14. 公爵様と訪問者
最近投稿遅くてすいません。
ドサッと、シルヴィオケインリッヒの前に腰を下ろす。ケインリッヒは暢気そうにアップルパイをつまんでいる。
「このアップルパイ美味しいね」
「それは、王国の北の方で穫れたりんごを使っているからな」
シルヴィオは仕方なく相槌をうつ。
「へぇー、ラインリッヒ王国は、果物が美味しいよね」
「そんなことより、だ。どうして急に来たんだ?」
「久々にシルヴィオの顔が見たくなっちゃってさー」
「さっさと本題に入れ」
ケインリッヒは終始ふざけた態度だが、シルヴィオには分かっていた。
(こいつは、何の用もなく会いに来るような奴じゃない)
目を細めてケインリッヒを見る。
ケインリッヒは、シルヴィオがレビリオス帝国に留学していた頃の友人だ。あの時からそうだった。
人懐っこい笑みで何の打算もないような顔をして、周囲の人間に取り入る。男女構わず交友関係が広く、浮いた噂も多くあったにも関わらず、いざこざに巻き込まれるようなヘマはしない。それがケインリッヒ・アルヴェルだった。
そんな彼とシルヴィオが友人たったのは、そういった腹黒い面が、嫌いではなかったからだ。ただ、のらりくらりとした態度に苛立つことは何度もあったが。
「相変わらず、堪え性がないね、シルヴィオ。でも、本当に遊びに来たようなもんだよ、もう来れなくなるかもしれないからね」
「来れなく…?」
「うん、レビリオスとラインリッヒの仲が悪くなってきたからね」
「今は、外交交渉しているはずだろう。確か……カルミアン家の………」
考え込んでいる間に、ケインリッヒが呆れた様子で答える。
「ハラルド・カルミアンね。そんなんだから、あの子が……。まぁいっか。実はその交渉が上手くいってなくてね」
「そのハラルド・カルミアンは優秀だと聞いたんだが……?」
シルヴィオはハラルドを思い出そうとする。
昔に会ったことがあるはずだ。確かヴィアンのような顔立ちで―
「盗賊団だよ。あのあたりの街道によく出ていてね。それが、ラインリッヒの所のやつなんじゃないかってなっていてね」
ケインリッヒが意味深にニヤニヤと笑っているのを見て聞く。
「本当にそうなのか?」
「違うよ。でも、国境あたりの街道を管理してる無能な子爵がいてね。ライント子爵なんだけど。ま、そいつがラインリッヒになすりつけたようなもんかなー。……本当は自分が盗賊団と繋がってんのに」
そこで、ケインリッヒの瞳が怪しく光る。
「こっからが本題なんだけど。……シルヴィオの私兵、今度の週末に貸してくんない?」
まるで何か、本でも借りるように軽く言った。
「何に使うんだ?」
「決まってんじゃん。盗賊団を懲らしめて、あの鬱陶しいライントくんを消すためだよ」
ケインリッヒの茶色い目が、暗く光る。
「まぁ、構わないが……。俺は、週末は第一王女殿下に呼ばれて王都へ行く予定だぞ」
ケインリッヒは一気に興が削がれた顔をして、脱力する。
「えー。シルヴィオがいないとうまくいかないんだけどー」
「―なら諦めろ」
「そーだね」
元々仲が良いとは言えない、王国と帝国。両国とも、他の数国と隣接している。
シルヴィオにとっても、ケインリッヒにとっても、両国の友好関係がこれ以上どうなろうと、戦争にまで発展しなければ、そこまで影響はないのだ。
しいて言うのであれば……
「これから遊びに来にくくなるかなー」
「―別に来なくてもいいぞ」
それよりも、気になることが、シルヴィオにはあった。それは、
「ヴィアンに何もしていないだろうな」
シルヴィオが部屋に入ったとき、ヴィアンの様子がおかしいように見えたことだ。
「いーや、別に」
ケインリッヒは相変わらずニコニコと笑っており、真意が掴めない。
「シルヴィオてさ………ヴィアンのこと好きなの?」
面白そうに笑っていながら聞かれた内容に、思わず動揺してしまう。
「―何を言ってるんだ…」
「やっぱり好きなんでしょ。あのシルヴィオがねー……フフッ」
動揺する自分に戸惑いながらも言い返す。
「違う。第一、ヴィアンは男だ」
ケインリッヒの目が輝く。
「じゃあ、僕がもらおうかなー?」
「……――好きに、しろ」