表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

前編

   

 その少女は目を閉じたまま、堤防の縁にちょこんと腰掛けていた。後ろから強い風が吹いてきたら、簡単に落ちてしまいそうな格好だった。

 髪はおさげで、服装はセーラー服。足には何も履いておらず、浅い海ならば、そのまま水に浸かって遊べそうだった。

 とはいえ、現在この辺りは完全に干上がっており、少女の足下ではテトラポットが剥き出しになっている。もしも落ちれば大怪我をするだろう。


「そんなところに座っていると危ないよ」

 静かに近づきながら、声をかけてみる。海辺で遊ぶ人間を危険から守るのも、私の仕事の一つだからだ。

「あら? あなたは……」

 少女はゆっくりと瞼を上げて、くりっとした茶色の瞳をあらわにする。不思議そうな表情で何か言いかけるが、最後まで言い切らず、途中で言葉を飲み込んでいた。

 私の話しかけ方が悪かったのだろうか。ならば、最初からやり直そう。

「こんにちは。ここで何をしていたのかな?」

 今度は問題なかったらしく、少女は微笑みを浮かべて、きちんと答えてくれたが……。

「波の音に耳を傾けていたの」

 不可解な回答だった。

 いや「耳を傾ける」が「聞く」という意味なことくらい、私にもわかっている。しかし、その対象が「波の音」なのは、私の理解を超えていた。完全に干上がった海で、そんなものが聞こえるはずないのだから。

「波の音……? 君には波の音が聞こえるのかい?」

「ええ、私のひと夏の思い出」

 どうやら少女は、実際に何か聞いていたわけではなく、ただこの夏の出来事を振り返っていただけ。夏に聞いた波の音を、改めて思い出していたようだ。

「ああ、なるほど。一種の幻聴ってやつだね」

「あらあら、幻聴だなんて……。あなた、ずいぶんと風情のない言い方するのね」

 少女がクスクスと笑う。屈託のない笑顔であり、彼女にその気がないのはわかっていたけれど、それでも私は、なんだか責められている気分だった。

「申し訳ない。私たちは、そういうのが聞こえるようには出来ていないから……」

「あら、大丈夫よ。だってあなたは、こうして私が見えるのでしょう? そのうちきっと、聞こえないはずの音も聞こえるようになるわ」

 少女はそう言い残して、まるで煙みたいに消えてしまう。

「……!」

 驚いた私は、急いで仲間のところに戻り、この体験を報告した。

「みんな、聞いてくれ。たった今、あそこの堤防で……」

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