第2話 魔王城の配下。
ワイバーンに乗り、颯爽と暗闇の空を駆け抜けた築山とカミヤはしばらくして魔王城本部へとたどり着いた。ワイバーンを呪文で空高く、天空へと帰すと、一末の不安と希望を抱えながら、築山は魔王城の地へと足を踏み入れる。
「ッッ________________!!」
「肩に刺さってる矢、大丈夫!?」
「はい……これくらいなら平気です…」
カミヤは肩に刺さった一本の矢をゆっくりと抜いた。築山自身にも見てるだけで痛みが伝わってくるように感じた。
目をそむける築山を背にカミヤはその傷に呪文を詠唱する。すると、カミヤの周りに深緑色の光り玉が漂い始め、瞬く間にカミヤの傷を修復した。
「傷修復」__________________
「す、すごい。これが本物の呪文!」
「きっと記憶を戻されれば、エドワール様も再び呪文を使えるになりますよ」
「記憶か…」
築山は《エドワール》という名前にずっと引っ掛かりがあった。自分のとは違う名前で呼ばれる事になぜか不快感がある。助けてくれた彼女にはいつか真実を伝えなければならない…そう築山は感じた。
「エドワードって名前、少しオレには違和感があるんだ」
「違和感ですか…?」
「記憶が戻るまでの間、築山司って名前で呼んでもらってもいいかな?」
「なぜですか…? エドワード様には、エドワード・サイトという立派な名前があるというのに…」
「いいんだ…。昔の死んだ知り合いの名前だけは覚えていたから…それを使いたいんだ」
「……」
少しの沈黙の後、カミヤは築山に向かって微笑み、何も言わず頷いた。
「分かりました。それがエドワード様のご意向なら私は従うまでです。」
「ありがとう…」
カミヤの優しさを感じ、先ほどまでの不安が和らいだのか、築山は魔王城の本部へと歩み始めた。
魔王城に続く裏の洞窟に案内され、その先へと進む。洞窟の出口に辿り着くと、黒妖精のメイド達に帰りを歓迎された。
「お帰りなさいませ、エドワード様。魔王エルドラ様がお待ちになられております」
「エルドラ様…」
「築山様がお仕えなさっている魔王様の名前です」
「なるほど…」
その後、魔王の間に通されると50メートルをもある扉が大きな音を立てて開き、目の前の玉座には可愛らしいフリルのついたドレス、長いブラウン色の髪をした小さな幼女が気だるそうに、もたれかかるようにして座っていた。
「よくぞ旅路から帰った。余に今までの経緯を報告せよ……」
「はい、この世界の随所におかれる七人の悪魔達に戦果を聞いて参りましたが、この上なく順調に計画は遂行されています。ですが…」
「どうした…申してみよ」
「その旅路の途中で戦士達の一団に襲われてしまいまして、その時に一人…エドワード様の記憶が喪失なされました…」
「そうか…それは災難であったな」
随分物分かりがいい魔王だな…と思った築山はカミヤが報告する隣で、ひたすら沈黙し続けていた。
ここで何か良からぬ事、失言をすれば自分の命さえ危ういと感じた。たとえ幼女の姿をしているとはいえ、その発する言葉、発言からはどこか冷淡さと冷酷さが垣間見れる気がした。
「報告は以上か…?」
「はい…」
「なら良い。下がれ。十分な休息をとり、次の旅路に向け準備するが良い」
魔王の間から二人は去ると、次はダークエルフ達に寝室へと案内された。おそらく、魔王城の随所に存在する元エドワードの部屋の一つなのだろう。案内される道の途中、たくさんの扉があったのを見て築山はそう感じた。
「つ、疲れた…」
「流石にお疲れのようですね。ベットでお休みになられますか?」
「いや、大丈夫だよ。まだそこまで眠気はないから」
ベットのシーツは綺麗に整えられていて、ダークエルフ達が几帳面な性格だと分かるくらいだった。
メイドの彼女達に心の中で恐縮しつつも、ベットの上に築山は座った。
「まだお疲れでないようでしたら、これから私が料理をお作りしますのでお待ちいただけますか?」
「ありがとう、助かるよ。オレ、君にまだ何もしてあげれてないのに…」
「いえ。お心遣いありがとうございます。私は築山様のそばにお仕えできるだけで幸せですから…」
いきなりカミヤから恥ずかしいことを言われ、照れるように頭を掻いた築山は不思議と何も出来ていない自分に不甲斐無さを感じていた。実際、記憶喪失として話が通っていても、築山自身この世界の全てをまだ知らずにいるので何もできないのが実情である。
「料理できるんだ、カミヤさんは」
「カミヤさんなんて…お気遣いなさらなくてもいいんですよ。カミヤとお呼びください」
「じゃあ、カミヤはなんでエドワードって人に仕えるようになったの?」
「いきなりな質問ですね…。それは昔、人間に奴隷として売り払われる時に救っていただいたことがきっかけでした」
「奴隷…」
「はい、救っていただいた代償にエドワード様の元で仕えさせてもらう事になったんです。懐かしいですね。もう12年前のことになります」
「そっか……」
ここで初めてカミヤの過去や人物像を聞くことで築山は彼女に対する好意がさらに湧いた。自分の中で、この人だけは信用できる…と強く思える瞬間でもあった。
「色々聞かせてくれてありがとう。こうして初めてまともに喋れてよかったよ」
「それは嬉しいです。でも、なんだか前のエドワール様と違ってお優しくて、不思議な気持ちです。前はとても寡黙なお方でしたから…」
「……?」
「い、いえ! なんでもありません! お気になさらないでください!」
なぜか慌てふためくカミヤの一方で、さすがの築山も色々な修羅場をくぐり抜けてきたせいか、眠気には勝てず、そのままカミヤが話してる横でベットに横たわり、深い眠りについた。
拙い文章ですが、なんとか2話目までこぎ着けました!
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