20. 強欲な子爵と巧妙な嘘
シリクスは少し焦っていた。シリクスが、引き留めていた、シルヴィオの私兵を名乗る者たちから、証明のために、直接会い話がしたいといわれたのだ。流石にこれを断ってしまうわけにはいかず、応接室で、その人物を待っていた。
シリクスは、急に不安にかられる。
(大丈夫だ、シルヴィオ・レザリアは今いないはず)
必死に自分を落ち着かせる。もし、来たのがシルヴィオ・レザリアでなければ、すぐに追い返してしまえばいい。今、そんな些細な事に気を取られるようではいけないのだ。自分は、これからもっと大きくなる男だ。
気分が落ち着いてきた頃、一人の青年が、応接室に入ってきた。
綺麗な金髪に、整った顔、緑色の瞳が自分を睨むように見るのがわかった。
シリクスの顔に汗が流れる。動揺を悟られまいと、必死になる。
その人物は、シリクスでは、追い返せない人物であり、見覚えのある人物だったからだ。
(なぜ、ハラルド・カルミアンがここに――)
数ヶ月前、ここを通り帝国にいき、今も滞在しているはずだ。
しかも、前よりも少し目元が怖いのだ。
(怒って………いるのか?)
「久しぶりだな」
「は、はい。カルミアン公爵様におかれましてはご機嫌うるわしく……」
(うるわしいのか?)
シリクスはテンパりすぎて頭がまわらない。
「ほほ本日はどのようなご要件で、いらっしゃったのでしょうか?」
「連れてきた兵を通してもらおうと思ってな」
ハラルドが、少し笑いながら朗らかな様子で言うが、目は全く笑っていない。
「いえ、それはその………」
ここで了承すれば、盗賊団は返り討ちにされる可能性が高い。そうなれば、自分との繋がりも当然話すだろう。
(こんなところで!)
「早く、通してくれるね」
普通の声なのだが、何故か圧を感じる。
(どうする、どうすれば!!)
シリクスが何か逃げ道がないか考え込んでいると、ハラルドがゆっくりと目を閉じる。そのまま、呆れたように、はあ、と息を吐く。
ハラルドの目が、シリクスをとらえる。
思わず息を止め、縮み上がる。胸がムカムカとし、吐き気すら感じ始める。
「はいぃ!通っていただいて構いません!!」
ハラルドが部屋を出ていった。
目の前が真っ暗になる。これがバレれば全て終わりだ。伯爵となり、更には公爵となるという計画も。この贅沢三昧な生活も。全て終わりだ。
事態を思い、体が鉛のように重くなり、手が震え始める。いつになく胃が痛い。シリクスの胸に後悔がよぎりはじめるが、
(いや、まだだ。まだ終わったわけではない!)
シリクスは、往生際悪く、助かるための手を考える。大きな危機に、頭がいつもよりもよく回る。
シリクスがそのまま必死に考え込んでいると、天啓がごとく閃く。
(兵たちは、集団移動だ。単騎よりも遅い!ならば、今から馬を飛ばし、盗賊にこの情報を伝えれば間に合うのではないか!!)
シリクスは自分の頭脳に感嘆し、ピンチを切り抜けたことに安堵する。
(やはり自分は、公爵となる器なのだな)
このときのシリクスは気づきもしていなかった。
最近、間違った情報を数多く伝えていた為に、盗賊が、シリクスの情報を無視していたことに。
そして、今回も無視されるということにも。
早いような遅いような、今回で20話目です。ここまで続けられたことに自分でも驚いています。
お付き合いいただいた皆さんに最大の感謝を。