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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第七十一話

 アレンデール様はまだ帰らない。

 というか、王城で足止めを喰らって帰れないのだろうとアールシュ様が教えてくださった。


 今回の件でバッドゥーラとの窓口になるであろうモレル辺境伯を囲い込むか追い落とすかで今国内貴族が暗躍を始めているのだろうと言われた。

 パトレイア王国との力関係がハッキリした今、脅威が薄まったモレル辺境伯領は豊かな資源を持つ黄金の土地に早変わりしたというわけだ。


(……みんな勝手だわ)


 アレン様のことを若く物を知らない、正当な跡取りではないのにかすめ取った……そういう噂が出ていることも耳にした。

 それについてはエアリス様が教えてくれたことだ。


「知っていることと、知らないことではその意味は大きく異なって参ります。腹は立ちましょうが、それを知って尚笑みを浮かべ対処するのがわたくしたち貴婦人の戦い方ですのよ」


「……わかりました」


 今はまだ、私にできることはただひたすらに待つこと(・・・・)だ。

 フルゴーレ様が訪ねてくる様子もなく、私は近隣の貴族たちから送られる招待状へお詫びの言葉を綴り、送り返すばかり。

 その合間にも領主がすべき書類が出てくるので、それを妻として代行する。


 難しいことは勿論、イザヤたちの手を借りる。

 アールシュ様は『そろそろ俺たちが動くことでアレンデールも帰ってこられるようになるだろう』とその日の晩に仰った。

 何をするのかと思ったけれど、一度ディノス王に『バッドゥーラとモレル領で行う取り引きについてアレンデールが来てくれないとまとまらない』という苦情を告げるのだそうだ。

 単純なそれだけに、ディノス王からアールシュ様たちが王城にお戻りになることを望むのではないかと思ったけれど……今のところはまだバッドゥーラは強く出られる側なのだとアールシュ様は嗤っていた。


 その辺りは、私にはない経験が物を言っているのだろう。

 私もこんな風に何かあったらすぐに対処できるようになれたらいいのだけれど……。


(知識ばかりあってもだめなのね)


 異国語の読み書きができることでバッドゥーラとのやりとりに私も加えていただけるのはありがたいし、経済などについても一応書物はたくさん読んだ知識は頭の中にある。

 だけどそれを生かすには、やはり何事も経験なのだとモゴネル先生もシュタニフ先生も言っていた。


 二人は知らなかったら何も始まらないけど、知っていればそれがスタートになるから大丈夫だと言ってくれたけれど……正直、もっとパトレイア王国で私は学ぶことができたんじゃないかなと反省してしまう。

 といっても、私につけられた教師は基礎教育とダンスだったわけで、そう考えると途中からは教師のいなかった状況で本にしか頼れず、その機会も失っていたのだから仕方ないと言えば仕方ないのだろうけれど。


(……私があの時諦めていなかったら、どうなっていたのかしら)


 そうしたら、この地に嫁ぐこともなかったのかと思うとなんとも複雑だ。

 たらればを考えてみたところでなんの意味も成さないことはわかっているので、私は大きくため息を吐きながら領主代行として書類に判を押しつつ確認をして、何枚かはイザヤに戻して確認をお願いする。


「いやあ、奥様が大変優秀で俺は嬉しいですよ……このままずっとお願いしたいくらい」


「え? どうしたのイザヤ」


「書類の処理能力は早いし正確ですし、嫌な顔一つせずにしてくれますし。陳情書だってきちんと目を通して面会も受け付けてくださって」


「……お役に立てているなら、嬉しいわ?」


 そんなに感動されても困るのだけれど。

 ちなみに書類の決裁方法やその他を教えてくれたのは、ほかならぬイザヤだ。

 ある意味で私の先生の一人になったイザヤは、案外大袈裟に物事を言う癖があるみたい。


「アレンデール様の妻として、努力を重ねていくから……これからもよろしくね? イザヤ」


「かしこまりました。いずれアレンデールが領主を辞した時にもついていく所存ですよ」


「まあ、頼もしいわ」


「……あいつは奥様と二人きりにしろってうるさそうですけどね」


 くすくす笑うイザヤに、私も少しだけホッとして笑う。

 そして私は最近笑っていなかったんじゃないかなと気がついて、そっとイザヤを見た。


 彼はただ、にっこりと微笑んだだけだった。


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