表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヴァーミンバスターズ!


あみだくじのように入り組んでいて、似たり寄ったりなカフェ通りがたくさんある街、夜々柄街。

捨て猫、捨て犬、外来種の量日本一と害獣三本柱とも名高く、動物の街とも呼ばれている。


人間よりも野生化した動物が多いこの街では動物の突然変異、ミュータント化が多数見られ、対異常動物の駆除人が職として認められるほどであった。

法を知らない動物たちはみなやりたい放題だったが、異常動物を駆除したいと躍起になっている人間たちや異常動物を兵器として利用しようとする裏組織、はたまた異常動物愛護派なんてものもいて現在の夜々柄町は一種の戦場であった。


そして、殺伐とした町で今日も異常動物による事件は起こっていた。






「被害者は頭をひとかじり。首を引きちぎられています」


「頭をねぇ……巨大化か?」


「異常性は巨大化の線が高いと思いますが、噛み跡から犬や猫の類ではないと思います」


刑事が2人、早朝の空き地で佇んでいた。

まだ日の出が始まったばかりで太陽の反対側は藍色に染まっている。

しかし、青い匂いの空き地には首から先が何かに噛みちぎられてしまった女性の死体があった。


「ったく、犬猫じゃねえなら猿か?蛇か?」


「わ、わかりません。すぐに検死官に報告確認してきます!」


後輩の刑事が先輩刑事に一礼すると風のように消え行った。

消え行ったその姿を最後まで見ることなく先輩刑事はタバコを吸い始めた。

しかし、咥えたタバコは飛来したお風呂に浮かべるアヒルによって刑事の口からブーメランのように横回転して吹っ飛んだ。


「そんなに口さみしいならおしゃぶりしゃぶれや、山口(やまぐち)!」


「火ィついんてんだよ、あぶねぇだろ」


アヒルを投げてきたのは高校生くらいの男の子で、目を隠すようにツバ付き帽子を深く被り、男にしては長い茶髪が耳を隠している。

そのために地味な印象を与えるが、山口と呼ばれた刑事を怒鳴りつけた声は明瞭で快活な印象を与えるものだった。


「また、死んでんな。うん?これは……スンスン」


「嗅ぐな、気持ち悪い」


「うっせ、てか加齢臭くせえ」


「おめえも乳くせえよ」


冗談めいた口調で2人は口論しながらも男子高校生は死体に近づき、四つん這いで極限まで鼻を食い千切られた死体の首元に近づける。それに対し山口はその様子を眺めるでもなく、おもむろにタバコをトントンと箱から取り出し咥えようとした。しかし、またしても四つん這いの状態の男子学生に的確にアヒルのおもちゃを投げられ、また口さみしい思いをすることとなった。


「唾液の匂いがあまりしない……それにこの食べ方は顎のない動物、環状にかぶりついてる…これができるのは哺乳類じゃないし、クチバシの鳥でもない、ヤツメウナギの口に近いけど陸の上………なんとなくわかってきた」


唐突に立ち上がると死体の周りをゆっくりと円を描くように回り、写真をガラケーで何枚か撮った。

山口は特に咎めもしなかったが、3本目のタバコを取り出そうとした時は逆に男子高校生に睨まれ、そっと箱にタバコを戻した。


「で、死体を見せてやったんだから容疑者を教えろよ」


「環形動物、ミミズとかヒルとかの類だと思う。ほのかに消化液の独特な匂いがしたけど、這いずった後が無いから人型化してるなこれ」


「擬態能力持ちか、久々だな」


擬態能力、最近の異常動物の能力の1つとして人に化ける能力がある。二足歩行をする程度や完全に人間形態になるなど、個体差があってまちまちだと言われているが、一説によれば人間が遺伝子操作によって変容した姿だとも影で囁かれている。


「教えたし、俺は行くからな!あ、そうだ、今度寿司おごれ!」


写真を撮り終わったらしい男子高校生はガラケーを強引にジーンズのポケットに捻り込み、颯爽と走って行った。

その姿を山口は見送るように空き地からバイパス道に出て行った。


「おう!萩原(はぎわら)に奢らせる!」


「後輩大事にしろ、バーカ!」


最後の最後に豆粒に見えるくらいの距離で男子高校生は振り向いて、山口に手を振りそのまま後ろ歩きで交差点を曲がって消えていった。


「……相変わらず器用だな」








街の中でも寂れた団地に囲まれた公園。団地に住んでいるのは老人だけでしかも3階から上はどの部屋もガラ空きの過疎地域。深夜帯のあかりは月と一台だけの自動販売機だけである。


「絶対来るな……うぅ、寒ッ!」


男子高校生、男子高校生と普通名詞で語られてばかりの少年の名前は茨城 新(いばらき しん)という。

彼の素性を知っているものは、まだおそらくいないだろう。山口刑事は数ヶ月前にとある事件の際に新のチカラを借りただけで、一定の距離感を保っている。


新は駆除人としても長く、名も売れている方だ。ただしその売れ行きが毎度のこといいものではなかった。ガキ扱いされたり、失敗を押し付けられたりで新は人間に対して不信感を覚えていった。

