1. お茶会と企み
明るい日差しが射し込む昼下り、レイーシアは王城の一室にいた。白と薄いピンクを基調とした可愛らしい部屋だ。目の前の小さな白い机に色とりどりのお菓子が並んでいる。
そんな部屋で、ラインリッヒ王国の第一王女であり、友人でもあるアスタリア・ラインリッヒと久々のお喋りを楽しんでいた。
「はぁ」
ふいに目の前にいるアスタリアが悩ましげにため息をつく。紅い髪は艷やかに輝き、その蒼い瞳は、困り顔でもなお美しい。
でも私は、珍しくため息をつく彼女が少し心配になる。
「どうかされましたか?アスタリア様?」
「レイーシア。そろそろ、また、お姉様とかお姉ちゃんとか呼んでくれてもいいのよ?数ヶ月後には、あなたの義姉になるのだから」
アスタリアが少し拗ねたように言った。確かにアスタリアはもうすぐ兄のハラルドと結婚して義姉となる。
レイーシアは、兄とアスタリアが並ぶ姿を思い浮かべ嬉しくなる。アスタリアが姉となることはとても嬉しい。
だが、レイーシアにはそれよりも気になることがあった。
「何故、ため息をついていらしたのですか?」
「実は……求婚されているの…」
兄の事だろうか?と、レイーシアは首をかしげる。すると、アスタリアがレイーシアの疑問を感じ取ったようにこたえる。
「いいえ、レザリア公爵によ」
「えっ……、」
レザリア公爵とは、王都から少し離れた街の領主だ。だが、最近先代が死に、その息子が当主になっていたはずだ。求婚というと、その息子からだろう。公爵家なら順当ともいえる。
それにハラルドとアスタリアは、恋人同士だがとある事情によって、正式に婚約しているとは言い難い。
(でもまさか…、ア、アスタリア様を取られてしまうなんて事が……そんなはず……!)
「うふふっ。落ち着いてレイーシア。私にはハラルドだけよ。」
顔に出ていたのか、可笑しそうにたしなめられた。
「ただ、何度も手紙がきているから少し、ね…。でも、ハラルドにはナイショよ。きっと心配してしまうから」
「で、ですが!」
「心配?レイーシア」
「はい、それはもちろん」
「レザリア公爵は悪い方ではないのよ。ただ、何故私に求婚しているのかわからないのよ」
アスタリアは整った形の眉をよせる。
(私だって公爵家の娘なのにアスタリア様のような気品は出せないわ)
「それは、家柄でしょうか?あとは……好きだからでとか……?」
アスタリアは楽しそうに笑った。
「……権力かしら。私も一応王家の娘だから王家と繋がりもできるし。後は…お金…私なら降嫁するときの支度金とかかしら…単純に暗殺という可能性も……確かレザリア公爵は隣国から帰ってきたばかりで………」
考え込むアスタリアを前にレイーシアは顔を青くする。
(暗殺……そんな……)
「ごめんなさいね、レイーシア。冗談よ」
顔を青くしたレイーシアを見てアスタリアが少し笑ってこたえる。
「そんな……心配です!」
「レイーシア、そんなに心配なら、あなたが探ってきたらどうかしら?あなたは領地にいることが多いでしょう?丁度いい気晴らしになるわ」
(確かに、アスタリア様とお兄様の助けになるなら……でも)
アスタリアは時々突拍子もない事を言う。レイーシアはいつも、結局やることになるのだ。
(…でも、毎回それをきくわけには…)
「いきなりお会いしてはシルヴィオ公爵様も驚いてしまいますし、私に素直に話してくださるとは思いませんし……」
「確かにそうね」
アスタリアがあっさりと答える。
(よかった。諦めてくださった…?)
暫く沈黙が落ち、いきなりパッとアスタリアの顔が輝く。
「なら、男装して、小姓として潜入すればいいのよ!」
「はっ……はい?」
(男装…?小姓…?)
レイーシアが混乱しているうちに、アスタリアが話を進める。
「安心して。伝手ならあるわ。決まりね!」
「待ってください!無理です!流石にバレてしまいます。」
レイーシアは慌てて止めようとするが、
「大丈夫よ。貴方はハラルドと似ているから、似合うと思うわ。顔立ちも、その綺麗な金髪もそっくりよ。」
「なっ、ならお兄様とそっくりな人が小姓として来るのは、おかしいですよね。それに、小姓にしては年齢が…」
「シルヴィオ公爵は、最近隣国から戻り、公爵家を継いだばかりだからハラルドとの面識も薄いの。それに、小姓が無理なら従騎士にすればいいわ。連絡は気にしなくていいから、楽しんできてね!」
いたずらっぽい微笑みがとても可愛らしい。新しい遊びを思い付いたからか瞳がキラキラと輝いている。
逃れられそうにない事を悟ったレイーシアは覚悟を決める。
(私は、お兄様のように剣は振るえないけれど、従騎士の振る舞い方ぐらいは勉強しておかないと……)
今回、ストックが少ないので、すぐに失速してしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。