27. 勘違いと勝負
アスタリアとハラルドは、朝からレザリア家にきていた。
アスタリアがハラルドに、レザリア領の祭りに行こうと言い出し、挨拶の為に、先にレザリア家によっていたからだ。
「アスタリア、レイーシアはここにいるのかい?」
「ええ、でも先にレザリア公爵に挨拶しに行きましょう。」
「分かっているよ。いくらレイーシアが、心配だからと言っても、挨拶くら――」
「遅かったな、ヴィアン・セルスタ!!」
ハラルドとアスタリアが会話していると、いつの間にか、目の前にいた青年がハラルドに向かって叫んだ。
青年はハラルドの事を厳しい目つきで睨んでおり、腰にあった鞘から、剣をゆっくりと抜いた。
ハラルドは心当たりがないのか、訝しげな表情をしている。
アスタリアは、この状況をセルビンからもらっていた情報から考え、推測する。
剣を抜いた青年、ハラルドをヴィアン・セルスタと呼ぶ、そして、ヴィアンとゲイルがしたという、剣の勝負の約束。
(これは……どうしましょう)
おそらく、青年はゲイル。そして、面識のないハラルドに剣を向けているこの状況は、ハラルドをヴィアンだと勘違いしているのだろう。
アスタリアはどうするべきか迷う。ハラルドには、レイーシアがここではヴィアン・セルスタという偽名を名乗っているということを話していないのだ。
「約束を守ってここに来たことは感謝する。たが、手加減はしない。――俺は、自分が何もしないでお前が、あいつと恋人になるのを黙って見るなんてできないからな!」
ゲイルが、真剣な表情でハロルドを見据え、剣を構えた。
(レイーシアと、その……コレッタという少女が恋人になると思い込んているのかしら? セルビンからはゲイルとレイーシアが剣の勝負をするとしか聞いていないのだけど……)
アスタリアは自分の笑みが引き攣るのを感じた。
(レイーシア、いつの間にこんなにややこしい事を――)
その時、ハロルドがアスタリアをさっと背中で庇い腰にさしてあった剣を抜く。
「リア、下がって」
「え?」
アスタリアはハロルドのいきなりの行動に思わず声を出してしまう。
ハロルドはゆっくり呟く。
「成程。そういう事か」
何が分かったと言うのだろうか。
アスタリアはハロルドが、何を成程と、思っているのか必死に考える。この状況をハロルドがきちんと理解している?そんなはずはない。
「俺が勝った、素直に手を引け」
「分かった。君の覚悟に敬意を払い約束しよう」
ゲイルとハラルドの間に、一触即発の空気が流れる。
その時、アスタリアの脳裏に閃く。
(もしかして、ハラルドは私を取り合ってるつもりだったり……)
アスタリアは理解すると同時に焦るが、ハッと、気がつく。
もしここで、ハラルドがゲイルを撃退すれば、レイーシアに絡まなくなるのではないか、と。
セルビンから、ハラルドはレイーシアに敵意を向けており、ことあるごとに突っ掛かっていると聞いている。それに、レイーシアの剣の腕では、到底ゲイルには勝てないのではないかと思うのだ。
ならば、ここでハラルドに勝ってもらえば、回り回って丸く収まるのではないか、と。
ゆえに、アスタリアは二人の勘違いからの勝負を心配一割、からかい九割で見守る。
沈黙に耐えかねたように、ゲイルが先に踏み込んだ。振りかぶるられた剣を、ハラルドの剣が受け止めた。
ハラルドはそのまま、剣に滑らせるように、ゲイルの剣をあしらう。
そして、かえす剣の持ちての先で、ゲイルの、顎を流れるような動きで殴った。
頭を強く揺さぶられたゲイルは、そのまま膝から崩れ落ちた。
アスタリアが久々にみた、ハラルドの動きに惚れ惚れしていると、ハラルドが、軽く息を吐いたあとに言った。
「強く突きすぎたかもね。……ここに公爵はいなさそうだし、先に街に降りてみようか」
「あれ?」
ゲイルとの約束の事を思い出し、慌てて駆けつけたレイーシアは驚く。
剣の勝負を、と張り切っていたゲイルが倒れていたからだ。
レイーシアは慌てて駆け寄ると、ゲイルの様子をみた。
外傷はそこまで酷くなさそうだ。意識を失っているだけかも知れない。
レイーシアは取り敢えず、医務室に連れて行こうとするが、上手く持ち上がらない。
(誰か呼んできたほうがいいかも)
(ヴィアンの帰りが遅いな……)
シルヴィオは、街の大通りにある広場でヴィアンを待つが、一向に戻ってくる気配がなく、心配していた。
暫くぼんやりとしていると、人混みの中に、ヴィアンが見えた気がした。
シルヴィオは徐々に離れていくその姿を、人混みの中追いかけた。
明日投稿できないかもしれません。
出来なかったらごめんなさい。