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ura-shima  作者: 富田 省吾
1/1

太平洋戦争末期、一人の女性で日本の運命が変わる・・・

眩い一瞬の光に立ちくらんだ

ドンという鈍い音で

彼は、泥だらけて田んぼの中突き刺さるようにいた。

銀色の鋼のような体。

シマはとっさに爆撃機からの爆弾だと思ったが、上空には爆撃機らしい機影はなかったし、そもそも来襲したら、サイレン音がけたたしく鳴るはずである。

何か得体のしれない物体が空から落下したとしか思えない。

彼女・シマは大日本帝国海軍の女性通信兵。

日本の軍隊で女性兵自体かなり珍しい、敵・アメリカ軍の通信を傍受・解読する極秘の任務に就いている。

上官に報告すべきか迷ったが、自身の好奇心から、田んぼの中にとりあえず入った。

その物体は、ところどころひび割れ傷ついていた。

泥だらけになり苦戦しながらも引っ張ってみる。

意外と軽い10キロ程度だろうか。長辺で1メートルぐらいの甲羅のような形をしていた。

シマは腰にぶら下げた手ぬぐいを取り額を拭く。

三―――ン、三―――ンと蝉が鳴く声、また、暑い一日の始まりの朝であった。



先輩(上等技術兵)


『浦上等兵何してるんですか!』

『ちょつとね』

シャーーツ

シマは基地の外の蛇口で煙草を吹かしながら、亀の子タワシで甲羅のような物体を洗っていた。

ミーン、ミーン。

蝉がここぞとばかり鳴いている。

『変わった形をしてますね。これ新しい軍の秘密兵器? それとも新型通信機器ですか? 』

『まあ、そんなものかな』

『それより緊急ですが、留守の間軍令部より昨日付で黒田上等技術兵長と丸一等兵が鹿屋航空基地に徴集されました。ここの責任者はこれから浦上等技術兵ということで通達です』

菊池一等兵はまだ十代の女性通信兵である。

『鹿屋航空基地? いよいよだな。あそこは、神風特攻隊の基地。この基地からも戦える男は全員出ていったわけか』

『沖縄もアメリカ軍に占領され、大和も撃沈されたみたいです』

『戦艦大和もか・・ さすが菊池一等兵、情報通だな』

『へへっ、極秘の通信基地にきてもう2年経ちますからね。へたな上層部より詳しいですよ』

『もうここも3人だけだな・・、それと上等兵はもういい、先輩で結構だ』

『東京の出張はいかかでした?』

『東京も空襲でひどいものだ、一面焼け野原だったよ、この戦争もいよいよ・・』

『そこから言わないでください、聞かれたら大変ですよ』

『それより、福井二等兵は』

『アツシ(福井二等兵)は基地の中です、なんか大変な情報を傍受、解読したということです。昨日も徹夜で大変だったみたいですよ』

『出張の間、ご苦労だったな。福井二等兵から、あとで解読した内容を聞かせてもらおう』

物体を洗い終え、シマは遠くの木にいる蝉を見つめ煙草を吹かしていた。

『今日は特に暑いですね』

菊池一等兵は腰にぶらさげているタオルを取り顔の汗をぬぐう。まだ、化粧もしていない少女のようなあどけない面影である。

『とりあえず、ここはなんですので、東京の極秘会議の話、基地の中に入って話しましょうか。その秘密兵器も持って』



狐の巣


『久しぶりの狐の巣のいごこちはどうですか?』

『・・・』

菊池一等兵の言葉を無視して、シマは軍服の上から白衣をはおった。

ここは大日本帝国海軍の通信基地でもあるが、小さいながら軍事秘密兵器の研究・開発室でもある。

基地の中は、薄暗い蛍光灯の中、通信機器がピコピコと点滅する、周囲を石垣やコンクリートで囲まれ小さな窓から蝉が鳴く木々が見える。

周囲を草木に覆われ、上空からだとここが軍事基地だとは分からない仕組みになっている。この通信基地は三国同盟のドイツ軍・指令所の『狼の巣』にあやかって、敵を欺く狐・俗称『狐の巣』と呼ばれている。

