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「魔法」を嫌う少年と、魔法少女たち。  作者: ゆーの
Prologue 『「魔法」を嫌う少年』
5/18

第5話

 ────よっと。


 肩からずり落ちそうになった通学鞄を戻すため、段ボールを一回持ち直す。結構重いせいで、持ち替えるだけでも正直一苦労だ。


 正直、この段ボールは中学生の女子が一人で運ぶような重さではないと思う。というより、中一くらいだと男子でもそこそこ厳しいだろう。


「な、一応聞くが、この荷物一人で運んでたのか?」


「⋯⋯⋯⋯え、えっと」


 ふと後ろを振り向くと、少女はまだ俺の数歩後ろを小走りしていた。どうやら、俺の歩くペースが速すぎたらしい。俺は慌ててペースを落とす。


「すまんな、歩くのちょっと速かったか」


 少女は、首をブンブンと横に振って否定の意を示してくる。その度に三つ編みに束ねられた髪が背中で跳ねるのが、どこか微笑ましい。


「なあ、ところで名前、なんて言うんだ?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯おーい?」

「⋯⋯⋯⋯わ、私ですかっ?」

「ん、ああ」


 というより、それ以外いないし。⋯⋯という無粋なツッコミはしないでおいた。


「⋯⋯さ、サエ⋯⋯⋯⋯。ノウマ、サエです⋯⋯」

「ノウマ?」


「は、はいっ!」


 名前を呼ばれたと勘違いさせてしまったか、ぷるぷると震えながら、ノウマ──、いや、さっきの少女が返事した。


「あ、いや⋯⋯、悪りぃ。珍しい名前なもんで、つい聞き返してしまっただけだ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はうっ」


 いや、そこまで恥ずかしそうにしなくても⋯⋯。確かに悪いのはこっちなんだけどさ。


「いや、こっちこそスマン。俺は榊 平介だ。よろしく頼む。ところで、『ノウマ』って漢字だとどう書くんだ?」

「えーと、能力の『能』に、間で(あいだ)で能間、です⋯⋯⋯⋯」


 そう言うと、胸ポケットから学生証を出して、俺に見えるように掲げて見せてくれた。

 どれどれ、能間咲恵、学年は──、


「えーと、中二なんだ? ⋯⋯それと荷物、ここに置いちゃっていいかな?」

「は、はいっ! ありがとうございましたっ」


 能間さんは、腰を折り曲げるようにして深々と頭を下げた。


「いや、いいって。それより、そんな感じだと小学校の時とか大変だったんじゃないか?」

「⋯⋯⋯⋯?」


 どうして? と言いたそうに首を捻る能間さん。


「いや、何かあるたびにさっきみたいに頭を下げて、その度にランドセルの中身を放流してそうだなー、っと」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はっ!」


「い、いくら私だってそんな、おっちょこちょいではないですっ! そりゃ、たまにはやりますけど⋯⋯」


 顔を赤くして、腕をグルグル回しながら抗議してくる。それが面白くて、もう少しだけからかってみたくなる。


「やるんかい」

「そ、そりゃ事故だってありますよ、ええ」

「どんくらいの頻度で?」

「なっ⋯⋯、ひ、秘密です」


 答えながら、能間さんは恥ずかしそうに目を伏せる。


「言えんのかいっ」

「だって、そりゃ⋯⋯」


 能間さんは、目に涙を浮かべながら言い淀んだ。流石に罪悪感が出てきたので、これ以上からかうのは止しておこう。


「ところで運んでおいてなんだが、コレらは何に使うんかい? 理科の授業か?」

「いえ、その⋯⋯」

「んじゃ、部活か?」

「えーと、そうじゃ、なくて⋯⋯」


 どうやら部活でもないらしい。授業で使うわけでもない、となると──。


「もしかして、一人でか?」

「⋯⋯⋯⋯」


 コクリ、と頷く。

 マジか。

 

「それと一応確認しておきたいんだが、この量を一人で使うのか?」

「⋯⋯⋯⋯?」


「 あ、いや。悪りぃ俺、園芸とかそっちの方さっぱりだから、変なこと聞いていたら⋯⋯」


「わ、私も、その⋯⋯、初心者、なので⋯⋯。

 い、一応他からも土を貰える当てがあるんですが、ま、万が一足りなかったら、困る、ので⋯⋯」


「あ、いや、そういうつもりじゃなくて」


 いい聞き方が思いつかないせいで、また能間さんが困った表情を浮かべている。自分のコミュ力のなさを呪いたくなった。


「一人で全てやるとなると、大変じゃないかと思って。何か手伝えることがあったら、また手伝うよ」

「ほ、本当ですか?」


 ぱああぁ、と効果音が付きそうなくらいの笑顔を向けられて、俺はどこか気恥ずかしくなった。


「あ、いや⋯⋯、今日は帰りに寄りたいところがあるから、また今度な」

「は、はい、よろしくお願いしますっ!」


 早口で言うと、能間さんが再び深々と頭を下げる。

 そこは指摘してもやっぱり変わらないらしい。


「そういや、ついでで一つ聞きたいんだが⋯⋯」


 能間さんは、キョトンとした様子で首を傾げた。


「そこの花壇を昼頃に手入れしていたのって、また別の人だったりするのか?」

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