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26. 祭りと小動物

 レイーシアは、鏡の前でガッツポーズをして、気合を入れる。

 (今日こそ!ちゃんと――)


 今日は、シルヴィオに誘われていた祭りの日だ。そして、レイーシアは今日、シルヴィオにきちんと正体を話そうと思っていた。


 そして、気持ちを伝えたいとも。

 ここにいることはハラルドにバレているのだろう。

 レイーシアは兄の事を思い浮かべる。

 自分と似た容姿の、綺麗な金髪と深緑の瞳の自慢の兄だ。優しくて、少し腹黒いところがある。後は、心配性なところも。なら、何時までここにいられるかわからないのだ。だからこそ、早めに、思い残すことのないように――


 だが、どうしてもウキウキとした気分が抑えられない。

 窓の外を見ると、朝日が差し込んでおり、小鳥の声も聞こえる。


 そういえば、コレッタとゲイルも、一緒に祭りをまわると言っていたが……

 (二人は恋人なのかな?だとしたらいいな)

 優しくて元気なコレッタと真面目なゲイルならお似合いなのではないかと嬉しくなる。






 祭りだからか、左右にたくさんの露店が並び、大通りにも人が溢れかえっている。街は大賑わいだ。どうやら他領からも人がやってきているらしい。

 レザリア領に来てから、ここの街に来たことがなかったため、レイーシアは少しびっくりする。

 レイーシアが近くにあった露店の、胡桃のマフィンに釘付けになっていると、シルヴィオはどんどん歩いていく。

 レイーシアはシルヴィオを人混みの中をすり抜けながらついていく。


 ふと気づいたとき、シルヴィオを見失ってしまう。

 慌ててキョロキョロとしていたとき、


 「ヴィアン、こっちだ」


 強く腕を後に引かれ、背後から抱きとめられる。そこは、小さな路地のようになっていて、人混みを避けられそうだった。

 振り向くと、シルヴィオがいて、手には先程レイーシアが見ていた胡桃のマフィンが握られている。


 「ヴィアン、食べていいぞ」


 口の前に、マフィンか差し出される。

 レイーシアはそれを一口かじり――


 (美味しい!!)


 目を輝かせながらもぐもぐと口を動かす。りんごは大好物だが、胡桃も大好物なのかもしれない。そんなことを思いながら食べていると、いつの間にか無くなっていた。


 目の前で、じっとシルヴィオがこちらを見ている。シルヴィオの前で夢中で食べてしまった。レイーシアは途端に恥ずかしくなり頬を赤らめる。


 突然、シルヴィオの手が、レイーシアの頭の上にのび、ふんわりとした手付きで撫でる。

 レイーシアは、その感触が心地よくて、嬉しくなる。

 シルヴィオは、そのまま軽く笑うと、今度はレイーシアの手を引き、歩き出した。






 シルヴィオの心境といえばまさに、小動物とのふれあい、だった。先程から、キョロキョロと辺りを見回す様といい、その小さな口にマフィンを頬張る様子といい、まるで小さな動物のようだと思っていたのだ。

 (手を繋いでいないと逃してしまいそうだな……)


 そんな事を考えながら、暫くヴィアンと歩いていると、


 「あっ!」


 ヴィアンが突然何か思い出したように声を上げた。


 「どうした?」


 訝しげな表情をしながら聞き返すと、ヴィアンが慌てた様子で答えた。


 「あの、少し約束があった事を思い出しました。すぐに戻るので、シルヴィオ様は、そのまま楽しんでいてください!」


 早口でそう言うと、ぱっと手を離し、屋敷の方に走り出していった。


 シルヴィオはぬくもりの離れた手を名残惜しげに見る。

 (先に見て回っておくか……)

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