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「魔法」を嫌う少年と、魔法少女たち。  作者: ゆーの
Prologue 『「魔法」を嫌う少年』
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第4話

 模試の順位を見に渡り廊下に行くと、既に何人かの生徒が掲示板を囲むようにして集まっていた。


 それをかき分けるようにして、「ごめんねぇ」と進路指導の先生が順位表の束を抱えながら入っていく。

 コピー用紙をつなげて作った順位表の束の中から一際長い順位表──、総合点の順位表を引きずり出すと、先生は画鋲片手に大きく背伸びをした。


「おっ、どうだどうだ? 榊の成績は⋯⋯、っと」

「自分のを見ろよ、まずは」

「いーじゃん、そんくらい」


 先生が画鋲で止めていくのを、平林は目を細めながら見る。


「おっ、総合六位じゃん。スゲーな、相変わらず」

「ええと、どれどれ?」


 言われて初めて、順位表を見てみる。確かに、六位のところに俺の名前が入っていた。


「んで、お前は?」

「ああ、化学と物理に、ちょっとだけ。 数学の方にも入っているけど、かなり下の方だよ」


 笑いながら言うけど、この学校で順位表に載るには相応の成績が必要だ。何だかんだで、平林も結構頭がいいのだ。


「とはいうものの、やっぱり⋯⋯だよな」

「ああ。スゲェよな⋯⋯」


 二人して見上げるのは、順位表の最上欄に堂々と並ぶ、とある女子の名前だった。


「『アイノ・ラウリ』、か⋯⋯」


 英語フルスコアに、理数教科は堂々たる9割後半。国語・地歴についてはトップの座を譲っているものの、決して悪い点数だとは言えない。


 ちなみに名前からも察せるとは思うが、彼女は留学生だ。


 出身は北欧あたりらしく、腰まで届くくらいの金色の髪に青い瞳が特徴的である。その漫画の中から出てきたかのような外見から、男子の間ではかなり人気がある。


 この前聞いた話だと、彼女の母国語は日本語ではないそうだ。

 それでいて日本語は普通に喋れるそうだし、当然日本語の授業やテストなども難なくこなしているのだから──。


「⋯⋯やっぱバケモノだよな」

「ああ。本人には失礼だとは思うが、同意するよ」


 ちなみに、アイノ氏の猛威は定期テストでも収まることはなく。むしろ地理・公民では模試の挽回と言わんばかりにトップを奪還していうくのである。

 その有様には、上位陣を次々に恐怖のドン底へと叩き込んだ──、と言われている。


 俺はまあ、順位はあまり気にしない派なのでそれほどでもなかったが。


「んじゃ、帰るか」

「おう、俺は部活の方へ行くから。じゃあな」

「おう、また明日」


 平林と別れた俺は、再び昇降口の方へと向かうのだった。



 模試の順位表の前で立ち話をしていたせいで、昇降口を出るのが今日は少し遅めになってしまった。

 そのせいで運動部の走り込みの時間と重なってしまい、俺はその隙間を縫うようにして高校棟を後にする。


 それにしても──、暑い。


 早くも鳴き始めたセミにうんざりしつつ、俺は恨めしげに太陽を睨みつける。


 昨日まではどんよりとした雨模様だったのに、今さっき梅雨明け宣言が出たと思いきや、清々しいまでの快晴だ。

 昼に屋上に上がったときは、わずかに雲が出ていただけまだマシだった。


 ──早く帰って涼むか。


 そんなことを考えつつ、歩いていたその時だった。ぽふっ。⋯⋯と、俺の腕が何かにぶつかった。


「おおっと、悪い」


 反射的に謝りつつ、俺は距離をとる。

 どうやら俺は──、大きな段ボールを運んでいた小柄な少女とぶつかってしまったようだ。


「⋯⋯⋯⋯」


 少女は前が見えなくなるほど大きな段ボールを抱えている。その中身が重いせいだろう、少し腕が震えている。


 高等部の制服とはまた違った、赤のチェックの入った明るいデザインの制服を着ているところを見るに、彼女はまだ中学生なのだろう。


 長い髪は後ろで三つ編みに束ねてあり、その顔立ちにはまだ少しあどけなさが見られる。


「あ、あのぉ⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」


 俺がいくら声をかけようとも、少女は一言も発しない。


 それどころか、段ボール越しに俺の方が見えるように顔をほぼ直角に持ち上げたまま、俺から目線を逸らそうとしなかった。


 ⋯⋯もしかして、かなり怒ってる?


 そう考えた俺は、速攻で頭を下げた。


「悪かった! ⋯⋯さっきまで俺、よそ見しながら歩いてたからぶつかるまで気がつかなかったもんで⋯⋯、ぶつかって本ッ当にスマン!」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯あれ?」


 二人の間に流れる、謎の沈黙。


「⋯⋯⋯⋯? あっ!」


 しばらく俺の顔を見つめたままになっていた少女は、ようやく状況を察したという様子で、ガバッと頭を下げた。


「いえいえいえいえ、私こそぶつかってごめんなさいっ! ⋯⋯ってうわわわっ!」


 段ボールごと頭を下げた結果、蓋がしっかり閉められてなかった段ボールの中からザザーっと音を立てて物が落ちていく。


「あちゃー⋯⋯」


 中に入っていたのは、園芸用の土と錆びかけのシャベル数本だった。


 土の入った袋が未開封だったため、土を撒き散らすような大惨事にはならなかった。それだけが不幸中の幸いだろう。


「ほら、片付けるから一旦段ボールを下に置いてくれ」

「⋯⋯⋯⋯は、はいっ!」


 段ボールを下に置かせると、その中に土の袋とシャベルをバランスを見ながら詰め込む。そして、段ボールの蓋を互い違いになるように重ねてから、一気に持ち上げる。


「これでよし⋯⋯っと。結構重いな、コレ。んで、どこに持っていけばいい?」

「⋯⋯⋯⋯わ、渡り廊下」

「ん、中学棟と高校棟の間のでいいか?」


 少女は、コクコクと頷いた。


「りょーかい。んじゃ、行くか」


 少女の返事を待たず、俺は渡り廊下へと歩き始めた。

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