しばらくして

『もう、ドイツも降伏したよ、三国同盟も終いだな。それと、アツシはどこにいるんだ。』

『へへっ・・・』

机の下から、いがぐり頭の顔を出す。まだ、あどけなさの残る少年兵・福井敦二等兵である。

『はい、これっ』

リモコンのスイッチボタンのようなものをシマに渡す。

『やっと、出来ましたよ、自爆装置、これを押したら、この狐の巣は木っ端微塵です』

『バカなものを作るな!!』

ドスンとシマは持っていた甲羅を落とし、鈴木二等兵の頬を思いきり叩いた。

きゃしゃな体の福井二等兵は甲羅の上に腰を落とし、叩かれた頬をなぞりながら

『お、お言葉ですが、お国のためですよ、今多くの兵士が特攻で命を落としている、私たちも来るべき本土上陸に備え、アメリカ軍がやってきたら、戦って、戦って、それでもダメならこの基地もろとも・・・』

『ずいぶんな覚悟だな、自爆するときは、私一人でいい・・』

『上等兵と菊池一等兵は女だ。アメリカ兵に何されるか分からない』

『.・・・』

普段、冷静沈着なシマが頬を叩くのを見て菊池一等兵はひるんでいた。

その時、ピピっと甲羅から頭のようなものが飛び出てきた。二つの目は丸く赤く光り、四角い口のようなものもついている。

『ひ・ひ・・・、これはなんですか?』

鈴木二等兵は甲羅から飛び上がった。

『・・・ココは・・・』

『ええっ! 機械がしゃべった!!』

驚く菊池一等兵と鈴木二等兵をしりめに

『からくり人形か?』

シマは極めて冷静であった。

『これは、日本軍の秘密兵器ですよね』

『いや、実を言うと田んぼの中で空から落ちていたのを拾ってきたんだ・・・』

『・・・ドコですか・・・』

赤く目を点滅させながら口から発声しているようだ。

『そんなもん、誰が教えるか!!!』

鈴木二等兵は興奮して答え、とっさに

空から落ちてきた?? 時限爆弾か? 新型の偵察兵器?考えを巡らせた。

暑い夏も相まって、汗が一気に顔から噴き出してきた。


亀型ロボット


『・・・私の名前はtenchi【天地】、あなた方達の頭脳は、と・・・

見込みがありそうだ・・・修理を手伝ってくれませんか・・・』

『・・・とりあえず1ページ目の作業工程です・・・』

口からレシート上の紙が出る。

『しゃべるうえに紙も出てくるのか!!』

鈴木二等兵は驚きを隠せないが、この亀型の物体が爆弾ではない、敵ではないようだということを咄嗟に感じた。

シマはtenchiの口から出された紙を手に取りしげしげと見ていた。


『ちょつと来い!!』

シマは二人に指図し。

ガチャツ

隣の別室に移動し、即座にtenchiのいる部屋に鍵をかける。

『アツシ、涼子(菊池一等兵)これを見てくれ』

作業工程図を渡す。

『まあ座れ、移動した部屋は机と椅子が置かれた会議室になっていた。

『先輩、なんなんですか、あれ・・』

『あの亀型のからくり模型を、自身で呼んだように『tenchi・天地』と呼ぼうか。私の感想だが、日本語が分かるようだ。赤い目が点滅するとかなりの透視能力と理解能力がある。私の個人的な見解だが、あの爆薬が満載している部屋で、自爆もしていないところを見るとアメリカ軍の兵器ではないように思う』

シマは煙草に火をつけ、肺の奥まで思い切り吸い込んだ。

『それと、修理を手伝ってくれか・・・その紙の感想は』

『・・・とんでもない設計図、作業図ですよ、まだ、見たこともない、とにかく驚きです。この優れた化学力を軍事技術に転用する方法もあろうかと、もう少し見ていますが』

3人はメモを取りながら机に置かれた作業図を見る。

口から出た作業図幅は10㎝ぐらいであろうか長さは1メートルにも及ぶ、メモを取りながら

Tenchi・天地、天地無用の天地、亀はひっくり返ると起き上がれないのに。天から地に落ちてきた天地・・・どこから来たのであろうか、総統ヒトラーが自殺したというが科学立国ドイツから送ってきたものであろうか・・・、時間はあまりないが、このはるかに優れた技術の軍事転用・・、太平洋戦争を逆転させるには科学力しかない。3人は個々にいろんな考えを巡らしていた。


