#1. 騎士見習いは決意する
番外編みたいなかんじの話です。
―これは、ヴィアンという従騎士がレザリア公爵家に来るより4,5年ほど前の出来事。
ゲイルは一人、剣を振っていた。振っている剣は、ボロボロだった。刃は刃こぼれし、無理な受け止め方をした部分が窪んでいる。柄もひどい有様だった。
「ひどい剣だな。そんなものでは自分の身も守れないぞ」
背後からシルヴィオの声がかかる。先程からいたが、どうやら剣を見ていたらしい。
「そうですね。ですが、そこまで安い剣ではないのですが」
「単純に使いすぎだろう。新しい剣を買え」
ゲイルの中から沸々と怒りが湧いてくる。
(簡単に言いやがって。これだから貴族ってやつは)
ゲイルが剣を変えないのは、単純にお金の問題だ。平民であるゲイルには、丈夫な剣は、少し高い。
ゲイルは一旦怒りを抑える。
(耐えろ俺!こんな奴には平民の苦労なんてわからないんだっ!)
「買えないのか?」
シルヴィオからの純粋な疑問。なんの苦労も知らないからこその疑問にイライラする。
「生憎、お貴族様と違っておかねがないもので」
つい、皮肉げに言い返してしまう。
「なら、この剣をやろう。俺が昔使っていたやつだが、悪くはない」
シルヴィオが剣を差し出す。確かに使い古されて入るが、よく切れそうで、しっかりとした剣だ。いかにも高価そうでもある。
(欲しい)
だが、
(いけ好かないな。餌付けでもしようとしているのか?)
その無造作に剣を差し出す態度も、哀れな平民へ恵んでやる、と言っているようで、ゲイルを苛立たせる。
「施しのつもりですか?そんなもの―」
「何を言っているんだ?」
本当に何を言っているのか分からないといった様子で遮られ、戸惑ってしまう。
「施しではない。投資だ。お前は将来良い騎士になると思った。だから投資だ」
「はぁ…?」
シルヴィオの言っている意味が呑み込めず戸惑う。
「お前が将来俺のもとで、その剣以上に働けばいい。分かったなら受け取っておけ」
そう言ってゲイルに剣を放り投げて去っていった。
(俺に投資……か)
その剣をゆっくりと拾う。見た目よりもずっしりとして重かった。
ゲイルはその剣をしっかりと握り、口角を上げる。
「―せいぜい、大きくしてやる」