30. 公爵令嬢と決意
レイーシアが、ゲイルを運んでいると、前からセルビンが歩いてきた。何か慌てているようにも見える。
「レイーシア様、ゲイル君は運んでおくので、部屋に行ってくれますか」
「え……あの……」
何を焦っているのかわからない。
突然の事に、レイーシアが戸惑っていると、その様子にセルビンが、焦れる。
「第一王女様がいらっしゃってますので!」
「ん?」
一瞬、言われている意味を理解するために考え、驚く。
「ここにですか?」
「はい、ここにです。早めに、と言っていらっしゃったので、早くいかれたほうがいいかと」
アスタリアがここに来て、自分のことを待っている、とレイーシアは理解した。
(第一王女が、予告もなくこんなところに。)
暫く硬直し、唖然としたあと、レイーシアは駆け出す。
「じゃ、じゃあ、ゲイルの事をよろしくお願いしますね!」
はぁ、と残されたセルビンはため息をつく。
「今度は何をするつもりなのか……」
セルビンは、最近無茶振りが多い主人に祈る。主人の無茶振りがせめて出来る範囲であることを。
呼ばれたレイーシアが急いで自室に戻ると、部屋にはアスタリアとコレッタがいた。
二人共楽しそうに談話している。どうやら何かの服の話のようだ。
「あの、アスタリア様……?」
レイーシアに気づいたアスタリアが嬉しそうに笑う。
「あら、待ってたのよレイーシア。――これ、どう思うかしら?」
そう言って見せられたのは、白いワンピースのようなものだった。長い裾で、腰の辺りのリボンが可愛らしい。
「えっと……可愛らしいと思いますよ」
急な問に戸惑いながら答えるとコレッタが安心したように笑った。
「良かったです。こんなものしか用意できなくて……でも、きっと似合うと思いますよ!」
「さぁ、レイーシア。服を脱いでちょうだい。このワンピースにきがえてもらうから」
「わ、私が、着るんですか」
先程からよくわかっていなかったが、まさか自分が着せられる服だとは思っていなかった。
そもそも、レイーシアは男装しているのだ。こんなワンピースを着てしまっては、流石に女であることがバレてしまう。
レイーシアがどうするべきか迷っていると、コレッタに腕を引っ張られる。
「化粧もしましょうね!レイーシア様!私が、とびっきり可愛くしてみせます!」
「なんで、急に、そんな事を」
みるみるうちに、コレッタがレイーシアを着替えさせていく。
アスタリアがニヤニヤと笑って答えた。
「レイーシア、レザリア公爵に思いを伝えるつもり何じゃないの?」
「なっ!」
レイーシアは驚き、顔を顔を赤らめる。
(なんでそれを……)
「私がそろそろ迎えに来る頃だと思ったんでしょ。だから、最後に正体を話、思いを伝えようとした。――ちがう?」
「そう、ですね。ちゃんと騙していることを話すべきだと……そう思って」
レイーシアは、目を少し伏せながら答えると、アスタリアがレイーシアの事を抱きしめた。
「それは、私がレイーシアに無理を言ったからよ。これは……全部私の我儘なの。だから―――応援してるわね!」
「はい!」
レイーシアが笑顔で頷いたとき、着替えは終わっていた。
腰まで髪があることと、スカートのある服を着ていることに違和感を感じてしまい、そんな自分を笑う。
「じゃあ、シルヴィオ様を探してきますね!」
レイーシアは久々にはいたスカートを翻しながら、シルヴィオのもとへ向かった。