#4. 公爵家メイドは浮き立つ
――コレッタは、廊下の曲がり角で、誰かとぶつかった。
綺麗な髪と緑の瞳の可愛い女の子だった。
瞳がキラキラとしていて、その輝きに思わず見惚れてしまう。
彼女は、ぼんやりしている私を立たせると、心配げな顔で私を覗き込んだ。
その凛々しさと、間近で顔を見た破壊力に胸がキュッと詰まる。
後で気づいたのだが、彼女は少年のふりをしているらしく、ヴィアンという男の子っぽい名前だった。
(あんなに可愛らしいのに、何でバレないのかなぁ?)
不思議な事に、誰にもバレていないようだった。
シルヴィオを見る瞳は、完全に恋する乙女のものだと思うのだ。それに知ってか知らずか、シルヴィオの騎士の座を取られたと感じているゲイルはヴィアンに絡んでいる。
今朝もヴィアンにあったのだが……
(ヴィアンさんが健気すぎて――)
(今日も、可愛くて格好いい――)
最早、大好きなアイドルを見るファンのような視線だ。
男装姿は、勿論凛々しく格好いい。だが、男装していない姿も可憐な花のようで可愛らしい。
つまり、どちらも好きなのだ。
一度、男装していない姿を見たときから、たまにお茶に誘われるようになり、なおさらファンになってしまったのだ。
その時、シルヴィオとの関係の相談をされることもある。
嬉しそうに報告してくれる様子が可愛くて思わず頭をなでてしまった。
ゲイルには申し訳ないが、コレッタは、シルヴィオとヴィアンが上手くいくことを願っている。
だから、夜にいきなりヴィアンとケインリッヒが出かけていったときは大いに焦ったのだ。
別にケインリッヒが嫌いなわけではない、少しイラッとするときはあるが……。だが、ヴィアンにはシルヴィオがいいのだ。
(やっぱり、ヴィアンさんとシルヴィオ様の二人が一番いい!!)
そういうわけで、コレッタは日々、二人の恋の行方をそわそわと見守っているのだ。
コレッタが買い物に行こうと屋敷を出ると、丁度、前から人が歩いてくる。
金髪に緑の瞳の青年で、コレッタの見慣れた人物だ。
――だが、何処か違和感を感じる。
「少しいいかな?」
「はい。なんですか?」
先程の違和感は勘違いで、いつもどうりの様子だ。
「シルヴィオ・レザリア公爵は居るかい?」
「いえ。今はまだ王都から帰ってませんが……?」
青年が少し微笑んでコレッタに尋ねる。コレッタは答えながら気づく。
(今の質問……おかしい)
コレッタは青年の事をじっと見つめる。
―金色の髪
―整った顔立ち
―優しげな微笑み
そして、
―緑の瞳
何処も違ってなどいないはずなのに、何処か違う。
青年が不思議そうな顔をする。
「教えてくれてありがとう。それじゃあ」
コレッタの疑念を他所に、青年はあっさりと立ち去ってゆく。
立ち去って
そうだ、おかしいのだ。
(何でヴィアンさんが屋敷の外から来て、別の場所へ去っていくの……?)