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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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幕間 アレンデールは帰りたい

「……なんで俺、王城で足止め喰らってんだろう」


 ぽつりと呟く自分のその言葉に、返事をくれるものはいない。

 アレンデールはヘレナの身を優先することにしてイザヤや他の腹心を全てモレル領に残している。

 勿論、今イザヤの代わりに連れてきている文官や護衛の兵たちを信頼していないかというとそうではなくて、単に気安いかどうかの違いだ。

 そこは幼馴染であったり付き合いの長さというもので生まれた絆なので、彼らに非はない。

 むしろよくやってくれているとアレンデールは思っている。


 正直なところ、今でもモレル領の中でアレンデールを領主として認めていない連中もいることは知っている。

 そんな中で、彼についてきてくれる人々に対して努力はしたいと思っているのだ。


(……王家が俺のことを心底認めてくれれば、俺の出自でうるさい連中もどうにかできると思っていたけど)


 だからこそ、政略結婚で押し付けられた『悪辣姫』を娶ることにも、何の文句も言わなかった。

 言いたいことはたくさんあったが、表向きは恭順してみせた。


 だが今は事情が異なる。

 アレンデールにとってヘレナは大切な妻になったし、彼女を脅かす者は排除したいと思っている。

 だからこそ、彼女の周辺で起きた話に王家から呼び出しが来ても早々に対処した。


 噂にあるような国に対して顔向けできないものは一つとしてないし、ヘレナはただ体調不良であること、パトレイア王国とは前回の顔合わせの後手紙のやりとりを一度しただけだということ。

 アールシュ皇子が滞在していることで周辺貴族が面会を申し込むことが多く、ただのんびりと過ごしたいという皇子の意見を優先してそれらを断っていたら勘違いを生んでしまったようだということを弁明した。


 ディノス王も王妃もそれを受け入れたが、第三王子のカルロだけが火のない所に煙は立たないとアレンデールを糾弾し続けている。

 バッドゥーラの皇子に気に入られたアレンデールのことを気に入らない他の貴族たちもカルロのことを後押ししているのだろう、それを考えると国王たちも国内の和が乱れることをよしとはできず、調査をするためにとアレンデールは王城に留め置かれることになってしまったのだ。


(ヘレナはどうしているかな……)


 自分が行かねばならない事態であることを理解して送り出してくれたが、不安そうにしていた妻の姿を思い返すとアレンデールも不安で仕方ない。

 ヘレナを連れていくべきか否かという話も出たが、体調不良であると噂を流している以上王都への道を同行させるのは矛盾が生じるとして置いて行かざるを得なかったのだ。


(アデラおばさんの方はどうしているだろうか)


 かつて誰よりも自分が辺境伯という地位に立たざるを得ない事態に陥った際、平身低頭謝ってくれた伯母はアレンデールにとって母にも似た感情を抱く相手でもあった。

 領地を継ぐ者の立場を盤石とするために、辺境伯家と取り引きのある商人と協力関係にある商家に嫁ぐことで役割を担うことを選んだ女性であり、誰よりも尊敬する祖父に似ている女性としてアレンデールはアデラのことを最も信頼していたのだ。


 そのアデラは花の流通に詳しいこともあって、例のダチュラの花がどこからどう流れているのか、どのあたりで栽培されどの業者が取り扱っているのかを調べてもらえるよう頼んだのはつい最近のこと。

 すぐに動いてくれると言ってくれたこともあり、頼りにはしているが……同時にその身を案じてもいた。


(ユルヨが、ヘレナを得るためにはまず周囲の人間を遠ざける必要がある)


 それは兵法としても定石だ。

 真っ向から向かうに手札がないのであれば、搦め手で行くしかない。

 軍事的なものとは意味がことなるとわかっていても、やることは同じだとアレンデールは考える。


 まずは、最も近い人間であるアレンデールを遠ざけた。

 その次に、誰が標的になるのだろうか。

 もしもその過程で誰かが傷を負えば優しいヘレナは自分のせいだと自己嫌悪に苦しむことになるのだろう。


 ユルヨは、そうした苦しむ姿を楽しむような異常性を持つ男だとアレンデールは認識している。

 だからこそ、今自分がすぐにでも帰れないこの状況が苛立たしい。


(……早く、帰りたいな)


 ヘレナを守るのは、他でもない自分なのだ。

 そのためにもこの場にいつまでも留め置かれることは不本意でならないが、かといって勝手な行動を取れば不利にもなる。

 アールシュがモレル領を出る前に手は打つと言っていたのでそれを待つしかないことが、今はひどくもどかしかった。


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