捨 て る ? ― リヒューモの逆襲 ―
前作「 捨 て る ? ― ジュリアの困惑 ―」が評価ポイント入っており、また、コメディーのデイリー100位以内に入っていて、びっくりしております。
初投稿だったので目標が1ポイント、正直0ポイントも覚悟していたので、この結果は想像もしてませんでした。
その御礼と言ってはなんですが、取り急ぎ次の作品を投稿させていただきます。
また、お楽しみいただければ幸いです。
「貴様は何をやらかしているんだ!」
突然、説明もなく親からこんなことを言われて理解できる人がどれだけいるだろうか。
大半は困惑するだろうし、人によってはリアルファイト開始するかもしれない。
あ、私はリヒューモ・シェイモ、一応男爵子息です。
騒いでいるのがゲランデ・シェイモ男爵、こんな奴ですが一応親です。
「父上、突然どうされたのですか?」
「分からぬか! 貴様のおかげで我が男爵家は破滅だ!」
いや、だからなぜ? その破滅の理由を教えてくださいよ。
父は『え、何言ってんの?』と考えているような顔をして怒鳴る。
「貴様はパンチャネラ伯爵家のご子息セルリス様を殴ったと言うではないか!」
まあ、そうですね。それが?
「そのせいで伯爵家から謝罪を求める使者が来ているのだぞ!」
「はぁ……まず、セルリス殿が学園で暴行というか暴走したのが問題であって、私は鎮圧のために殴ってます」
父がまた文句を言いかけているので説明を続ける。
「学園側でも私の行動は不問となりましたし、あの時点で殴ってでも止めなければ、もっととてつもない騒ぎになってましたよ。推測ですが、伯爵家の財産が無くなる程度の賠償金が発生する可能性がありました」
何だよ、その嘘つけみたいな怪しい顔は。
「むしろ、向こうの伯爵様が『うちの息子がやらかした際に力づくでも止めてくれてありがとう』位言えないと、あの家今回の件で潰れるかもしれませんね」
「ふっざけるな! 貴様のたわごとはうんざりだ! 出ていけ! もうお前はシェイモ男爵家の者ではない!」
なんだ、こちらの情報無視してキレるか? 全く、事態が分かっていないからと言っても馬鹿すぎんだろ。
ああ、目が死んだ魚のようになってるんだろうなぁ……嫌な癖だ。
「かしこまりました、男爵家から出ていきます。貴族籍剥奪の書類については本日中に王宮にお出しください」
「言われなくてもすぐにでも出してくるわ! 気持ち悪い眼でこちらを見るんじゃない! 二度と我が家に近寄るな!」
全く、男爵家を破滅させようとしているのはどちらだよ。
愚かな父から家を追い出された後、即刻とあるお宅を訪問し報告をさせていただいたが、さてどう転がるかな?
あの追い出された日から五日後。
「面を上げよ」
謁見の間にて陛下から声をかけられ、その場にいた貴族共が顔を上げる。
「さて、パンチャネラ伯爵からの申し出によりパンチャネラ伯爵子息セルリスとコンペテンテ公爵令嬢キャミィとの婚約破棄の提案、また同時に行われた学園での暴力沙汰について審議する」
はい。先日の私の暴行の原因となった伯爵子息が公爵令嬢へ暴力を振るった件について陛下まで出てくる話となりました。
おかげで関係者が集まって大騒ぎです。
なお、私は陛下と公爵様の『ご厚意』により別の場所から見物しております。
「まず、伯爵子息セルリスが公爵令嬢キャミィに婚約破棄を申し出たと聞いているが、これは伯爵家内で了承している話なのか?」
「はい。伯爵家として婚約破棄を求めます」
陛下の問いに伯爵は答えますが……本気?
「それは本気か? パンチャネラ伯爵」
「はい、我が家としては公爵家の望みである婚約を継続する気はありません」
陛下の重ねての問いに伯爵は自信満々に答えますが、何か勘違いしてない? あ、陛下も公爵様も呆れ始めた。
「次に、婚約破棄を公爵令嬢に申し出た時の状況を説明してくれ、パンチャネラ伯爵子息セルリス」
「かしこまりました。まず、僕が婚約破棄を申し出た際にキャミィ嬢が婚約を継続してほしいと泣きついてきまして、こちらが払いのけると、大げさに地面に倒れこみました」
陛下からの指示で伯爵子息が説明し始めたが、気づいてないのか?
