16. 従騎士と不安定な朝
レイーシアは、いつものようにコレッタに声をかけようとして気づく。
(今……男装、してない……)
髪は腰まである、胸もそのままだ。上手くごまかせる気がしない。さあっと顔から、血の気がひいていく。
コレッタは、目をまたたかせた。
「い、今のって、どういうことですか?」
「あの……コレッタ…、」
レイーシアが、何か言おうとしたとき、コレッタは、目をキラキラと輝かせ始めた。
「えー!ヴィアンさんは、ケインリッヒ様とシルヴィオ様のどちらを選ぶんですか!?」
「へ?」
「今、プロポーズされてましたよね!個人的には、シルヴィオ様なんですが―」
「ストップ!コレッタ?あの…この格好、のことは……あの…、」
コレッタが一瞬、きょとんとした顔をしたあと、納得の声を上げる。
「あ〜。私、ヴィアンさんが女の子だってことは知ってましたよ…?」
「そうなの?!いつから…?」
「最初からですね。あの王子様っぽい姿も好きなんですけど…女の子の姿もすっごく可愛いです!」
コレッタは嬉しそうに笑っているが、最初からバレていたことには少しがっかりしてしまう。
「何で分かったの?」
「えーと、最初にぶつかったときですね。何か事情があるのかと思って黙っていましたが、私、結構鋭いんですよ」
コレッタは、クスクスと楽しそうだ。
「それより、そっちの方と、シルヴィオ様、どちらを選ぶんですか?」
コレッタが詰め寄るように訊く。
「私のお勧めは、シルヴィオ様です。その方は不順な動機の香りがしますから」
「酷い言い草だね。心外だな〜」
ケインリッヒが、軽く返しつつ、部屋の奥から何か持ってくる。
「はい、どうぞ。ヴィッグとサラシね」
「ありがとうございます?」
レイーシアは何故ケインリッヒが持っているのか不思議に思いつつも、素直に受け取る。
「ゲイルとか、セルビンさんは知ってるの?」
(それに、シルヴィオ様は…?)
「ゲイルは気づいてないですよ。でも、セルビンさんは良く分からないですけど」
レイーシアがひとまずホッとしていると、ケインリッヒがコレッタに尋ねた。
「そういやコレッタちゃんは、この部屋になんの用があったの?」
「ケインリッヒ様を起こしに来たんです。そういえば、ヴィアンさんは、時間大丈夫なんですか?」
「あっ……。い、急いで準備しないと!」
コレッタとレイーシアが慌ただしく部屋を出ていく。
「はぁ、まだ質問に答えてもらってないんだけどなぁ。まぁでも、シルヴィオにべた惚れって感じだし無理かな」
ケインリッヒは、久々に会った友人の事を考え、思わず笑ってしまう。
それは、シルヴィオと、恋愛という言葉が、あまりにも結びつかなかったせいだろう。
「レイーシアちゃんは無理そうだけど、シルヴィオで遊べそうだし、からかってみるのも悪くないね」
ケインリッヒは、あの常時冷え切った顔が、慌てている姿を思い浮かべ、心躍らせる。だが、やりすぎるのは良くないかもしれない。別に二人が不仲になってほしいわけではない、ただ遊ぶだけだ。むしろ――
無邪気に両国の関係が良い事を願うレイーシア、ケインリッヒが諦めるといったときにシルヴィオが一瞬だけ浮かべていた顔。
(――あの二人、やっぱりお似合いだね)
ごめんなさい。ストーリーが迷走しながら突進しているせいで、迷子になってます。