま、ふらりと歩き始める。


 隣を通り過ぎても、アデラ様は何も仰らなかった。

 そしてそれはアレン様もそうだった。


(仲が良いお二人だと聞いていたのに、どうして)


 つい昨日まで、アデラ様はアレンデール様に会えることを楽しみにしてらっしゃったのに。

 一体アレン様はどうしたのだろう。

 私の肩を抱くその手が、少しだけ震えている気がした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 『アレン様…。アデラ様と仲良くして下さらないのですか?』 『いや…違…違わないけど、』 『ええ。仲は悪くございませんわ…。………たぶん?』 『何故に疑問形!?』
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