周囲の温度低下に。冷気の中心である公爵は……なんだありゃ。口元は微笑んでいるけど、目だけで人を殺せそうな感じは。
「その後、キャミィ嬢に近づいたところ、後ろから元シェイモ男爵子息リヒューモが殴りかかってきまして、そこから先は殴られ過ぎて気絶しました。後で話を聞いたところでは、僕はそのまま救護室に連れて行かれたとのことです」
「ふむ、では、シェイモ男爵。そなたが元子息から聞いた話をここで述べよ」
陛下が元父に問いますが……あいつ、私とまともに話していないので、情報持っていないはずだけど。
「元息子から聞いた話では、セルリス様に暴行を加えたとしか聞いておりません。伯爵家への謝罪を求めたところ、断りましたので、絶縁し男爵家より追放させました」
まあ、聞くの途中でやめたからこれくらいしか言えないんですね。正直、無能をさらけ出したとしか思えませんが。
「ふむ、ではコンペテンテ公爵令嬢キャミィ、そなたの観点から今回の婚約破棄、そしてそれに付随した暴力沙汰について説明をしてくれんか?」
「かしこまりました」
(たゆん)
公爵令嬢キャミィ様が陛下に答えようとするが、左の頬に大きなガーゼを付けている。これ、かなり大きな傷がついたのでは?
「まず、学園の食堂にて、わたくしは友人たちと食事をしておりました。そこにセルリス様がやってきまして、わたくしの髪をつかみ、食堂から引きずり外に連れ出しました。なお、この時一緒にいた友人はローズ・ランディ侯爵令嬢とヴァイオレット・クロマティ公爵令嬢のお二人です」
ざわ……ざわ……。
まあ、ざわつきますよね。公爵令嬢の髪つかんで引きずるなんて。それも証人まで報告するくらいですから、どうあがいてもごまかせませんしね。
「その後、食堂入口で『お前のような女はつまらない。お前との婚約は破棄し、エイミーと婚約することにする』と宣言されました。なお、エイミー嬢はサンタナ子爵家のご令嬢です。それに対して『現在あなたとは婚約しておりません』とお伝えしました。そうしたら……」
キャミィ嬢は頬のガーゼを取り青くなった頬を見せた。
「『黙れ!』と左の頬を思いきり拳で殴られております。運よく歯が折れたりはしませんでしたが、ご覧の通り青あざができてしまいました」
「……」
公爵家を除く参加者は皆唖然としております。ここまでやらかしたとは想像していなかったんでしょうね。伯爵も顔色が悪くなっているようです。
「もう一度、今度は倒れこむわたくしの顔を蹴ろうとしたところで、元シェイモ男爵子息リヒューモ様が『女性に暴行するとは何事だ!』とセルリス殿を横から殴り、そのまま数回殴りつけ気絶させました。その後、友人達やちょうどその場にいたサミュエル・コベルモ大公子息と協力して、セルリス様とわたくしを救護室に連れて行っていただきました」
参加者を見てみると……うわぁ、伯爵家と男爵家が滝の如く汗かいてますね。
「そこで簡単に治療後、セルリス殿のそばにいるのは危険と判断し、リヒューモ様に護衛していただき公爵家へ帰宅致しました。その後は治療の為、公爵家で臥せっておりました」
「ふむ、コンペテンテ公爵令嬢キャミィ。怪我が治っていない状態でよくそこまで報告してくれた。礼を言う」
陛下が礼を述べ、伯爵たちへ向かいます。
「さて、パンチャネラ伯爵よ、そしてシェイモ男爵よ。汝らの報告とキャミィ嬢の報告があまりにも違いがありすぎて余も困惑しておる。そこで、汝らの発言について証人、もしくは証拠となりえる物はあるか?」
「エイミー・サンタナ子爵令嬢が……」
あ、これ証人って言葉理解してない奴だ。陛下も呆れてらっしゃるようで。
「……分かっておらぬようだから、簡単に説明しよう。本件において証人として認められないのは当事者であるパンチャネラ伯爵子息セルリス、サンタナ子爵令嬢エイミー、コンペテンテ公爵令嬢キャミィ、元シェイモ男爵子息リヒューモの4名だ。それ以外で証人たりえるものはおらぬか?」
伯爵、男爵とも沈黙してしまいましたね。
陛下は待っておられましたが回答がないと判断したのか、話を続けます。
「伯爵から証人も証拠も提示できないようだな、ではキャミィ嬢、汝の報告についての証人または証拠はあるか?」
「はい。まず食堂内の一件について、ローズ・ランディ侯爵令嬢とヴァイオレット・クロマティ公爵令嬢、また食堂入口での暴行から救護室へ連れて行かれるまでについて、サミュエル・コベルモ大公子息を証人としてお呼びしております」
「ふむ、では連れてまいれ」
騎士の皆様が証人召喚の為に動き始めましたね。
裏手で待っていた証人の皆様がやってきました。
伯爵家が証人を睨み付けていますね。彼らは皆伯爵より上の地位なんですが……喧嘩吹っ掛けないよね?
