CAR LOVE LETTER 「God bless you」
車と人が織り成すストーリー。車は工業製品だけれども、ただの機械ではない。
貴方も、そんな感覚を持ったことはありませんか?
そんな感覚を「CAR LOVE LETTER」と呼び、短編で綴りたいと思います。
<Theme:Accord Wagon(CH9),Odyssey(RB3)>
あー・・・首が痛い。
実は先日、オカマを掘られてしまってね。首を痛めてしまったんだよ。
思い起こすと、あの車はいわく付きだったんじゃないかなと思う。
私の車は、中古の出物のアコードワゴンだった。
程度も調子も申し分なく、しかも相場より10万位安かったはずだ。
私はいい買い物をしたと満足してたんだが、納車のその日から異変が起こっていたのかも知れないな。
車を受け取って帰る途中、タイヤがパンクしたんだよ。
近くにガソリンスタンドがあったから、直ぐに診てもらったらさ、物凄く長い釘が刺さっていたんだ。
「お客さん、こんな釘が刺さるなんてまずあり得ない事ですよ」と言われたが、刺さっているものは仕方ない。私はその言葉を気にとめず、まぁ修理してよと軽く流してた。
それからと言うもの、何だか知らないが車のトラブルが頻繁に起こる様になったんだ。
ファンベルトが切れて会社の近くで立ち往生して部下に助けてもらったり、狭い道のすれ違いでトラックにドアミラーをもぎ取られたり、洗車直後に三度も鳥のふんを浴びたり、高速で飛石を受けてフロントガラスにヒビが入ったり、信号待ちで小学生の自転車が突っ込んできたり。
妻も息子達も、あの車何かヤバイんじゃないの?と言っていた。
私も何となくそんな気もしたが、だからって車を替えるのもなぁと思っていた。
そうしたら極めつけがこの追突事故だ。
私が信号で停まろうとしたら、小型トラックが突っ込んで来てさ。気がついたら病院のベッドの上だった。
妻と息子達がベッドの横で泣きじゃくっててさ。私はてっきり自分は死んでしまったのかと思ったよ。
怪我はむちうち程度で済んだし、アコードワゴンもまぁ治せそうだったんだが、妻と息子達がそれに猛反対してさ。
相手から保険も出る事だし、私は車を乗り替える事にしたんだ。
ちょうど新しいオデッセイが気になっていたのでね。まぁいい機会だったのかも知れないな。
納車が近くなった頃に、妻が車のお祓いに行くのはどうか、と言ってきた。
今まで何度か車を買ったが、そういやあ一度もそんな事したこと無かった。
あんな事故の後だし、やっておいた方がいいかも知れない。
私は近場だが由緒のある神社に電話して、お祓いの予約をとった。
「あのー、車のお祓いをお願いしたいのですがねぇ。」
「いつがよろしいですか?お車は一台ですか?」
えらい事務的でさ、まるで宴会の予約をとってるみたいだったよ。
この電話口のお姉さんは巫女さんなのかなぁ?そんな事を考えながら、私は納車の日の午後一番にお祓いの予約を入れる事にした。
納車には、下の息子と妻を連れて行った。
ピカピカの新車。コマーシャルで見慣れた色だが、本当に綺麗な色だ。
このボディにキズが付くのは耐えられない。やはりお祓いしておかなければ。
新車のニオイを楽しみながら、私達は神社へと向かった。
しかし神社に着くまで、何か起こるんじゃないかと不安で仕方なかったよ。
車を駐車場に停め、社務所に顔を出す。
「あのー、今日車のお祓いをお願いしたものですが。」
すると、あーはいはいとぶっきらぼうなオジサンが現れ、じゃあここに車持って来てねと地図をよこしてきた。
地図によると、いつも初詣なんかで歩く参道を通って本殿前に車を持って行く様だ。
え〜?こんな所走っていいのかね。ちょっと不安になりつつも、玉砂利の上をゆるゆるとオデッセイを走らせた。
「ねぇ、お清めはいいのかしら?」手洗場の横を通る時に妻がそういう。
「いや、こんな所に停めて行っちゃまずいんじゃないかな?とりあえず本殿まで行こうよ。」
私はとにかく車で参道を走る違和感から逃れたくてね、先を急いだ。
本殿前には「車祓場」と書かれたスペースがあった。間違ってなかったんだな、よかったよかった。
そこでしばらく待っていると、さっきのぶっきらぼうなオジサンが衣装替えして現れた。
あ、この人神主さんだったのか。
私達はオデッセイの前に並ぶ。神主さんが深々と一礼するのに合わせて、私達も一礼。お祓いの儀式が始まった。
しかし不謹慎な話だけど、私は吹き出しそうになるのを必死で我慢してて、儀式の事なんてほとんど覚えていないんだ。
神主さんは真剣な面持ちで、能や狂言の様な抑揚で呪文の様な言葉を発してたんだけど、その随所に「ほんだ〜おで〜っせぃ〜い」なんて調子で車の名前を唱えるんだ。
もぅそれがおかしくってさ。
見ると妻も赤い顔して唇かんで、小刻に肩を震わせながら必死で耐えてたし、息子は儀式の間終始ニヤニヤしていた。
儀式が終わり、神主さんは仕事をやり遂げ爽やかな表情をしていた。
妻は何とか耐えきったぞと安堵の表情をしていた。
最後にお守りと、よくリヤウィンドゥで見るステッカーを渡される。
「これは、貼らないとまずいでしょうかね?」
「お好みで。ご利益は変わりませんから。」と神主さん。
気持ち的なものなんだろうな。まぁ、お祓い自体が気持ち的なものだからな。
オデッセイに乗り替えてからは、車のトラブルとは無縁だった。これはお祓いのご利益なのかね。
しかしある日、家族で郊外にドライブに行った時にさ、高速でアコードワゴンが走っていたんだよ。
「あれお父さんが前に乗ってたアコードワゴンじゃないの?」と下の息子。
「馬ー鹿、こんな所に居るわけないじゃん。」と上の息子。
どうやらあのアコードワゴンは修理して売られたらしいんだな。まぁそれが商売ってもんだよ。
しかし下の息子の言葉がほんの少し気になったんだ。
アコードワゴンを追い越そうと加速しようとした瞬間、何とアコードワゴンの右前輪がバーストして、私の進路を塞いだんだ!
妻と息子達の悲鳴が車内に響く。私は思い切りブレーキを踏み付けて、ハンドルを左に切った!
間一髪で衝突を回避したが、アコードワゴンは中央分離帯に激突してしまった。
ウチの家族に怪我はなかったし、アコードワゴンの方にも怪我はなかったんだけど、あれは本当に驚いたよ。それと同時にお祓いのご利益を心底強く感じたんだ。
それと言うのも、実はあのアコードワゴンさ、やっぱり私が乗ってたやつだったんだよ・・・!




