第4話 旅路。勇者。
「昨日は大変な目に遭いましたね……」
「そうだね…でも、カミヤに傷一つなくて良かったよ」
「そんな…滅相もございません。それより築山様のお身体にも大事が無くて良かったです」
「ありがとう…」
アスモデウスの猛攻により、築山は身体に大きなダメージを負ったが、カミヤの回復呪文や介抱により大事には至らなかった。
築山自身、気絶しそうなぐらいに腹部に鈍痛をともなったが、なんとか今ある気力と体力で持ちこたえた感じだ。
「アスモデウスの件はなんとか逃れたとして、次は何をしに旅に出るの? 目的は?」
「そう焦らなくても良いのですが、おそらく次はコントラーク王国に出向くはずです。出向く目的は、勇者一行の情報集めです」
テーブルに乗っている朝食を食べながら、二人は会話をしている。
皿の上にあるソーセージにフォークを突き刺し、口元に運ぶと築山は、話を続けた。
「コントラーク王国ってどんな国なの?」
「コントラークは人間界に存在する4つの大陸の一つです。王国内の木々は美しく生い茂り、人々の商店や文化に活気がある所ですね」
「勇者一行の情報集めって言ったけど、それは具体的にどんなことをするの?」
「王国内の自治団体に存在する募集張り紙を見たり、城下町の人々に聞いて回ると言った所ですかね…地味で申し訳ありませんが…」
「いや…別にそんなことはないって」
地味な行為ではあるが、ゲームでいう典型的な王道パターンな事だったので、築山もイメージしやすかった。
そして、二人は朝食をすませると旅路に必要な荷造りを始め、数時間後。荷造りを終えたのち、呪文でワイバーンを呼び出し、空高く二人を乗せてコントラーク王国に向けて出発した。
あらゆる雲を抜けた先にコントラーク王国の城が見えてくる。自分たちが魔王配下の者だと分からせないように、20メートル離れた森の中に着地し、ワイバーンを空に返した。
「とりあえず、コントラーク王国の付近には着きましたね。ですが、このままでは、自分たちが魔王軍の手下だとすぐに分かってしまいます」
「…?」
「自分たちの姿を人間に変えられる呪文をかけましょう」
カミヤは人間に擬態する呪文を詠唱した。
「人間擬態」___________________
すると、築山とカミヤの地毛は瞬く間に黒色になり、身体にまとっていた魔力もすっかり感じ取れなくなっていた。
「おおっ…! 前の同じ、オレの髪色に戻った!」
「この呪文はかけた人物の年齢を変えることもできます。用途はあまりありませんが…」
「いや、用途がないわけじゃない。今は無いだけ……」
自分で言葉を止めた時、瞬時にある事を考え付く。
築山はつくづく自分が卑しく、悪知恵が働く奴だと思った。ただ、それは裏を返せば、勇者の情報を確実につかめる。確証を得られると思っての行動でもあった。
コントラーク王国。城下町のギルドに小さな少年が扉を開けてやってきた。
10歳前後だろうか、身体全体に傷だらけの鎧と剣。黒色の少年がギルドの建物内を不思議そうに見つめている。
ギルド内はたくさんの猛者たちが食事をしたり、作戦を練っていたりと、各々騒がしく賑やかにやっている。
「どうした、坊主! ここは大人以外、立ち入り禁止だぞ〜!」
「オレはとっくに大人だよ! ギルドの一団を組みにきたんだ!」
「お前さん一人で何ができるんだい? 仲間も連れていないじゃ無いか」
「くっ…!」
ギルドの所有者が少年をからかっていると、一人の少女がギルドの掲示板を見にやってきた。
少年の右横あたりだろうか、黒いショートヘアーに綺麗な銀色の鎧。そして、透き通った水色の目をしていた。
「あ、あなたは勇者ツクモ様ッ!!? なぜこんな所に……ッ!?」
「??」
黒髪の少年は、勇者と呼ばれた少女を凝視した。少年の正体は築山である。
自分の姿を10歳程度の少年にする事で、相手の善意、弱者に対する優しさにつけ込んで、情報を聞き出そうという作戦だった。ちなみに、カミヤは自分の行動を監視してもらった上で、いざという時に守護してもらうという。
勇者の肩書きがついた少女の目は鋭く、目線をオーナーにやるとその威圧感に彼も思わず、後ろへ退いてしまう。
築山にも強くそれが伝わってきて、ただ尻込みする事しかできなくなってしまった。
そんなときだった。
ギルドの外で女性の叫び声が響いた______________。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア_________________________________ッッ!!!!!」
築山と勇者であるツクモが急いで外へ出てみると、城下町の広場で一人の女性が、悪魔の人質に取られている。
咄嗟にツクモは腰に付けた剣を取り出し、目の前の悪魔に差しむける。
「助……げ…で……_______________」
「これはこれは勇者様。どうですか? 苦しむ女性の前奏曲は」
「外道め……地獄に落としてやる」
「おお、怖い、怖い。」
築山にもこの光景は街として異常な事態だとすぐに分かった。それと同時に勇者のこれからの行動に様子をうかがった。築山の本来の目的は勇者の動向、情報を手にいれる事にあるのだから。
「名を申し忘れました。わたくしは魔王直属の悪魔、《バルバトス》と申します。」
「その言葉遣いといい、さながら地獄の侯爵と言ったところか…」
「侯爵なんてとんでもない…しがない悪魔でございますよ」
悪魔バルバトス。かつては、一人の天使だったが神に背き、悪魔となった存在。ロビンフットのような帽子と金色の長髪、布の服と長い弓矢を携えながら、女性の首を腕で締めている。
「さあ、このままだとこの女性の命は消えてしまいますよ。どうしますか?」
「貴様を……殺す。いますぐにでも」
「そうこなくては!!」
侯爵の悪魔、バルバトスと勇者ツクモの戦いが今、幕をあけた。
第4話が思ってた以上に早く書き上げられて、少し嬉しいです!
ご一読された後に、感想やレビュー。評価などを頂けると励みになります!!
Twitterもやっていますので、そちらもぜひよろしくお願いします。
→@yoyogi_2629