「汝らも話は聞いていたと思うので、簡潔に問うが、まず食堂内の一件についてランディ侯爵令嬢ローズとクロマティ公爵令嬢ヴァイオレット、相違ないか?」
「相違ございません」
「わたくしも相違ございませんわ。この件については完全にセルリス様の蛮行であり、これをキャミィ様の問題であると言い出すパンチャネラ伯爵家に憤りを覚えますわ」
うわぁ……ローズ様は絶対零度な反応だし、ヴァイオレット様に至っては噴火寸前にしか見えないんですけど。
あぁ、サミュエル様、気持ちはわかるけど、そこでびくつかない。
「う、うむ。では、食堂入口での一件についてコベルモ大公子息サミュエル、相違ないか?」
「はい。相違ございません。リヒューモ殿の行動のおかげでキャミィ嬢は左頬の青あざだけで済んだと私は考えております。あと一歩遅ければセルリス殿の蹴りがキャミィ嬢の顔に直撃したと推測しており、その場合、歯が折れ口や鼻から血を流し、後に残る傷をつけられていたでしょう。蹴る場所によっては骨折、失明、難聴などもありえたかと」
ざわ……ざわ……ざわ……
うん、そうなんだよね。セルリス殿は手加減する気は無かったし、そうなるとその可能性は高かったとしか言えないんだよね…あら、伯爵。何震えているんでしょ? セルリス殿から話聞いてたんでしょ?
「さて、次に、婚約破棄の部分についてだが……」
「お待ちを、陛下」
おいおい伯爵、陛下の発言を邪魔するって何様のつもりだ? ああ、陛下怒ってるし。
「我が伯爵家にキャミィ嬢を入れるわけにはいきません。先ほどの暴行容疑がどのような結果になろうと、我々パンチャネラ伯爵家は無能な令嬢の血を我が家に入れる気はありません! 仮に無理矢理押し付けてくるのなら、その服ひん剥いて裸にしたうえ、スラムに捨ててくれるわ!」
は? 何馬鹿言ってるんだこいつ? 学園のテストでで必ず5位以内に入られる令嬢を前にして無能? お前の息子は毎回最下位争いから抜けられないくせに。
と、考えていると、なんか公爵令嬢の辺りから冷気?
「……陛下」
「う、うむ。何かな?」
「伯爵家に対して物申したいことがございますが、発言の許可を」
「……ああ、構わない」
あ、陛下逃げましたね。気持ちはわかりますけど。
「さて、パンチャネラ伯爵家の皆様」
(びくっ)
うわぁ、声かけられただけで怯えてるし。
「まず一つ目、この婚約は伯爵家から公爵家に泣きついたことお忘れでしょうか?」
(サッ)
いや伯爵、いまさら視線逸らしても意味ないし……セルリス殿、なぜ驚く?
「二つ目、公爵家としてお断りしてましたが、伯爵家として王家に泣きついたことお忘れでしょうか? その時の言い分は確か、公爵家の領地で産出する鉄を伯爵家の鍛冶工房で武器防具にすることで騎士団の装備の向上を、と仰っていた記憶がありますが」
(ガタガタ)
伯爵、ばれてんのに今更なにガタついてるんだ?
