懐かしい日々の終わり
父から裏の仕事を聞いた翌日、王家から正式にフランツと私の婚約発表があった
コンコンコンコン
「入れ」
「失礼します」
部屋に入ると今日も父が机の上で書類仕事をしていた
「エレナか、どうした」
「お願いがあります」
「何?」
「裏の仕事で代理の許可を頂きたいのです」
「何だと?」
「先日お父様は『裏の仕事を私がやれ』『殿下には気づかれるな』と仰いました」
「ああ」
「しかし慣れていない仕事を隠し通すのは難しいです。隠したい相手と一つ屋根の下で暮らすならなおのこと」
「………」
「ですから今のうちに慣れておきたいのです」
「……………」
無言で考えこむ父
じっと目を逸らさずに見る
婚約が決まってから父は機嫌がいい
今なら許可するだろう
「………わかった。ただし一度に全ては駄目だ。まずは商品の収集についてのみ許可を与えよう」
「ありがとうございます。あ、でも女子供だからと侮られることもあるかしら?」
「男装していけばいい。声は布越しで低く出せば分かりにくい。書状にもお前の名前を書かないようにしておく。そうすれば女だからと侮られることもないだろう」
「ありがとうございます」
「出来たぞ。失くさないようにしなさい」
「はい」
その場で確認し受け取る
「ところでこれから王宮に行くのか?」
「はい」
「そうか。王子の機嫌を損ねないようにしなさい。また破棄は御免だからな」
「心得てます」
一礼して部屋を出る
さぁ次は王宮だ
「エレナ!」
フランツの部屋に向かう途中で呼ばれ振り向く
「久しぶりだな、元気だったか?」
「フリッツ!久しぶりね。元気だった?」
そこにいたのは騎士団長子息のフリッツだった
「おう!俺はいつも元気だぜ」
相変わらずのようだ。しかし丁度良い
「騎士団の訓練はいいの?」
「今は休憩だ。お前の姿が見えたんで追いかけてきたんだ」
フリッツと並んで歩きながら話す
卒業後フリッツは騎士団に入り訓練に明け暮れていると聞いた
「訓練の方はどう?」
「それが親父の奴『まだまだ鍛錬が足りん!』って扱くんだ毎日ヘトヘトだ~~」
「ふふっ」
「ところで何持ってるんだ?いい匂いがする」
「クッキーよ。これなら執務の合間にも摘めるでしょう?疲れた時は甘いものがいいというし」
「……ふーん」
「せっかくだからフリッツもいただきましょう?たくさん焼いたから4人分にしても足りるわ」
「4人?」
「ええ。アルベルトも一緒よ。ちょっと相談したいことがあって……」
「何だ悩みか?俺も相談に乗るぜ!!」
「ありがとう」
もちろん乗ってもらう
コンコンコンコン
「「どうぞ」」
「こんにちは。フランツ、アルベルト」
「エレナ!早かったね。さぁ座って」
「殿下。まだ書類が終わってませんよ」
「休憩だ休憩。せっかくエレナが来てくれたのに待たせるのも悪いだろ?」
「はぁ~~仕方ないですね。終わったらちゃんと頑張って下さいよ?」
「うんうん」
クスクス笑いながらフリッツが用意してくれた椅子に座る
アルベルトが机の上を片付けてくれたのでそこにクッキーを並べる
フランツがメイドを呼んで4人分の紅茶を頼む
「うん美味いな。エレナの菓子はしばらくぶりだが腕は落ちてないな」
「ありがとう。でも久しぶりだからちょっと焦がしちゃったの」
「え~~全然わからないぞ?これは確かめてみないとな!」
「こらフリッツ!クッキーを独り占めするな!!」
「「ふふふ」」
リスのようにクッキーを頬張るフリッツと怒るアルベルト
それを見て笑うフランツと私
まるで学院にいた頃のようだ。現実を忘れてちょっと和む
「ところでエレナ相談って?」
「そういえば来る途中も言ってたな」
「殿下だけじゃなく僕まで呼ぶなんて相当深刻そうだけど…」
「うん…」
俯いて考えこむ
どう切り出せばいいかここにきて迷う
この先を言ったらこの居心地の良さも終わる
でも引き返したくはない
あと一歩なのだ
「言ってエレナ。どんな事でも君の力になりたい」
「どんな事でも協力は惜しみませんよ?」
「水臭いな~~友達だろ?遠慮するなって!」
「ふぅ」
一息ついて顔を上げる
今さらだ
覚悟はとうに決めてた筈
「ありがとう。実は……………」
次はヒロインの過去話です