第3話 呪文と悪魔。
「んっ……んん」
真上にあるシャンデリアの灯りで目を覚ました築山は、寝ぼけた顔を左横に向けるとそこにはカミヤの美しい顔があった。
「……!?」
「あ、あのすみませんッ!! あまりにも築山様の寝顔が可愛らしいものですから。つい……」
「ご、ごめん!! オレ、いつの間にか寝てたみたいだ」
「いえ、大丈夫ですよ。夕食のご準備はすでにできております」
自分の寝顔を見ていた事にどこか恥ずかしさを感じていたカミヤ。なんでオレの寝顔を見ただけでそんなに恥ずかしがるんだ……と築山は思いながら、眠い目をこすってテーブルの上を見ると、そこには、美味しそうな食事、食べ物が並べられていた。
「すごく美味しそうだね。もちろん君が作ったんでしょ?」
「そうですね。久しぶりに腕を振るいました!」
「早速で悪いけど、冷めてもあれだし…食べよっか」
「はい」
テーブルの椅子に腰掛けると二人は楽しく喋りながら食事を始めた。
そして、食事を終えた後、食器などを片付けたテーブルでこの世界の情勢や魔王にとっての最大の敵について二人で話し合った。
「いくつか聞きたいことがあるんだけど、まずこの世界でオレら魔王側は何と戦っているの?」
「そうですね…。軽く説明しますと、悪魔への信仰を無くした人間達に復讐する為、攻撃する魔王軍と人間界を守護する天使、または勇者達による戦い。《魔王VS勇者》と言ったところですかね」
「その最大の敵っていうのが《勇者》ってことか…」
「はい。その勇者を倒すためには七人の悪魔の存在が不可欠です。
・第1原罪
・第2原罪
・第3原罪
・第4原罪
・第5原罪
・第6原罪
・第7原罪
この七人の悪魔が人間達を殺戮し、魔力を集めることで魔王エルドラ様の力を神の次元へと高めると言われています」
「なるほど…」
短くも分かりやすい説明を受けた築山は、元エドワールの地位がどこにあったのかが気になった。
それによっては自分の権力の立ち位置や能力に反映してくると思ったからである。
「ちなみにオレはどんな地位にいた悪魔だったんだ?」
「築山様は悪魔ではありません。いや、元天使だったというのが正しいのですが…」
カミヤが説明していた、その時である。
寝室の扉が乱雑に開かれた。扉の前には一人の悪魔。腰全体に巻かれている汚れた腰巻き、角の生えた黒い長髪の頭と力強く鍛えられたごりごりの筋肉を兼ね備えた人物が立っていた。
「貴様は、アスモデウスッッ!!」
「あら、ひどいわね〜。名前を呼び捨てなんて、ちゃんと様付けしないとダメでしょ。アナタ♡」
「アスモデウス…!?」
第4原罪の一人、アスモデウス。数多いる悪魔の中でも異形の権力者であり、主に色欲、破壊などの力を司る悪魔である。異形からくる性格や口調は特徴的で、並外れた色好みはあらゆる場所で有名。
「なぜ貴様がここにいる…!!」
「なぜって、ここにいる記憶喪失の堕天使様を殺る絶好のチャンスだと思ってね…♡」
「記憶が無い無力な築山様の命を狙ってここに…!!」
築山はアスモデウスが自分の地位をおびやかす存在を消そうとしている事に気付いた。
そして、話を遮るようにして、次の瞬間。アスモデウスの怒涛の拳が築山の腹わた目掛けて、飛んでくる。
「ぐッ_____ッッ________________ッッ!!??」
「築山様ッ!!」
築山の口元から多量の血が噴き出す。戦慄。そのまま部屋の窓ガラスをぶち破り、身体ごと外へ突き飛ばされる。しかし、築山は寸分違わず、なんとか持ちこたえる。
グッと手の平を握りしめ、その充血した目でアスモデウスを見やった。
「翼竜召喚」_____________________!!!!!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
腹わたに感じる鈍痛に耐えながら、ワイバーンを召喚する呪文を見よう見まねで詠唱し、成功させた。
「ギャアアアアアアアアアアアア__________________________!!!!!!!」
「いくぞ……ワイバーン!!」
空高く天空から地上へ舞い降りたワイバーンに乗り、再び上空へと飛び上がった。
一時、避難できたと思った矢先、アスモデウスも背中の翼を広げ、ワイバーンと同じ制空圏へと飛んできた。
「お空での戦いはアナタだけの得意分野では無いのよ〜!」
「くッ_______そ_____!!」
空高くワイバーンとアスモデウスは見事な対空戦を繰り広げている。そんな中、カミヤはただその光景を見守ることしかできなかった。ここで不要な加勢すれば、築山のワイバーンと同士討ちになる可能性があったからだ。
