しあわせに続く道
これで本編完結です
アルデリア公爵の事件から数年後―――
カランカラン♪
今日も店のドアベルが鳴る
「いらっしゃいませ」
「こんにちはエレナちゃん。今日のおすすめは何だい?」
「本日のおすすめはこちらの白パンです」
「ありがとうございました」
「ふぅ」
店が一段落したので椅子に腰かけ一息つく
窓の外は今日もいい天気だ
公爵の処刑はあの後しばらく経ってから行われた。
本来はすぐ処刑の予定だったが騎士団の詰め所に「公爵が使用人を多数殺して裏の林に捨てている」という匿名の投書があったからだ。すぐに調査が行われ結果、騎士達が慄くほど多数の白骨体が見つかった。その為ただの処刑では生ぬるいという事になり「死なない程度に拷問にかけた上で処刑、死体は数日広場にさらした後、件の林に捨てる」という事になった。投書については私も姉も知らなかったので逃げた使用人の1人と思われる。人形だと思ってたのにちょっと意外だった。
処刑当日には私も広場に行った。
すっかりやつれた状態の公爵だったが、私を見て驚いて目を見開いていた。
そのままにっこり微笑んで声には出さず唇だけ動かして言ってやった
『ざまぁみろ』と
その瞬間悟ったようである。
密告者が誰なのか
怒りの表情で喚きながら暴れるがボロボロになった体では大した事は出来ない
すぐに取り押さえられ刃が落とされる。
周囲から歓声が上がった。
そのまま背を向けて去る。
もう用はない――――
その後アルデリア公爵家は不吉だという事で貴族名簿からも消され最初からなかったことにされた。空いた領地は「縁起が悪い」「気味が悪い」と領主の座につく者がおらず王家直轄領となった。
私は情報を流した事で恩赦が与えられ一平民として生きていく事になった
フランツ達は何とか私を貴族籍に留まらせようとしたが周囲の猛反対にあい折れた。
最後に会った時「私の事は気にしなくていい、お荷物にはなりたくない」と言ったらホッとした顔をしていた。
そんな彼らを見て私も利用していた罪悪感を感じずに済んでホッとした。
それでも彼らは私が1人でも生きていけるようにと多額の金銭をくれた。
彼らなりの最後の誠意だろう
それで充分だ
そのお金で王都から離れた場所でパン屋を始めた。
当初は苦労の連続だったが最近ようやく軌道に乗ってきた
フランツとアルベルトにはそれから会っていない
聞いた話ではアルベルトは伯爵家の令嬢と婚約、フランツは2度も婚約破棄した事で国内では相手が見つからないだろうという事で他国の王女に婿入りしていった。年上でしっかり者の王女で若干尻に敷かれつつも睦まじくやっているらしい。
それからフリッツは―――
カランカラン♪
「お~~いエレナ。来たぞ!パンあるかぁ?」
「いらっしゃい、フリッツ」
私は苦笑いしながら腰を上げる
フリッツはうちのパンが気に入ったらしく、休みのたびに来るようになった。
以前「王都にも美味しいパン屋はあるでしょう?」と聞いたら「持久戦も鍛錬の内だ!」と胸を張って答えていた。相変わらずフリッツの言う事は意味不明だ。でも彼らしくて良いと思う
「残念ねフリッツ。ついさっき売り切れたわ」
「えぇ~~そんなぁ~~~~」
大げさに落ちこむフリッツが面白い。
「ふふっ冗談よ。ちゃんと取り分けておいたわ。はい、フリッツの分」
用意しておいた紙袋を渡す
「おおっサンキュな」
早速紙袋に手を突っこんで食べ始める
「ちょうどよかった。私買い物に行ってくるからお留守番お願いね」
「ムグムグ……おう、いってらっしゃい」
店を出て空を見上げる
「綺麗な青空…明日も晴れそうね」
姉は今隣国で夫と共に暮らしている。この前1人目が生まれ今は2人目を妊娠中だ。
この前来た手紙では上の子がすぐイタズラするので身重の体で止めるのが大変だと言っていた。
義兄は騎士団に入団し腕を認められて徐々に出世中だそうだ。
「貴女は今幸せ?」
最後に姉に会った時そう聞かれた。
それに対し私は「自由で心が満たされている」と答えた。
姉は「そう」とだけ返した
多分私はまだしあわせではないのだろう
私のしあわせとは何だろう
姉のように全てを捨ててただ1人の為に生きるのか
それともフランツのように周りに決められた安定した道を行くのだろうか
この道はどちらに通じているのだろうか―――
わからない
ただ今はこの道を進んでいく
いつか辿りつくところまで――――――
ここまで読んで下さりありがとうございました<(_ _)>次は姉の過去編です