作戦立て
「ねえ、分かった?」
登校して来た俺に、一ノ瀬が開口一番で聞いてくる。どんだけ知りたいんだか。
「たぶん柏木じゃないかな?」
一ノ瀬に昨日のLINEでのやり取りを見せると
「……そうっぽいね。柏木ちゃんか〜」
若干顔を曇らせながら机に突っ伏す一ノ瀬。意味がわからん。
「え、聞きたかった答えが聞けて喜ぶところじゃないの?」
「いや、まあ、そうなんだけど……柏木ちゃん、柏木ちゃんか〜」
歯切れが悪いな。何が不満なんだか。いや、柏木に好きな人がいるとかか? ……聞いてみるか。
「ところでさ、柏木って好きな人いるの?」
「あ〜まぁ、うん。アピールしてるけど気づいてくれないって……」
なるほど? おそらく柏木の好きな人は中村ではないと。それで歯切れが悪いのか。つまり、中村と柏木をくっつけるには、柏木が好きな人にフラれるか、熱が冷めるのを待つしかない、と。
……アピールまでしてるなら熱が冷めるのを待つのは得策ではないか。
「ちなみに柏木が好きな人って誰?」
「えっ……なんで?」
「いや、なんとなく」
ここで、『柏木の好きな人に、柏木をフッてもらえそうなら頼もうかと思って〜』とか言ってしまうと心象がマッハで下がってしまうからな!
「えぇ〜それを言うのは……いや、でもうーん」
とかなんとか、しばらく一人でぶつぶつと考え込む。
やっぱり本人の許可も無しにいったりしないか。
「あ、いや、本人のk……」
そこまで言ったところで、一ノ瀬が小声で一言。
「……aし」
「ん? なに?」
小声で聞き取れなかったので聞き返す。そうすると今度ははっきりと
「柏木ちゃんの好きな人は、石橋、おまえだよ」
「は?」
いや、意味がわからん。え? 柏木が? 俺を?
「あの、僕の聞き間違いでなければ、柏木さんの好きな人は石橋だ、と聞こえたのですが?」
無言で頷き返す一ノ瀬。
……マジかー。アピールなんてされたっけ? と思い出してみると、言われてみれば! という記憶がちらほらと……
「柏木ちゃんは、結構前からアピールしてたよ? なのに全然気づかないし」
ジト目で一ノ瀬が言う。
「いや、ただの女友達と思ってたからさ……ホントだ、今思い返すと結構アピールされてるわ」
もうラブコメの鈍感主人公を笑えねえ。
でもなぁ、俺は今のところ一ノ瀬しか眼中にないし。柏木は良いヤツなんだけど、友達って感覚以外考えられないんだよなぁ。
「そんなこと言われても……俺、好きな人いるし……」
「えっ初耳なんだけど。誰よ」
後半は消え入りそうな声で言ったにも関わらず、耳ざとく聞き取ったのか、驚きながら聞いてくる。
お前だよ! なんて言えねぇ。どうにか有耶無耶にして話を戻さないと。
「いや、今それはいいから。とにかく、俺は柏木は恋愛対象として見てない!」
「えぇ〜、そこまで断言する? 柏木ちゃんも報われないな〜」
そんなこと言われても困るんや。縋るように時計に目を向けると、予鈴が鳴る。
神様、ありがとうございます!
「チッ後でまた聞くから」
舌打ちしながら席に着く。一ノ瀬は真面目だから、授業中に話したりしないのが救いだ。
……というか、柏木が俺を好きなら話は簡単じゃないか? 柏木が俺に告白するよう仕向けて、フッて傷心してるところを中村が慰めてやれば、うまくいくのでは?
……そうだな。主人公は俺ではない。中村と柏木が付き合うように仕向けるのが目的だ。嫌われ役は脇役の仕事だ。
◇ ◇ ◇
「という訳で、柏木が俺に告るように促してくれない?」
昼休み、屋上に一ノ瀬を呼び出し、計画を伝えて頼んでみる。
「は?フラれるとわかってる相手への告白を促せと? 嫌だよ。頭どうかしてんの?」
まぁ、思った通りの反応だ。俺もそう思う。しかし、俺は別に柏木は好きじゃないんだ。
「いつも通りだよ。よく考えてみ? 中村は柏木と付き合いたい。柏木は片思い。一ノ瀬は中村の恋を応援したい。そんで俺は他の人が好きだ。うまくいけば、win-winじゃん?」
まあ、柏木の気持ちがどうかは、なんとも言えないけど。
「それは……そうだけどさ〜柏木ちゃんが……」
「中村も十二分に良いヤツだろ? 叶わない片思いより、幸せな恋人のほうが良いだろ?」
片思いが叶わないのは俺のせいだが棚にあげておく。
「いや、分かってるよ?わかってるけどさ〜良心の呵責的なものが……」
納得はしてるけど煮え切らないって感じだな。あと一押しか?
「良心の呵責があるのは、わかるよ? でもさ、一ノ瀬、こう言っただろ?」
「?」
こちらを向きながら首を傾げる一ノ瀬。
そこでニヤリと笑いってこう言い放つ。
「中村に好きな人がいるなら応援してあげたいって」