黒い秘密ケース


ボーン、ボーン、ボーン。 黒い柱時計が鳴る。

『もう、三時か。少し休憩しようか。』

背伸びをする

『あっ先輩、先輩、東京の極秘会議はどうでしたか・・・』

『物量、科学力、そして人材、全てにおいて現在の日本はアメリカに負けている。沖縄が占領され、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸大都市が空襲を受けている。このままだと、本土決戦も極めて近いと思う。仮想される本土決戦用兵器・・・』

ドンドン、けたたましくノックをする音。

『お前らはそこにいろ!!』

シマが、基地から外に出るべく鉄製のドアを開けると。

頭から血を流した1人の兵士がたっていた。

『はあ、はあ、東京の軍令部から預かってきました・・この基地の責任者ですよね』

息も絶え絶えである。

黒いアタツシュケースをシマに渡す。

『おい、それよりその傷は・・・』

『来る途中、戦闘機で撃たれ、ここに来たのは私だけです、すぐに・・・戻らなければ、仲間が心配です・・・』

日本の制空権はほとんどなかった。民間人の格好で来るならともかく、軍服の集団出来たら危険性はかなり高まる。よほど急を要することか。

『一刻を争っていたので・・・ ゴホッ、ゴホッ』

口から血だまりを噴出した。

『大丈夫か!!』

『この秘密の鞄は、アメリカ軍はまだ分かってないと思います。戦闘機に撃たれたのは偶然かと・・・これで勝てますよね・・・』

それを言い終わる地と、その兵士は、ぐったりと倒れこんだ。

『おい! おい! しっかりしろ!!』

シマは兵士をしっかり抱きしめ

『ああ、勝てるとも・・・』


逆転への賭け(太平洋戦争)


