第四話 学校専用物
【二時間目】
−親友−
「なあノブ、今日どうする?」
「やっぱいつも通り俺ん家でいんじゃん?」
「またかよ?たまにはさあほら、アレだよほら」
「アレじゃわかんねーよ」上山と話しているのは高杉伸也。上山の親友に当たる存在だ。彼らは学校でも日常生活でもたいてい一緒にいる。
「うーし席つけー授業始めるぞー」
ガラガラと扉を開け入って来たのは理科の浅井だ。彼は南野のようなきっちりかっちりしたような性格とは打って変わり、だらだらした感じの『先生』だ。そのためか皆からは好かれている。特に原田は理数系は好きなため浅井の事はかなり尊敬している。
「チッやってらんねー」
だが上山は浅井の事は、いや、どんな先生だろうと信じていないだろう。彼が信じているのはただ一人、高杉だけだ。
「先生〜俺とノブは休みま〜す」
「お〜わかった〜速やかに出ていけ〜」
「は〜い」
上山と高杉はスタスタと出ていってしまった。
「うんじゃ始めるぞ〜」
「先生!」
と、そこで原田が挙手をした。フォームがすばらしく整った挙手だ。
「ん〜?なんだ〜?」
「先生、いいんですか?あの二人の態度」
「あ〜いいのいいの。来るものは拒まず、去るものも拒まず。これ、俺のスタイルだからさ〜」
「!!なるほど、さすが先生です!」
何がさすがなんだか・・・
「ヒヒヒ、浅井だと楽に抜け出せるな」
「あの先生、テキトーすぎないか?」
今上山達は十階の廊下を歩いている。
(ちなみに学年ごとに階がある。)
この学校は十三階建てだ。というのも、この十階には教室はなく、ほとんどが移動授業の際に使う部屋ばかりなのだ。つまりこの階には先生はいない。授業中はなおさらいない。彼らは何の遠慮もなく話すことができるのだ。
「は〜学校に隕石おちねーかな〜」
「な〜」
「は〜実はここの土地に埋まってるかもしれない不発弾が爆発して学校崩壊とかなんねーかな〜」
「な〜」
とそこで上山が起きあがりすぐそばの部屋へ入っていった。
「どうした?」
「お前も来い!」
声をおさえて高杉を中にいれた。
「何だよ?」
「誰かくるぞ」
「えっ?」
カツコツという足音が聞こえる。誰もいない廊下ではよく響いた。
「あいつは」
だんだんと近き見えたその人物は
「教頭先生?」
「そうか、教頭なら授業やってないしここ通っても不思議じゃないか」
「いやちがう」
「?何が?」
「見ろよ上山、教頭先生なんかそわそわしてないか?それに辺りを見回してるし早足だ」
しばらく見ていると教頭は上山達のいる部屋の前でピタリと止まった。
(やべっ!ばれたかな)
(いや、大丈夫、ほら)
教頭は上山達のいる部屋の向かい側の部屋に入っていった。
その部屋の名は・・・
「『学校物開発室』か、何か作んのかな」
「だろうね」
「のぞいてみねぇ?」
「俺もおもった♪」
「キマリ!」
悪巧みは五秒で成立。部屋をそ〜と抜け出し、『学校物開発室』の扉に背をつけ扉についているガラスごしに中を覗く。そこには・・そこには、何もなかった。そして、誰もいなかった。教室から机や椅子、黒板やロッカー等を取り除いたただの部屋だ。
「何だ、この部屋?」
上山が不思議そうに言う。
「お前知らないのか?ていうか気付けよ。こんな丸見えのところで研究とか開発なんてするわけねーだろ?極秘なんだし」
「そっか、んじゃ教頭が消えたのは何故だ?」
「あのな、この部屋は下の部屋につながってんだよ。下からは入口がないから入れないんだ」
「下って九階か?」
「さあな、そこまで知らねーよ」
「じゃどーやって覗くんだよ!」
「そりゃお前」
そこで高杉は間をおいて言った。
「入るんだよ」
「あやっぱ?」
「んじゃ、レッツ?」
「ゴー!!」
そういうと上山は大胆にもガラガラと音をたてて中に入る。
「えーと入口はー?」
部屋全体を見回すが入口らしいものは何もない。あるものといえば掃除用具入れくらいだ。
「やっぱあれか?」
「開けようぜ」
ギーガチャっと鉄を引っ掻くような音がしてから開いた。そしてその中には
「モップ?」
「と、ちり取りか」
「何だこの組み合わせ、てか何でこんなもんが」
「とりあえず入口ではないか」
「待てよのぶ、上にもなんかあるぜ」
用具入れの中の上の方には何か置けるようにベニヤ板が取り付けられている。元は何もなかったらしい。
「何で板なんて強引に取り付けてあんだ?」
「ん、なんかあるぞ」
上山が手を伸ばして板に置いてある何かをつかむ。
「重、けっこう重いぞ」
「ちょっとみせろよ」
「わってるよ、ソラ!」
上山が取り出したそれは形は拳銃に似ているが拳銃の銃口にあたる部分が丸く膨らんでいる。そして引き金もない。色は、ベースは黄緑で所々に黄色やオレンジ色がある、といったものだった。
「何だ、これ?」
「形からして拳銃っぽいけどなぁ。撃てる?」
「引き金がないんだなこれが」
「なんかいろいろやってみろよ」
「もうやってるんだなこれが」
上山はカチャカチャといじくりまわしている。すると用具入れの下の方からカツコツとさっきと同じ足音が聞こえてきた。
「まさか教頭!?」
「いったん出よう!」
二人は部屋からでるとガラスごしに部屋を覗く。
「あの下に入口があったのか」
「おい、それしまっとけよもらっちまおうぜ!」
「あったりめーよ!」
上山が服の下にその拳銃のようなものをしまった瞬間、上山達のいる隣の部屋の扉がガラガラとあいた。
「む?君達、何をしている今は授業中だぞ」
そこからは、教頭が出てきた。その部屋は、ていうかそこはトイレだった。
「あーいやーそのー」
予想外な所から教頭が出てきて驚いていた高杉は何も言えなかった。が、上山はテキトーな嘘を思いつくと
「いやいや、ただこのガラスで自分達の顔を見てどっちがイケメンか言い争ってただけっスよ!な?」
「え?あ、ああ、そうそう!そうなんスよ!」
「授業中にそんなことしてちゃだめだろう。いやもう授業も終わるころだ。早く教室に戻りなさい。」
「は〜い、ニヒヒ、馬鹿な教頭だぜ」
「よくあんな事が思いつくな」
上山達は教室に向かい歩きだす、が
「君達!」
「げ!聞こえたかな?」
「だとしたら相当な地獄耳だぞ」
「君達の今の授業は?」
「ホッ何だ。」
「理科です」
「理科というと・・・あ〜浅井君か、通りでねぇ」
「?」
「?」
「いや、いい。行っていいぞ」
「それじゃま、行きますか?」
「あ、ああ」
二人が歩き出したところでチャイムがなった。後ろに教頭の姿は既になかった。