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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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幕間 異国の友人は悪巧みもする

「どうしました? アールシュ様」


「ああ、ドゥルーブか。いや、アレンのやつをどうしたらいいかと思ってな」


「どうしたら……ですか」


「そうだ」


 アールシュの思案顔を見て、ドゥルーブは首を傾げる。


 モレル辺境伯アレンデールとバッドゥーラの王子アールシュの二人は、まだ会って間もないというのにすっかり今や意気投合して親友である。

 そして友情を深める中で、互いの地位に対して利用する打算もあるがそれを互いに隠しもしない、稀なる友人として成立したのだ。


 その中で、アールシュはいち早く気づいていた。

 アレンデールとヘレナは、それぞれに問題を抱えている。

 それは大なり小なり人間ならば誰しもが持つような劣等感であったり、望みのようなものだが……かの夫妻は、それぞれに複雑な事情を抱えるためにそれらが未熟である。


 別にそれ自体は問題ではない。

 他者に迷惑をかけることもないし、攻撃的になるわけでもなく彼らは彼らで努力を重ねているからこそアールシュは好感が持てるのだ。


「……バッドゥーラに連れ帰ることができれば一番なんだがなあ、そうはいかないしな」


 アレンデールは辺境伯という地位を必要としていない。というよりは疎んじていると言ってもいいだろう。

 聞けば、本来継ぐはずの人間がおらず、ちょうどそこにいた……と言っては語弊があるが、妥当な人間として跡目を押し付けられたというのだから仕方ないのかもしれない。

 彼は地位や名誉を欲する男ではなく、ただ父祖の願いを叶えるために、そして自身を育ててくれたこの土地と領民に対して恩義を感じ、それを返すためだけに努力しているようにアールシュには見えた。

 

 ヘレナが王女であることを理解し、その役目を受け入れながら個人として全てを諦めているのとは真逆なのだ。


「アレンは個人としての気持ちが強い。だからこそ、正反対の夫婦として上手くやれているのかもしれないなあ」


「本質は似たようなものでしょうからね」


「俺としても、アレンの父祖が考えたという領民のためのプログラムは非常に有用で、この辺境地が育ってくれたらバッドゥーラとしてもありがたいと思う。友人としても手伝ってやりたい」


「そうですね」


「だが、連れ出してもやりたい」


 実際のところ、辺境伯という地位を逆に利用するだけの気概をアレンデールが持てばそれは彼にとって強力な手札になることだろう。

 それだけの価値がこの辺境地にあるし、そしてその価値は総じてそれを治める〝辺境伯〟という地位にあるのだから。


「まあアレンデールはそういう駆け引きが嫌いだからなあ」


「殿下がそれを仰いますか」


「アイツよりはやれるぞ?」


「まあ、そうですねえ」


「……ユルヨの件が片付いたら、俺たちは一度バッドゥーラに戻るが……すぐにこちらに戻れるよう本格的に手配をしなくてはなあ」


「連れ帰るおつもりですか」


「無理矢理にはしないさ!」


 アールシュが朗らかに笑う姿に、その目が笑っていないとドゥルーブは苦笑する。


 確かに事情を耳にしたドゥルーブもアレンデールには同情を覚えるのだ。

 出奔した父親とどこぞの酒場の女との間に生まれた彼は、本来辺境伯という地位を望むに値しない子供であった。

 そしてそれを教えられていたというのに他にいないからという理由で押し付けられたのだ。


 辺境伯となる教育どころか、貴族としての心構えを近くで見ていただけの子供に、だ。

 憧れて野心を持ち、貴族になりたい王になりたいと願う連中はどこにでもいるが、それと同じくらい望まない人間だって存在する。

 アレンデールは、後者だった。


「……モレル前辺境伯のご妹弟が継げば、丸く収まったでしょうにね」


「家を出て嫁いだり婿入りしたりしたから自分らには資格がないと固辞したそうだ」


「それはアレンデール様も同じでは?」


 彼の父親が出奔した段階で、たとえ孫であろうと基本的に身分は平民だ。

 それはディノス国の法律がそう定めているし、先代と先々代の辺境伯もアレンデールを養子縁組していない段階でそういう扱いにされてしまうのだ。


「まあ、そこはいろいろと……な」


 押し付け合いの結果、貧乏くじを引かされた今の辺境伯には同情するしかない。

 だがそのおかげで最愛の妻を得ることができたのだから、それでいいじゃないかと誰かはきっと思っていることだろう。


「なあに、ちょっと裏で手を回す準備もしておけばいいのさ。アレンデールたちのためなら、俺も頑張るくらいはするよ」


「……他国なんですから、ほどほどにお願いしますよ」


 ドゥルーブが苦笑しながらも否定しないでいれば、アールシュは楽しげに笑うのだった。


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