「三つ目、伯爵家の発言に対して、王家から公爵家に『とりあえずやらせてみて、今より良い装備が作れるか確認したい』という話でわたくしの婚約者候補としてセルリス殿の名が挙がったことお忘れでしょうか?」
セルリス殿、『えっ?』って何? 婚約者候補となった時に聞いてるはずって公爵様言ってたが……もしかして全く聞いてなかったの?
「四つ目、その後伯爵家から供給される武器防具は剣や槍はよく折れ、盾はすぐ歪むと騎士団からクレームが入り、伯爵家の鍛冶工房を使うことは無くなったのをお忘れでしょうか?」
うわぁ……技術力なしって国から言われたってことでしょ? 他の領地からも見放されてるんじゃない? 伯爵、顔真っ青だよ?
「五つ目、四つ目の結果、セルリス殿を婚約者候補とする価値がないと王家と公爵家で判断し、既に白紙になっていることお忘れでしょうか? 確か、白紙にする際伯爵様がサインしていたと記憶しておりますが?」
え? ってことは、婚約者じゃないの? つまり、婚約者でもない無関係な女性に暴行を加えたってこと? それってかなりまずいんじゃ?
「嘘だ!」
「先ほどの五つの話のうち、鉄のやり取りについては王宮に契約書があるはずです。また、婚約者候補になったこと、白紙になったことについては王家が仲介に入って進めた話ですので、こちらも王宮に書類があるはずです」
伯爵の反論も即刻カウンター食らってますね。
キャミィ様は、ゆっくり一歩ずつ伯爵家に近づいていきます。
カツン
(たゆん)
「さて、今までの話を踏まえた上で、婚約者になったこともない、候補の立場も白紙になった者が、突然わたくしの髪をつかみ引きずり回し」
おやセルリス殿、なぜ顔色が青くなっているのでしょう?
カツン
(たゆん)
「青あざを作る程の強さで顔を殴打し、リヒューモ殿が割り込まなければ歯が折れ一生残る傷をつけようとし」
おやセルリス殿、なぜ腰を抜かしているのでしょう?
カツン
(たゆん)
「あまつさえその事実を陛下の御前で隠蔽し、学園の成績が毎回5位以内のわたくしを無能と貶め、わたくしの服を脱がせたうえで、スラムに……」
おや伯爵殿、なぜアワアワいいながら下がろうとするのでしょう?
ダン!!
(たゆんたゆんたゆん)
「 捨 て る ? 」
おやお二人とも、なぜ水たまりができているのでしょう?
「「ひぃぃぃぃ!」」
あ、うん。その悲鳴だけは理解できる。悪魔が嗤うのって今のキャミィ様のような感じなんだろうなぁ……
あ、でも他の者たち乳揺れるの見てない? 視線が微妙に下向いてるけど。
ん? お前はどうなんだって? ボクハソンナコトシナイヨ。
「このような侮辱を受けて黙っている気はありません!」
(たゆん)
「この審議の結果に関わらず、パンチャネラ伯爵家とシェイモ男爵家はコンペテンテ公爵家の敵とみなします」
(たゆん)
「今後この国でまともな生活はできないものと知りなさい!」
(たゆんたゆん)
あぁ、キャミィ様ぶち切れておられるようで、胸部装甲が暴れておられます。
公爵様は……イケイケですね。
「ちょ、ちょっとお待ちを! パンチャネラ伯爵家がコンペテンテ公爵家の敵とみなされるのは話の流れから分かりますが、我が男爵家はなぜ『本気で分からないのですか?』……えっ?」
え、あの元父、本気で分かってなかったの?
