ラ・フォイ7
「あぁー甘えんのだりぃ!」
眉間にしわを寄せたクロ―ヴィスが、背凭れにもたれ掛かる。腰を据えるには喧しい喧騒の中で、学生達は名物だが安価で楽しめる狼肉を待っていた。
一人汗を流したピンギウが酒を仰いで深い溜息をつく。ルクスはクロ―ヴィスを撫で回した。
「可愛かったよ、クロ坊」
「うっせ」
クロ―ヴィスがその手を払うと、ルクスは両手で彼の頭をくしゃくしゃに撫でまわす。柔らかい髪質のせいか、ぼさぼさになった髪はクロ―ヴィスの抵抗の後にはあっさりと元に戻っていく。
「あ゛あ゛ー!やめろ、やめろ!髪が乱んだよ!」
「ははは。しかし、客寄せの仕事は慣れませんね」
「じゃあ荷下ろしやる?」
ピンギウがやや興奮気味に言う。早速回った酒のために、顔は真っ赤になっていた。バニラは彼の頭をポンと叩く。
「やめとくよ、ありがとう」
ピンギウは深い溜息の後、静かに酒を仰ぎなおした。
ルクスは給金の入った包み紙を持ち上げる。ずっしりと重たい銅貨の高い音が鳴っている。
「お、やるじゃねーか」
クロ―ヴィスもしたり顔で包み紙を持ち上げる。ルクスのものよりなお重く、銅貨の重なり合う雑多な音がカラカラと鳴っている。
「お二人とも凄いですね」
バニラはほとんど空だった革袋を机に出した。満杯とは程遠いが、硬貨が入っている事は机の音で理解できる。
「さて、誰が一番旅費を稼いだのか……」
「まぁ、僕に敵は無いからねぇ」
「どうかな?いっぱいの銅貨の方が価値が上がるかもしれねぇ」
「僕は小銭の数を数える気にはならないね」
二人は互いに勝ち誇った顔で睨み合う。ルクスの前にある酒瓶が、太い指にからめとられている。
三人は一斉に袋を開放した。じゃらり、と金の滑り落ちる音がする。クロ―ヴィスの前に置かれた酒瓶も太い指に絡めとられていく。
ルクスは銀貨を一枚ずつ積み、クロ―ヴィスは銅貨を指ではじく様して寄せ数える。バニラは、表情の違う硬貨を持ち上げ、それぞれの報酬の記憶を思い出しながら、大切に積み上げていく。彼にとっては何よりも、彼らが自分を思いこの賭けを思いつき、それによって幾人かに満足を齎せたことに満足を覚えていた。
クロ―ヴィスが机を強く叩く。幾つもの塊になった銅貨の山が声をあげた。
「……終わりっ!アイリス四半貨21枚、カペル銅貨1枚、それにヨシュアンが1枚で、締めて3と3分の1パニッツァだ!」
「フローラ銅が5枚、フローラ銀が1枚、カペル銀が1枚、締めて25パニッツァだね」
「強すぎぃ!」
「貴族の友人を買い物に誘って好きなものを買い漁らせたからねぇ。その後のたらしは、はした金だよ」
「くぅ……!バニラ、お前に託した!」
クロ―ヴィスは視線を机に向けながらバニラを指さす。バニラは静かに数少ない硬貨を積みながら、ゆっくりと手を離した。
「俺は。伯銅1枚、四半貨18枚、あと、カペル銀1枚、締めて14.1パニッツァですね」
「……まさか。たらしだけだと僕より多いのか……」
「すげ……」
二人は呆気にとられてバニラを見る。バニラは財布に硬貨を仕舞いながら、困ったように笑った。
「来た人は少なかったんですが、衣装の相談に乗っていたらたくさん買ってくれたんですよね」
「負けたよ、君がナンバーワンだ」
「あーあ、自信あったんだがなぁ」
二人はそう言うと、バニラに向けて互いの稼ぎから一割をバニラに渡す。驚き、目を見開いたバニラに対して、二人は自嘲気味な笑みを返した。
「本当のところは施しとして渡す気でいたんだが……全く大したものだよ」
バニラは硬貨と二人を見比べる。
「賞金だよ、受け取れ」
クロ―ヴィスは首を掻きながら言う。バニラは突然の幸福に何度も頭を下げ、そして小銭たちを集めた。
「そろそろ狼肉が来ますよ」
ピンギウがげっぷをする。
「っつーかお前、俺の分の酒飲んでないか!?」
ピンギウはとろんとした瞳で、「頂きました」と笑う。ルクスが頭を抱えた。
「僕の分も飲んだね、これは」
じゅう、と言う音が彼らの頭上を通過する。主人が苦笑をしながら狼肉を配膳し、空の瓶を持ちあげた。
手にこびりついた金属の匂いを洗い流すような強烈な脂の匂いと、硬く張りのある肉質のステーキが皿の上に乗る。思わずよだれが落ちそうな強烈な刺激が、彼らを手招きしていた。
「まぁいいか、乾杯がてら、バニラの健勝を讃えて、肉汁のリズムに合わせて歌うとするか!」
「お、いいねぇ!」
彼らは空のジョッキを手に取る。頭をもたげるピンギウは、少し低くジョッキを持ち上げた。
それじゃあ服を選んであげよう
流行のモードをご紹介!
君にはこれがよく似合う!丁度星の生まれもこれを示す
さぁ、これを買いたまえ、淑女諸君
美しい服は貴方の武器だ 流行のモードをご紹介!
三枚レースと、フリルのドレス、髪上げをして、着てみれば
ほらお似合いだ、買った買った!
買った分だけ俺が得するから