名もない兵士の遺体は、すぐに憲兵隊指令部によって秘密裏に回収された。

『鈴木二等兵、菊池一等兵を補助につけ天地と会話しながら、至急修理してやってくれないか、人は3人しかいないが、いろんな工具だけはこの基地にたくさんある』

『大日本帝国のため、修理はいいと思います。この亀の模型、科学的に宝の山ですよ。それより、なんで私がアツシの補助・・・男だから』

『そんなことはない、工学の知識と技術はアツシの方が上だと思うが』

『でも・・・』

『絶対服従の階級社会、柔軟な発想の欠如、日本の軍隊の悪いところだ。負ける戦争かもしれんが・・・最期まで全力を尽くしてみないか』

『今日も徹夜ですね、菊池一等兵一緒にやりましょう』

鈴木二等兵は菊池に握手をせまるが、気まずさからか無視する。

『分からないところがあれば、私に言ってくれ、自分の要が済んだら私も手伝う』

鍵を開け、tenchiのいる隣の部屋に行こうとするシマ。

『あの、黒い鞄の件ですね、私も早く開けて中身を見たい。聞きましたよ、アメリカに勝てるかもしれない秘密兵器ですね!』

あどけない瞳をかがやせながら言う鈴木二等兵

『・・・戦争に勝者はいない、敗者だけだ・・・』

tenchiがつぶやく。

『バカ、鞄の事は極秘事項だぞ』

シマは珍しく感情を露わにした。

『・・・アメリカ・・・』

『・・・日本・・・太平洋戦争・・・』

『とにかく修理だ、tenchi、お前分かるか』

赤い目を点滅させながら、基地内中のありったけ持って来た工具類を見る。

『・・・工具確認・・・かなり旧式ですが設計図通りやってくれたら・・・もしかして・・・』

『こいつ、敵ではなさそうだな、賭けてみるか・・・』


鈴木二等技術兵の夢


鈴木二等兵と菊池一等兵がどうにか甲羅の部分を開けると、2人が今まで見たこともない装置が満載されていた。液晶パネル、極小の部品、キラキラ輝く。

『ウォー――ツ、夢のようだ。ぼくこんなの大好きなんです!!』

菊池二等兵は、別ことを考えていた、これを軍事利用すれば。

『はは、アツシは、かなり変わっているからな』

『菊池一等兵にだけは言いますが、ぼく本当は、自動車を作りたいんですよ。今よりずっと頑丈で安全で燃料をあまり使わない車』

『海軍なのに戦闘機か軍艦ではないのか』

『人を殺す乗り物はもういいです。みんなを笑顔にさせる乗り物を作るのがぼくの夢です、そして、足の不自由な母親を腕のいい病院に連れていきたいんです』

『お前、ずいぶん遠くから海軍に誘われて来たもんな』

『6人も兄弟いるし、貧しいからしかたないんです。少しでも親のために食い扶持を減らさないと』

『もらったお金、全部仕送りしてんだろ』

『機械が好きなのと、少し手先が器用なのが取り柄でして、へへへへ。あっ、あまり、時間がないぞ、集中、集中』

赤い目をピコピコさせながら天地は黙って聞いていた。


隣の部屋では、シマがスカートのポケットから鍵を取り出し、黒い鞄のダイヤルナンバーを合わせる。二重のセキュリティになっているのだ。

『うっ!! これは』

鞄をあけると、鈍くつぶやいた。


菊池涼子一等技術兵の希望


柱時計は深夜12時を回っていた。

隣の部屋からシマが入ってきた。

『涼子、ちょっと、基地の外に来てくれないか』


『星がきれいだ、tenchiは宇宙から来たのかな・・・』

夜空を見上げながらシマはむそうつぶやいた。

『どうだ、あの亀型ロボット』

『かなり使えますよ、tenchi自体、殺傷能力のある武器は何も内蔵されてません。爆発物もないです。完成させてから、いろいろ聞きだして、また、分解しましすか、いずれにしても我々よりはるかに優れた科学力のある所から来たようです』