だから、他の駆除人と共闘することはなかったし、受ける依頼も捕獲や追い払う程度のものしかしなかった。

人間不信という面では昨今の人間を敵対視する知能のある異常動物と同じなのである。


「………おいでなすったか」


どこからともなくサラリーマンらしきメガネをかけた男が現れた。


「ぼうや、1人でそんなとこにいたら危ないよ」


心配するような言い分であるが、その顔は獲物を見つけた狼のように歪んでいた。

晴れた夜空に輝く月はその歪んだ顔を青白く浮き彫りにしている。


「ぼうやって歳じゃねえよ。ってか、建前はいいからさっさと姿見せろミミズ野郎」


「ほほぅ、私がミミズ野郎……それは警察も知っているのかな?いや、君みたいな坊や(ガキ)は独断専行するタイプだね。ならば!いつも通り殺すまでだ」


サラリーマンが嘲笑すると、新はちょっとキレ気味に反論した。


「だからガキ扱いすんな、てかお前の方がガキだろ。今朝殺された女と同一の手口の犯行はまだ4件、しかも四週間前に始まったばかり。突然変異で擬態能力を得て、殺しを始めた典型的なド低脳な虫けらだよ、お前!」


「はぁ、失笑ですよ……こんな品のないガキを相手に取らなくてはいけないだなんて……あ、そうそう、ど低脳で思い出しましたがあなたは私のことを『ミミズ野郎』と呼びましたがそれは違います」


頭を両手で抱えると、背中の筋肉がボゴンボゴンと膨れ上がりスーツを突き破って赤紫に変色したその全容を見せた。血管も蜘蛛の巣のように皮下を駆け回り、今にも破けそうだ。


「わ、わたし、し、はァァァーー


とうとう筋肉を破りムカデのような甲殻をもち、オレンジ色の棘が節に無数に生えた大きな黒いミミズが空高く付き出てきた。


「モンゴリアンデスワームデスヨ」


大きく開いた丸い口の中に人の頭なんて一瞬で粉々にしてしまいそうな細かい歯が無数にキリキリと生えている。

人間の擬態を解いたその姿はミミズ野郎なんかではなく、本当に神話生物のような姿であった。

しかし、それに新は驚くそぶりも恐怖するそぶりも見せず冷静に針のように細長い剣を握りしめた。


「ソンナハリデワタシヲタオセルトデモオモッタカ?」


モンゴリアンデスワームはうねりにうねり、新の周りを舐めるように囲っている。


「ぶよぶよデブミミズ野郎だか、なんだか知らねえが、夜ならお前より俺の方が強いんだよ」


「一寸法師ミタクワタシノクチニトビコンデ中カラツキヤブロウッテ魂胆デスカ?ダトシタラヤメトイタホウガイイデスヨ。ワタシノクチハアナタ程度ミンチニデキル」


「そーですか、じゃあこれでもくらえ!」


うねるモンゴリアンデスワームの注告に聞く耳を持たず、新は凄まじい勢いで針刀をその歯だらけの口の中に放り込んだ。が、やはりというところか、針刀は噛み砕かれ奴の宣言通り粉々になって飲み込まれてしまった。


「フハハハハ!ダカラキカナイトイッタデショウ!アナタハココデムダジニスルノデス!」


モンゴリアンデスワームが針刀を受け止めたその時には既に新は元いた場所にはいなかった。

必死になって嗅覚と触覚とをフルに使って新を捜索した、しかしわかるが早いか否か唐突に硬質な甲殻をありえないほどの馬鹿力で切り裂かれる感覚が伝わってきた。


「ア?……イギャァァアア!!」


大きな爪痕、それは人間には決してつけることのできない野生の力だった。

勿論そのことを奴はすぐに直感で、どうしてこんなことが起きたのかを察した。

月夜に靡く流麗な長白髪。ツバ付き帽子を外し、前髪をオールバックの要領で後ろ髪としてなびかせて、犬のような光る赤い目を露わにした。

その姿はまさにーー


「ワーウルフ、人狼。月の出ている間しか本来の力を使うことができない種族。限りなく人間に近く、限りない力を持つ伝説の種族……そんな俺をお前みたいなミミズ野郎が喰い殺せるわけねーだろ、環形動物らしく輪切りにされて死ね!」


「ナゼ、オマエミタイナガキガ、ソンナデンセツノッ!?」


モンゴリアンデスワームの声は裁断されるように途中で途切れ、それを表すかのように体も瞬く間に人狼化した新の爪によって輪切りにされた。

青色の血液が切り口から溢れるように飛び跳ね、新の顔を汚した。


「お前がマニアックすぎるだけだろ。犬が擬態能力持ったら大体似通った感じになるし、それに奴らの方が朝も昼も変身できるから憧れるとこあるんだよね……てなわけで、死ね」