「男爵家はわたくしを助けてくれたリヒューモ殿を追放し、わたくしにいわれなき暴力を振るった伯爵家についたのでしょう? なら敵と見なされて当然では?」
当然でしょうに……なぜこの程度のことがわからないかな。
「さて、キャミィ嬢の言いたいことも言い終えたようだし、審議の結果だが、パンチャネラ伯爵家とシェイモ男爵家は爵位返上、財産没収の上、犯罪奴隷としてコンペテンテ公爵家の領地にある鉱山で働いてもらおう」
伯爵家、男爵家とも愕然とする。
「何を驚いて居る?」
陛下は一つずつカウントしながらこの愚か者どもにも分かるように説明されます。
「一つ、伯爵家は公爵家令嬢に婚約していないのに婚約者であるように振る舞い」
「二つ、暴行を働き一生消えないような傷をつけようとし」
「三つ、王家との契約を理解せず」
「四つ、学園でも上位の成績を保持する者に対して勝手に無能呼ばわりし」
「五つ、あまつさえ令嬢を裸にしスラムに捨てるだのと我が前で宣言する」
陛下はため息をつきながら
「貴族として認められない行動しかしておらんではないか」
と宣言されました。
伯爵、膝から崩れ落ちてますね。
「男爵家は伯爵家の暴走を止めるどころか加速させ、今回被害者である公爵家が不利になるような報告を行った。本来、汝の息子を信じ、ちゃんと話を聞き、公爵家側につけばむしろ評価されただろうが、唯一まともな行動をとった息子を追放し伯爵家に有利になるでたらめな報告をするのだから、許されるわけがなかろう」
元父も頭抱えてますね。
「ちなみに一生とは言わん。伯爵家、男爵家とも支払うべき賠償金を払い終えたなら平民として残りの人生を過ごすがよい」
……なんか、伯爵家、男爵家ともギリセーフみたいな感じで喜んでいるけど、その賠償金はいくらか確認しないの?
今の発言だけだと賠償額不明のまま永久に働けと言われていること理解して……いないなこりゃ。まあ、犯罪奴隷として鉱山労働となると数か月で死ぬだろうから関係ないのか?
「キャミィ嬢、敵と認識するのは構わんが、国として犯罪者の処分を先行させてもらうぞ」
「かしこまりました。犯罪奴隷から平民に戻りましたら、改めて敵認定させていただきますわ」
うわぁ、犯罪奴隷のままの方が安全な気がしてきた。伯爵家も男爵家もビビってるな。
「さて、元シェイモ男爵子息リヒューモを連れて来てくれ」
私を呼びに来たが、犯罪者どもはきょとんとしているな。
平民の作法で陛下の御前に出る。
「まず、キャミィ嬢を守ろうとしたこと、そして汝の元父の暴走を公爵家にいち早く報告したこと礼を言う」
「いえ、追放されたとはいえ貴族であったものとして当然のことです」
「ふむ。その行為に対して褒美を取らそうと思うが、希望はあるかね?」
「では、学園に卒業まで通えるよう許可と卒業までの授業料と生活費を頂戴できるとありがたいです。あぁ、生活は王都の普通の宿屋を確保できれば助かります」
生活費大事。飯食えなきゃ死んでしまうし、雨風遮れる環境って最高ですよね。
「汝がシェイモ男爵家を継ぐこともできるが?」
「それは不要です。学園卒業し、実力で文官として働ければと考えております。また今回の男爵家のやらかしに対して王家の判断を他貴族に分からせるためにも潰すことが必要かと」
「ふむ、では『き、貴様か! 貴様が告げ口したのか!』」
元父がなんかキレてるけど。陛下の発言邪魔するの?
陛下、何その視線。どうにかしろってこと?
「告げ口とはひどい発言ですね。犯罪があれば見逃さず国に報告するのは国民としておかしなことではないでしょうに。まさか、ご自分が爵位返上されるほどの犯罪行為を報告したことを騒いでらっしゃるのでしょうか? それも陛下の御前で?」
「あ……いや……その……」
馬鹿でしょ、どこで発言しているのかまだ理解してなかったの? あ、陛下呆れてる。
「話を戻すが、卒業まで学園在籍を認め、卒業まで授業料と生活費を用立てよう。それとは別に、報告について報酬を支払おう」
「よろしいのですか?」
「貴族二家を廃するほどの騒ぎで公爵令嬢を助け、実家から追放されたにもかかわらず真実を国に報告したのに褒美が授業料と生活費の捻出だけでは世間に王家が吝嗇な印象を与えかねないのでな。こちらの立場と言うものもある。受け取ってほしい」
「かしこまりました」
「ちょ、ちょっと待て。貴様、家族を助けるためにその報酬を使え!」
……ちょっと何を言ってるのか分からないですね。
「私に家族はいませんが?」
「何を馬鹿なことを言っておる! 我々は家族だろう! 我々を捨てるのか? そこまで堕ちたか! このひとでなしめ!」
なんなんでしょうね……ここまで侮辱されるとは思ってませんでしたよ。
私はゆらりと立ち上がり、男爵たちを見下ろす。
「ひっ……」
……ああ、また私の目が死んだ魚のようになっているだろうな……まあ、これが最後であってほしい。
カツン
「息子のことを信じずむしろ犯罪者を信じ、息子が状況説明したらたわごとと断じ」
……元父上、なぜ青くなっているのです?
