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29. 公爵様は沈思する

 「はじめまして、シルヴィオ・レザリア公爵。私はカルミアン家当主、ハラルド・カルミアンだ。……耳について言われたのは初めてだった。一人称や、話し方は単純にリサーチ不足だったね」


 目の前の人物の雰囲気が、突然ガラリと変わった。

 シルヴィオは、目の前の人物、ハラルドの言葉に混乱する。

 確かに昔、茶会か何かで見たときこんな容姿だったように思える。

 噂で聞いたとおりでもある。金色の髪に緑の瞳だ。まさかヴィアンと同じとは思わなかったが。


 「挨拶が遅れたのは謝ろう」

 「何故、ヴィアンとカルミアン公爵が同じ容姿なんだ」


 シルヴィオは素直に疑問を尋ねた。

 わからないことが多すぎる。そもそも、カルミアン公爵がここにいることさえおかしいのだ。


 容姿は瓜二つだ。まさに、一つのりんごを二つに割ったように。だが、性格は全く異なるように思える。ヴィアンは子犬のようでどこか抜けている可愛らしい性格だったがだったが、ハラルドはヴィアンとは違い、食えない感じがする。流石に公爵だからかシルヴィオを見る目に強い圧のようなものを感じる。


 「それは、ヴィアン・セルスタが、私の妹だからだ」


 シルヴィオはすっと息を吸う。

 シルヴィオの頭に、先日アスタリアから進められた婚約についてよぎる。ハラルド・カルミアンの妹、それは、レイーシア・カルミアン。なら、ヴィアンは当然公爵令嬢なわけで……。

 シルヴィオは到底公爵家の令嬢とは思えないヴィアンの姿を思い浮かべる。

 身分の高い女は、自分の母のように狡賢いか、アスタリアのようにどこか飄々としているか、傲慢なものだと思っていた。


 シルヴィオは信じられない思いと、腑に落ちる部分を半々に持ちつつハラルドの言葉に答えようと声を絞り出す。


 「そう、か……」

 「ヴィアン・セルスタではなく、レイーシア・カルミアンだ。――君は、騙されていたことに怒るか?それとも、レイーシアの事を軽蔑するか?」


 ハラルドが、観察するようにシルヴィオを見ている。

 問われ初めて自分にその感情がないことに驚いた。怒りも、失望も、軽蔑も、悲しみも、特に感じてはいない。ただ――




 自分にとって、女に騙されるということは、許せないことだった。それは、母のことがあったからだ。敬愛していた父を騙した母。母に騙され、地に落ちた父の姿を見たとき、自分は騙されることなどあってはならないと思っていた。

 その上、女に対して警戒もしていた。だから、女と関わることは最小限にし、婚約など適当に済ませればいいと思っていた。それに最初からヴィアンが女だとわかっていたら、決して自分のそばに置くことはなかっただろう。


 だが、騙されていたとわかった今でも、どうにもヴィアンを憎むことは出来ない。

 それは、騙されていたと言っても、特に何もされていないせいかもしれない。

 あるいは、自分が心底ヴィアンに惚れているからなのかも知れない。

 もしくは、少し勘づいている部分があったからか。そういった意味では、ヒントをくれたアスタリアには感謝したほうがいいのかもしれない。


 「怒りも、軽蔑もしないな」


 ハラルドはシルヴィオに興味が無くなったかのようにすっとシルヴィオから視線を外す。


 「私はもう行く。アスタリアと祭りをまわる約束をしているからね。君もそろそろレイーシアの所へ行けばいい。君の屋敷の方にいると思うよ」


 ハラルドはそのまま歩き去っていった。


 暫くしたとき、シルヴィオは思わず笑い声を上げてしまった。


 (最初は、分からなかったが)

 「見た目以外、全然似てないな」


 次は騙されることなどないと思った。

 (ヴィアンの方が、何倍も可愛いな)

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