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英雄は花と散る  作者: ゆり
第一章
3/4

二話 簪

 それから輝夜は毎日店に来るようになった。

今日もまた、店の扉が開く。

「あー寒い寒い」

そう言いながら入って来たのはいつもの彼だ。

「おはよ凛月」

「おはよ」

そしていつもの席に座る。

もう言われずとも、酒を出すようになった。

 「あ、そうだ凛月。こっち来て」

と、彼がこちらを向いて、手招きした。

私は彼の元へ行く。

「目、瞑って」

一瞬驚くが、言われるままに目を瞑る。

すると、髪を触る感覚がした。

──なんだろ?

「はい、いいよ」

目を開けると、彼が満足げに笑っている。

「やっぱり似合うな」

私を見るなり彼は言った。

髪飾り…?

そう思い髪に触れる。

「よく似合ってる」

そう言って千夜香さんが鏡を貸してくれた。

鏡を覗き込むと、私の髪に美しい(かんざし)()してあった。簪など生まれて初めて挿した私は少しばかり戸惑った。

「これ…」

彼の方を振り返る。

「凛月に似合うと思ったから」

私に──?

よく状況が飲み込めず戸惑っていると、彼が笑って言った。

「あげる、それ」

私は聞き返す。

「え、いいの?」

そんな私の言葉に彼は言った。

「俺がいいって言ってんだから受け取れ」

「──ありがとう」

私は微笑んだ。


 輝夜はその瞬間、息を呑んだ。

──狼狽(うろた)えるほど、美しい。

彼女が初めて見せたその笑顔は、驚く程に美しかった。

「──お、おう」


 彼が帰った後、千夜香さんが話しかけてきた。

「綺麗だねえ、その簪」

隣を見ると、千夜香さんが私の頭を見ている。

「そうですね」

でも、と私は続ける。

「何者なんですかね、あの人」

なにか仕事をしているようにも見えない。朝から酒を飲んで、普通の人ならそんなことじゃ食べていけない。

「んー、なんだろうね」

「ちょっと怪しくないですか?」

私は眉を(ひそ)めた。

「どうだろうね。でもいい人っぽいよ、顔も良いし」

そう言って千夜香さんは悪戯(いたずら)に笑った。

「たしかに」

私は頷く。

「まあ私は色恋なんて縁ないですから。男っぽいし」

私は顔の前で手を振った。

「またまた~。凛月ちゃんは可愛いよ!もっと自信持ちな」

千夜香さんが私の頬をつん、とつついてきた。

「んなことないですよ」

私は苦笑した。


 夜になり今日も仕事を終えた。

部屋に戻り、なんとなく窓辺に座る。窓を開けると、きりっと冷たく澄んだ夜空に満月が出ていた。

闇を眩しいくらいに照らすその月をぼんやり眺めて、私は髪に触れる。

(かんざし)を抜いて、手のひらに乗せた。

月明かりに照らされて、その簪は金色に輝いた。少しの間、その美しい簪に見惚(みと)れていた。

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