カツン
「さっさと追放したうえ、陛下や公爵様へ犯罪者に都合のいい報告を行い」
……元父上、なぜ座ってしまうのです?
カツン
「自分の都合が悪くなったら家族を助けろ? そんなお前たちを」
……元父上、なぜ無様に下がろうとするのです?
ダン!!
「 捨 て る ? 」
「ひぃっ」
……元父上、なぜあなたから激しく臭うのです? これまさかBigBen?
「捨てて当たり前でしょう! 私はあなたたちの玩具では無い! あの日、男爵家を追放された時点であなた方は他人だ! 何が堕ちただ! 何がひとでなしだ! あなたたちが犯罪者に堕ちただけだろう!」
息が荒くなってしまいましたが、久しぶりにぶちまけた気がします。元父は別のものをぶちまけたようですが。
「全く……ここまで愚かだったとはな。連れていけ」
陛下の命により愚か者どもは牢屋にぶち込まれました。
あの謁見の間でのやりとりの後、陛下からの褒美通り継続して学園に通っています。成績もキャミィ嬢には届かないがそこそこ上位につけ、王宮への就職もほぼ確実だろう……
……と思っていたのだが、公爵家から呼ばれてしまいました……ボクワルイヘイミンジャナイヨ?
公爵家に着くと、公爵様ご夫妻とキャミィ嬢が待ち構えておりました。
キャミィ嬢は青あざもなくなり暴行前と変わらない美しさを取り戻したようでなによりです。
「リヒューモ君、来てくれてありがとう。早速だが、あの処罰についてその後を伝えるべきだと思って来てもらったんだ。まず、伯爵家と男爵家は予定通り我が領の鉱山で働かせているが、セルリスが到着二日で逃走しようとしたので処分した」
え~と処分って……多分聞かない方が幸せですよね。
「他はまだ生き残っているが、あとどのくらい耐えられるかは何とも言えんな」
ああ、墓に入るカウントダウン始まっているんですね。
「それと、あの時参加していなかったエイミー・サンタナ子爵令嬢に対しては特に何も処罰されない」
ん? 何もなしですか?
「キャミィへの暴行に加わっていないし、あの暴行の時に初めて婚約者がいたと知り、またそれがセルリスの勝手な妄想であると教えたところ、かなり混乱しているようだ。あれはある意味、巻き込まれただけだな」
あぁ、暴行前まで普通に付き合い、あの時いきなりセルリスの凶暴な行動を目の当りにし、それに加えて暴行した根拠がデタラメとあれば、そりゃ混乱しますね。
「で、本題なのだが、陛下と話をして本来あの2家が王城で処理していた仕事を我が公爵家が担当することとなった。そこで、卒業後に君にも協力してもらえないかな?」
協力と言う名の命令ですね。
「あ、ちなみに公爵家側は娘が代表として対応する。君は娘の補佐をしてほしい」
え? とキャミィ嬢を見ると、なんということでしょう。美しい笑顔と言うより獲物を狙う虎の顔となっているではあ~りませんか。
「 よ ろ し く お ね が い し ま す ね ? 」
(にこっ)
(たゆん)
「あ、え、その……」
「 に が し ま せ ん わ よ 」
(にちゃぁ)
(たゆん)
「あ、はい」
無理、絶対無理。
私のような子犬では虎には逆らえません……。
本系列作品での作者なりの評価を以下に記載しておきます。
無音:無~普
たゆん:巨
たゆゆん:爆
上が何の評価かよく分からない方
:その清らかさを大事にしてください。
作者はかなり昔に失ってしまいました……。
よくわかった方
:十分この系列作品をお楽しみいただけると信じております。
なお、作者は無音系より有音系の方が好みだったりします。
なお、前作のジュリアは『普』のつもりで書いてます。