うんざりした顔でまだ頭だけは生きているモンゴリアンデスワームにゆっくりと爪を食い込ませ、発達した脳みそをえぐり出していく。


「グァ!……オ、マエ!イツカ、コロ…」


「さっさと死ねよ。お前は今月の小遣いとして俺のお財布を潤してくれ」


爪を真下まで下ろして引き抜くと、モンゴリアンデスワームの口内にはえていた無数の歯がピクピクと前後に痙攣した。

そして、完全に生を失ったように全ての動きを止めグロテスクなオブジェクトとして寂れた公園を殺伐色で彩った。


「ケーサツ、ケーサツ…あ、その前に山口に送っとこ!ハイ、チーズ!」


開ききった環形の口をバックに満面の笑みでガラケーで器用に自撮りする。フラッシュの焚き方を最近知った新は思い切り光らせるが夜中の目には耐えられない明るさで思わず目を瞑ってしまったが、そんなことは御構い無しに山口に写真を送った。


「んじゃ、まぁ、帰ろ」








「結局この事件の犯人はミミズだったってことだな」


「本人は違うって言ってたっぽいけどな」


とある桜の下、レジャーシートを敷き団子片手に男2人が花見と洒落込んでいた。

山口は昨日送られてきた写真を見たり、団子を食ったりと忙しそうにしている。


「……なぁ、お前さ、その地味な格好やめないのか?」


「俺も異常動物だって言われたら、違ったとしても保護区行きにされるだろ?俺はまだ天国には行きたくねーよ」


保護区とは国の運営している異常動物を駆除人や動物虐待から隔離するための地下世界で、ありとあらゆる異常動物が保護という名目で収容されている。

もちろん、新と同じワーウルフも何台も収容されている。


「そのための変装か、なるほどな。もう1つだけ聞いていいか?」


「好きなものは米、嫌いなものはタバコ、身長約170、体重55」


「お前の詳細を聞くわけねーだろ、俺が聞きたいのはどうしてお前が駆除人になったかってことだ」


「……俺は別に動物が嫌いなわけじゃない、むしろ好きだ。だから、動物を殺す奴は許さねえ、ってだけだよ。単に俺はこの街を小さな庭としてしか見てないの、雑草は刈りとるのが庭師だろ?」


「お前が庭師ねぇ、間違って他の草も刈り取らねえように気をつけろ?特に人間って草はな」


「お前らには殺させねえよ。殺していいのは俺だけだ……ん、ていうか萩原は?寿司は?」


「あぁ、おい、ちょっと待てよ」


先ほどまで山口と一緒に近くの夜々柄署に勤務していたはずなので近くに入るはずなのだ。

新にそう問われ山口はスマホで電話を掛ける、そして出てきた受話器の相手に向かってありったけの声量で怒鳴りつけた。


「萩原ァァア!」


「ひゃ、ひゃいぃ!!」


電話口でも怯えた声が響く。

新はその声を聞いて、クククッと静かに笑った。山口が後輩を呼び出すときはいつもこれで、毎度のごとく笑ってしまうのだ。


「寿司行くぞ」


「行くぞ」


新も便乗して、スマホ口に話しかける。


「え?な、でもさっき杉の木の枝に大量の死体が刺さった状態で見つかったっていう緊急連絡が…」


「今度は百舌か……萩原連れてけ!」


新は山口の持っていたスマホをぶん捕ると、団子の刺さった櫛を咥えながら山口同様に怒鳴りつけた。


「百舌?鳥か?」


「山口のおじさんにはわからないでしょうねー」


スマホを放り投げるように山口に渡すと、靴を履いてその場足踏みしだした。


「け、警部、今の少年は!?」


「あ、えーっと……」


「俺は駆除人だ!」


もう待ちきれなくなったか、自慢の嗅覚を使ってあてもなく走り出した。


次の標的を狩るためにーー


次の標的を傷つけさせないためにーー


害獣駆除人(ヴァーミンバスター)、新は誰よりも早く見つけ出す









皆様ありがとうございます


連載作品じゃないものとなると、ちょっとやる気が薄れてしまうところがあるので、読みにくいところや雑なところがあったと思います、大変すいませんでした。


さてもさても、内容としてはヤバイ動物を殺すだけの話となってしまいましたが、実際は守ったり逃したりもする話も描きたかったです。


本作の主人公は殺すこともしますし、生かすこともする駆除人としてはタブーなキャラクターとして書くつもりでした。


狼男設定もそんなに生かしきれてなかったところや、敵キャラがなぜかモンゴリアンデスワームとか言うUMAにしてしまったのは深夜テンションからです。


もし、これよりも細やかな表現や内容であれば、連載で読んでみたいとありましたら、感想から言ってくださるとあるりがたいです


最後に皆さま、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 連載むきだなぁ… せっかくこんなに作りこんだ設定なのにこれで終わるのはもったいないですよえどぎんさん… [気になる点] 保護区は監禁状態なのだろうか それともちゃんと生活環境みたいのがあ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