♯3 新人メイドは怖がらない
――これは、ヴィアンという従騎士がレザリア公爵家に来るより4,5年ほど前の出来事。
ヴィアンもセルビンもいない頃だったため、コレッタがシルヴィオのお茶を淹れていた。
新人のコレッタにこの仕事がまわってきたのは、偏に屋敷の人手が少なかったからだ。
しかしコレッタは、みんなシルヴィオが怖いからなのではないかと疑っている。
コレッタは、シルヴィオが怖い。
だがコレッタは、シルヴィオの目が、まるで切れ味の良いナイフのように見えるのだ。あの瞳に、見られると身がすくんでしまう。
それに、あまり喋らないため、どんなふうに考えているのかよくわからないのだ。
それとも、前に使用人が怒られているところを見たせいかもしれない。
「今から持っていくのか?」
コレッタが、ティーカップをトレーにのせるのを見て、隣りにいたゲイルがそう尋ねた。
「うん。シルヴィオ様の所に……」
ゲイルは、コレッタが少し躊躇っているのを見て、ニヤニヤと笑う。
「お前まだ、シルヴィオ様の事を怖がってんのかよ」
「だって……」
コレッタは口を尖らせる。
(ゲイルだって、前は――)
そんなコレッタの気持ちを悟ったかのように言う。
「俺は別に怖がってたわけじゃない。ただ、貴族だから嫌ってただけだ。――まぁ今は違うけどな」
ゲイルは、自分の気持の変化に苦笑いする。
「怖くないから行って来い」
コレッタの頭にポンポンとゲイルの手が置かれ、軽く背中を押された。
コレッタは軽くノックをすると、恐る恐る部屋へ入る。
シルヴィオは部屋で椅子に座り、本を読んでいた。
左右には本が山積みだ。服も脱いだままになっているのが、気にしていないのかもしれない。
コレッタは出来るだけ音をたてないように動き、椅子の隣りにある机にカップを置こうとする。
その時、テンパっていたせいか、カップを倒してしまう。
「あっ!熱っ」
コレッタは慌ててカップを立てるが、中身は殆ど無い。
溢れた先を見ると、シルヴィオのズボンの上に少しかかっている。
コレッタは思わず真っ青になる。
「も、申し訳ございません!」
急いで謝るが、どうしたらいいのか分からなくなる。
「おい」
シルヴィオから声がかかる。怖くて顔を見ることができない。心臓が、ぎゅっと縮み上がる。
(――怒られる)
「おい、聞いているのか?」
「は、はい」
「お前の手に大分かかっているが……。大丈夫なのか?」
予想していた言葉も怒鳴り声もなく、ただ心配されてしまい、コレッタはポカンと呆ける
「ええと、大丈夫です」
「手を冷してからでいいから、布巾で溢れた紅茶を拭いておいてくれ」
「は、い」
コレッタはシルヴィオの言葉に引きづられるように答え、布巾を取りに戻った。
シルヴィオに心配され、途端に分からなくなってくる。
(悪い人じゃない気がする……)
我ながら、単純すぎるのではないかと思う。だが、ごく自然に心配されたのだ。嘘ではない気がするのだ。
考えてもよくわからないが、先程よりもずっとシルヴィオが近く感じられた。
(そんなに怖くないかも……)
コレッタの頭に、シルヴィオの本や服で散らかっている部屋が思い浮かぶ。
コレッタは、出来ればシルヴィオ付きの従者は必要だなぁと思った。
早く書き終わっちゃったー!♪~(´ε` )
投稿しちゃお。