『そうだな・・・人体解剖ならぬ、ロボット解剖だな。お国のためか』

シマは白衣から取り出した煙草を吹かす

『私もください』

『涼子はいくつになった』

『20です』

涼子にマッチで煙草をつけてやる。

『先輩、絶対、絶対、絶対、勝ちましょうよ!!』

『お前も狂ってるな・・・戦争は、何もかも狂わす』


目にクマをこしらえながらも、懸命に修理作業をする鈴木二等兵

『・・・すごいです、鈴木二等兵。こんな時代に、こんな人間が・・・』

『アツシ、お前何日も寝てないだろ、もう、変わろう』

『ふあーーーっ、さすがに、もう限界です』

『あっ、そうだ、アツシ、聞きそびれていたな。アメリカ軍の大変な通信を解読したって』

『忙しくて、上等兵には言ってませんでしたが、何か新型の特殊爆弾が開発されて、近々空爆で使うかと、どこに落とすかは分かりませんが』

『なに!  海軍本部には言ったのか』

『まだ、言ってませんよ。頭の硬い上層部のお偉方には信じてもらえません。竹やりでB29を撃ち落とせですからね』

『ふぁぁぁ、すいません、もう寝ます』

そう言い終わると、ふらつきながら床に倒れこんだ、シマはゆっくり鈴木二等兵に毛布をそっとかけてやる。

まだ、あどけない、鈴木二等兵の寝顔を見て。

『こんな、まだ、こんないたいけな坊主を戦争にかり出して・・・』


シマは椅子に座り、煙草を吹かしながら、ハンダ小手とペンチを手に机の上の天地を修理している。

『・・・鈴木さん、菊池さんもそうですが、シマさんもすごくいい腕してますね・・・』

『ほめても、何もやらねえぞ』

『ところで、涼子は好きな人はいるのか』

『突然、何なんですか、そんな人、いませんよ』

頬を赤らめる

『知ってるぞ、鹿児島の鹿屋に行ったあのカッコイイ海軍の飛行機乗りだろ』

『あそこ、今、特攻の最前線基地になっているがな・・・無事だといいが、昨日この基地から命令で徴集された二人に手紙を渡したか』

『先輩はなんでもお見通しなんですね・・・ 彼が、特攻に行く前に、何とかしたいんです。でも、もう行ってるかもしれない・・・』

涙ぐむ菊池一等兵、涙が白い頬を伝う。

『きっと、まだ、大丈夫だ、希望は捨てるな』

『この亀ロボットと黒鞄の中身に駆けてみるか・・・』

『・・・取り込み中すみませんが、煙草を吹かしながらするのは、やめてもらえませんか・・・』

『・・・煙草の灰とか体の中に落ちるとやばいんで、私、こう見えてかなりデリケートでして・・・』

『亀ロボットのくせに生意気な』

『私も、先輩好きだけど、煙草は辞めた方が健康にいいですよ』

『もう、いいんだよ。何もかも捨てているし、こんな変わり者、一生独身だ。理数に強いからといって女だてらに無理やり軍隊入れられて、ここも初めは通信基地だったが、今では何でも屋だからな』



一億総特攻秘密兵器


『・・・最期の1枚ですっ・・・』

Tenchiの口から出された紙を眺めながら

『ところで、tenchiさんよ、お前の知っていることも教えてくれよ』

シマは加え煙草を吹かしながら、ぶっきらぼうにつぶやいた。

『・・・太平洋戦争のことですか、私も守秘義務がありますからね。教えれる範囲でいいですか? 真珠湾攻撃、マレー沖海戦、インパール作戦、硫黄島の戦い・・・』

『なんで、そんなことを知っている・・・』

シマは目を見開き、煙草の灰を机に落とす。

『・・・あ、危ないってば・・・』

『ちょっと涼子は席を外してくれないか、隣の部屋で休憩していてくれ』

『何でも知っているようだが、ミッドウェイ海戦でいい』

『・・・赤城、加賀、蒼龍、飛龍の4空母撃沈、大日本帝国海軍は大打撃を受け・・・』

『合ってる。ミッドウェイ海戦は日本帝国海軍でも秘中の秘』


別室では、退屈そうに菊池二等兵が椅子に座っていた。


横を振り向くと、部屋の隅に透明のモコモコした全身が入るようなボディスーツが置いてあった。その横には赤いガスボンベ。ボディスーツは寝袋、消防服、いや、特殊な作業を行うときに着る作業着だろうか。背中のジッパーを開けて全身を入れることができるようだ。漆色の口にくわえる簡易酸素吸入装置もある。

『これは何だ・・・』

全部、黒い鞄の中に入ってたようだ。


『見てしまったようだな。菊池一等兵』

拳銃を菊池一等兵の頬につける、シマは顔を寄せた。

『・・・な、なんなんですか』

『もういいだろ、これが、日本軍、最期の秘密兵器だ。この特殊なガスを、そのボディスーツの隙間に入れ、酸素吸入装置を咥えた兵士がその中に入る。ピストルや機関銃の弾はこのボディスーツがクッションのような役目を果たして跳ね返す。兵士も手には機関銃や手榴弾、爆弾は持って動ける』

