17. 公爵様と撫で撫で
月明かりの差し込む部屋、レイーシアは考え込んでいた。
明日の朝にはシルヴィオは、レザリア領を立ってしまう。
(昼間のこと、何か言いに行ったほうがいいかな……?)
レイーシアは自分に与えられた小部屋の中でクルクルと歩き回る。
(でも……なんていえば)
レイーシアは一度ヴィッグを外し、ベットの上に座り、百面相をしはじめる。
(そもそもなんで明日アスタリア様のところに?)
アスタリアからレイーシアへの連絡は全くなく、いつ帰るのかすら良く分からない。でも、ここでの生活は楽しいため、帰ってくるように言われるまでは、ここにいるつもりだ。
(まだ、お兄様はレビリオス帝国にいるみたいだし……)
コンコンコン、とドアが軽くノックされる音がする。
(こんな夜に……コレッタかな?)
ドアを開くと、シルヴィオが立っていた。
(……え?)
「ごめんなさい!少し準備を!」
「あ、ああ」
一度ドアを閉じ、ゆっくり深呼吸をする。
今まで、レイーシアの部屋にシルヴィオが来たことは一度もない。そのため大いに取り乱してしまう。机の上を軽く片付け、ベットをみる。
そこで、気づいてしまう。
(さっきヴィッグをとったんだった!)
慌ててヴィッグをつける。部屋の鏡でおかしいところがないか急いでチェックをする。
さっきヴィッグをつけてない状態で顔をあわせたが、大丈夫だろうかと心配になる。
(だ、大丈夫。一瞬だったから!)
自分を励ましつつ、そっともう一度ドアを開ける。
シルヴィオはぼんやりと考える。慌てて閉められた古びたドアを見やる。
(やはり、いきなり来たのは迷惑だったか……?)
つい、日を改めるべきか考えてしまう。ここに来るまでも、何度も考えていたことだ。
(もう来てしまったのだから今更だな)
暫く中でドタバタとしたあと、再びドアが開いた。
「お待たせしました。どうぞ」
前に入ったときと同じような光景が広がる。部屋に入ると、早速ヴィアンから予想していた問がかけられる。
「どうして突然私の部屋に来られたんですか?」
「お前、まだ無理をしているんじゃないか?」
ヴィアンが、うっ、と言葉に詰まる。
前に、あれだけ言ったにも関わらず、まだあの極限睡眠時間の生活をしているのだ。多少はマシになっているようだが。
「今日はちゃんと寝るのかの確認に来た」
「ちゃんと寝てます!」
「――本当か?」
「はい……多分……」
ヴィアンの目が大きく泳いでいる。ユラユラというよりザバザバといった感じだ。
(分かりやすいな。別に責めているわけじゃないんだが)
シルヴィオは少し後ろめたく思う。それは睡眠の確認云々は建前だからだ。
本当は、
(頭を撫でたい……)
という不純な動機だ。
ケインリッヒと話してからというもの、変に意識してしまい、ヴィアンとの接触が薄かったのだ。つまり、ヴィアン不足だ。
そこで、ケインリッヒが、これみよがしにヴィアンに馴れ馴れしくするものだからイライラとする。自分だって触りたいのに、だ。
シルヴィオは焦っていた。明日にはシルヴィオは出立し、あの危険極まりないケインリッヒと鈍感なヴィアンが一緒だ。つい焦ってここまで来てしまっても仕方ないだろう。
だが、ヴィアンにそれをそのまま伝えるわけにもいかない。そのための建前だった。
「ということは、今から寝るのか」
「えっ……まだ早っ――今から寝ますよ?」
(大分挙動不審だな…)
(完全にバレてる)
レイーシアはシルヴィオの呆れ顔を見てそう思った。わざわざ仕事を少なくしてもらったのに申し訳ない気がしてくる。それに、なんだか部屋にシルヴィオがいるというのも、落ち着かない。
(早く寝て有耶無耶にすればいいのでは!)
レイーシアは勢いよくベットの上に横になる。
「い、いつも寝てる時間なので、眠くなってきた気がします」
(もう少し上手く取り繕えないのか)
ヴィアンがベットに横になりながらいった言葉に思わず苦笑してしまう。強引すぎないだろうか。
ベットに近づきそっとヴィアンの髪を触る。
「えっと…その…、」
ヴィアンが何か言おうとしているが、そのまま髪をなで始める。
落ち着かない様子のヴィアンにワザと言う。
「寝ないのか?」
鈍感なヴィアンにちょっとした意地悪だ。いつも自分ばかりこうしてあれこれ考えているのだから。
ヴィアンが少し恥ずかしそうにゆっくりと目を閉じた。耳の端が少し赤く染まっていて、齧ってみたくなる。(――重症だな)
白い肌と長いまつ毛、月明りに照らされた横顔に思わず目を奪われる。
(こうしてみると、女みたいだな)
シルヴィオは首を軽く振り、その考えを消そうとする。
先程、最初に部屋のドアを開けたときもだ。ヴィアンのことが、長い髪の少女のように見えたのだ。
自分はヴィアンの事が好きなのだろう。あれだけ自分はケインリッヒに嫉妬していたのだ。認める他ないのだろう。
暫く撫でた後、手をはなす。名残惜しいが、ずっとこうしているわけにもいかないのだ。
「次起きていたら、添い寝するからな。早めに寝るんだぞ」
そう言い残して出ていったシルヴィオをレイーシアは恨む。
シルヴィオに頭を撫でられ、はじめこそ、心臓が壊れるのではないかと思ったが次第に落ち着いていき、心地よく眠れそうだった。なのに今の一言ですっかり目が覚めてしまったのだ。
(……添い寝)
してほしいが、してほしくない。顔が真っ赤になっているのが分かる。
「〜〜〜〜ッ!」
甘い響きに思わず悶えて、ベットの上でコロコロと転がる。
途中で視点を変えるのは苦手なんですが、読みづらいでしょうか……。読みづらかったら、本ッッ当にごめんなさい。応援するので頑張ってください……。