「もう焦れったいわね〜。これで終わりにしましょ…!!」
「……!!?」
「黄金色の炎球」____________
大きな火の玉が呪文の詠唱により、天空全体に降り注ぐ。築山の乗ったワイバーンも避けきれず、その一つに当たり、大きなダメージを受けたのか、燃えさかるようにして地上へ落下してくる。
「築山様ッッ______________!!!!」
観てるだけに耐えきれず、感情に任せて叫んだカミヤ。その時である。
築山の身体が眩い黒い光を放ち、ワイバーンもろとも光が飲み込み始めた。
「なんなの、あれは。初めて見る光景だわね…」
どこか不気味に思ったアスモデウスはその黒い光と背後に下がることで距離をとった。
禍々しい黒い光はただ空中をふらふらと漂っている。
「あれは、築山様が覚醒なさる吉兆、その前ぶれ…」
「なにそれ!? あの子、覚醒なんてするの!? 聞いてないわッ、そんなのッ!!」
築山が覚醒する姿に驚きを隠せないアスモデウスを尻目に、その黒い光は突然、アスモデウス目掛けて、襲っていく。
「ぐッッ___________ッッ!!!!!」
間一髪、アスモデウスはその光を身体全体で受け止めると、そのまま全力で握り潰そうとした。
「私の腕力、受け取ってみなさいな____________ッッ!!」
「_____________________________________________________________________________」
しかし、アスモデウスは気づく。自分の身体が逆に後転させられていることに。
そして、自我のない黒い光は追撃を畳み掛けるようにして、地上に叩きつけられたアスモデウスに突進した。
「ぐはッッッ_____________!!!!!!」
「_____________________________________________________」
暴走した黒い光はその姿を変え、翼や生々しい大量の目のついた身体、腕、足。化物にも似た何かは今にも、アスモデウスの身体の肉をえぐり出そうとしている。
そんな時だった______________。
「おやめ下さい、築山様。もう決着はついております!! このままでは、あなたの身体と精神が壊れてしまいます!!」
禍々しい化物に抱きつき、その行動を止めようとするカミヤ。涙ながら、必死に暴走を止めようとする姿、思いが化物にも届いたのか、一瞬。動きを止める。
「ああ〜……もうやめやめ。私の負けだわ」
「……!?」
アスモデウスは傷だらけの身体を起こすと、手の平を広げ…腕を空にあげることで、降参の合図をした。
そして、話を続ける。
「エドワードが《堕天使ルシファー》の権威であるとは知っていたけど、こんな膨大な魔力で襲ってくるなんて、私の知識不足ね…」
「………」
攻撃する相手が力を弱めたと分かると、築山を飲み込んでいた黒い光は少しずつ薄れていき、最終的には築山とワイバーンを解放、光が消滅することでこの戦いは終幕した。
「築山様…!! 大丈夫ですか!?」
「んんッ……ッ、一体なにが起きてッ…」
「暴走していた時の記憶は無いみたいね…本当に覚醒ってやつかしら…♡」
「覚醒……ッ?」
「そうよ♡ アナタの真の姿は、第0原罪。神に最も愛された元天使。まあ、今は魔王直属の堕天使なんだけどね」
説明まじりの話をしながら、アスモデウスは驚くべき姿に変身した。筋肉質な男の身体からゴリゴリという異質な音を立て、角の生えた黒い長髪と頭はそのままに、先ほどまでは着けていなかったであろう白いワンピースと、すらりとした長身の身体を持った女性に変身したアスモデウス。見た目は人間でいうと18歳ぐらいだろうか。
「私は《色欲》を司る悪魔だから、男にも女にもなれるのよ。ぜひ覚えて帰ってね♡ ちゅっ♡」
「クソッ…!! 待て…ッ」
「築山様!! ご無理はなさらずに…」
目の前の敵を見す見す見逃すことに悔しさを滲ませながら、築山はアスモデウスが帰って行く樣を眺めることしかできなかった。
「こうして女の子に変身して誘惑してその膨大な魔力を奪おうかと思ったけど、やっぱり今日のところは帰らせてもらうわ。それにお互い、魔力も力も残ってないだろうしね♡」
話を終えるとアスモデウスは煙のように暗闇の中、姿を消していった。
築山達はこうして突然襲ってくる災難をどうにか切り抜けたのである。
少し時間はかかりましたが、やっと第3話が書き終わりました!
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