『これ、兵士だけではなく、訓練したら民間人だけでなく、女、子供も使えますよね』

『さすが、涼子だな。そう、一億総特攻兵器としても使える、敵の機関銃の弾は短時間であるが、ほぼ100%防げる。爆弾抱え込んで、敵の懐に入り自爆する』

『悪魔の兵器ですね』

『・・・大した科学力だ、それ、使えますよ・・・』

2人が振り向くとTenchiは海亀のように4つのヒレを出して、隣の部屋に来ていた。前の2枚のヒレで器用に、ほふく前進のように動いて隣の部屋に来ていた。

『何が使えるんだ!』

『・・・どうせ、私を修理した後、情報を聞き出して、また、分解して軍事利用するんでしょ・・・』

『先輩、やっと修理は完了したんですか』


8月6日


ミーン、ミーンと蝉が鳴き始めた。

『今日も暑い一日になりそうだな』

『・・・ところで、今度は私からの質問。今日は、何日ですか?・・・』

『教えてやんないよーーー』

菊池二等兵はアッカンベーをした。

『何でもお見通しか、いいだろう・・・西暦がいいのか』

何かを悟ったようにシマは答えた。

『・・・どちらでも・・・』

『日付が変わって、今日は1945年8月6日だ』

『・・・1945年8月6日ですね・・・』

Tenchiの赤い目が高速で点滅する。

『・・・日本・・・。場所は・・・』

『もう、いいだろう、都市で言うと、ここは広島だ』

『・・・HIROSHIMA、広島、廣島・・・・』

『・・・まずい・・・』

柱時計は7時ちょうどを差していた。


『・・・悲しいお知らせです。もうすぐここの近くに、新型爆弾、つまり原子爆弾が投下されます・・・』

『・・・死者は約12万人・・・』

『こいつ、何を言っているんだ』

『当たってますよ』

『アツシいつ起きたんだ』

隣の部屋から毛布を小脇に抱えた鈴木二等兵が立っていた。


『・・・私は帰ります・・・』

『どこえ!!』

『たぶん、未来にだろ』

『ドイツ軍でもない、アメリカ軍でもない・・tenchiは現在の科学では説明できない構造をしている。また、日本語も喋れるし歴史も詳しい、宇宙からは来たような様子もない。だとしたら、tenchi、お前は未来から来たとしか考えられない』

『・・・助けてもらったお礼に、あなたたちを救いたいのですが・・・』

『・・・救えるのは、残念ながら1人だけです・・・』

ブーーーン、Tenchiはホーバークラフトのように床から浮き上がった。

『浮、浮いた・・・』

『・・・そのボディスーツを着て、私の甲羅の上に乗ってください・・・』

『そうか、一人だけか・・・』

シマは煙草に火をつけどかっと椅子に座った。白衣のポケットからメモを取り出し、2枚に破り、紙縒りのようにする。一つは持っていた口紅で下の方を赤く塗る。

『さあ、くじ引きで決めるぞ。決めろ。下が赤い方がtenchiと一緒に行け。外れた方は出来るだけ広島から遠くに逃げろ』

『私は、最期までこの基地に残る』

シマの左手には自爆装置のスイッチが見える。

『そ、そんな・・・』

二人はつぶやいた。

『確率の問題だ。tenchiに乗って新しい未来に行くのが一番助かる可能性が高いと思う』

『早く引け、これは命令だ』

右手を差し出す。おそるおそる2人は震える手で引く。


赤い紙縒りを引いたのは鈴木アツシ二等兵であった。

顔は涙でくしゃくしゃになっていた。

『涼子は、準備出来次第、すぐにこの基地を離れろ、少しでも遠くに行くんだ』

『浦上等兵、分かりました。準備出来次第、ここを離れます』

菊池一等兵も涙をこらえながら必死で敬礼をする。

『それと、アツシは早くスーツにガスを入れて、酸素ボンベは、1時間は持つからな』

柱時計は8時を指していた。


『あと何分だ』

『・・・データが確かなら後5分後に原子爆弾が広島に投下されます・・・』

『涼子・・・遠くに行ったかな』

シマは人生最期になるであろう煙草に火をともした。

『先輩、あれ』

シマが振り向くと、行ったはずの菊池二等兵が立っていた。

窓から蝉が見えてた。

鈴木二等兵が背後から睡眠薬を練り込んだハンカチで口を覆う。

『先輩悪いですが、この基地は何でも揃っているんですよ』

『早く、これに入れて』

気絶したシマの体をボディスーツに入れ、口に酸素ボンベをあてがう。そして背中のジッパーを占める

『完了だ。tenchi後は頼むわよ』

『・・・分かった・・・』

地面から浮いたTenchiの甲羅の上に二人がかりでシマを乗せる

2人は涙を浮かべながら敬礼をしている

『先輩は、これからの日本に必要な方です』

『上等兵、今度は、この日本のみんなを笑顔にさせてください。頼みましたよ』

『敬礼!!』

二人は涙ながらに敬礼をした。


ビー―――ん。

甲高い音を立て、tenchiとシマは消えた。

その時、基地の小窓から、ピカッと眩い閃光に包まれた。

二人は手を握り合い、決意したかのように自爆スイッチを押した。

広島にきのこ雲が舞い上がる

時は1945年8月6日午前8時15分。

人類初の原子爆弾が広島に投下される。


日本の未来 浦シマ上等技術兵の未来


赤いカーペットを歩く一人の白髪の初老の女性、白いスーツに身を包み

一人の女性。

群がる、記者たち。

『日本初の女性総理大臣としての感想は』

『核のない平和な世界を実現するために全身全霊をかけて・・・』

『浦総理!』


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