番外・元公爵令嬢の追憶7
「え…ええ!?」
正直混乱した。何故そうなるのか。
「お願いします!王子を――王子の婚約者という立場を譲って下さい!!」
目の前で必死に頭を下げる異母妹。
とりあえず落ち着こう。
深呼吸してから口を開く。
「ちょっと待って。どうしてそういう事になるの?」
すると妹は真剣な表情で言った。
「私はどうしてもこの手であの男を地獄に送ってやりたいんです。口添え程度じゃ我慢ならない!計画に「王子の婚約者」という立場が重要なら私が婚約者になりたいんです、お願いします!!」
再び頭を下げる異母妹。
さてどうしたものか。
一度空を見上げた後再び妹に目をやる。
先程と同じく頭を下げた姿勢のままだ。こちらが了承するまで上げるつもりはないらしい。
「一度決まった婚約をどうやって覆せるというの?」
「王子の気持ちをこちらに向けさせます。元々王子は私が公爵家に馴染めていないのでは?と気にしてました。私がお姉様に虐められていたという事にすれば関心を引けますし、向こうの方から婚約破棄に動くでしょう」
「仮にそれで破棄できたとしても貴方と婚約するとは限らないのよ?」
元々政略で決まった婚約だ。本人の意思は関係ない。
「でも破棄になった場合次の婚約者に1番可能性が高いのは私です。身分も釣り合い、王子の気持ちもこちらにある」
「…………」
「少しでも可能性があるならそれに賭けたいんです。このまま諦めるなんて出来ない」
確かにその通りだ。
今のままでは罪を暴くなどいつになるのか―――
賭けに出る必要があるかもしれない。
「……解ったわ。顔を上げてちょうだい」
途端妹が笑顔で顔を上げる
「ありがとうございます。お姉様」
それから細かい打ち合わせをした。
証拠が中々集まらない事を言うと妹は「無いなら作ればいい。密告して騎士団を踏みこませる時、現場に持ち物でも落としておけばいい」と言い出した。
正直その発想はなかったので驚いた、いや考えないようにしていたのかもしれない。
父を陥れる事に一瞬躊躇ったがすぐに決めた。どうせ結末は一緒だ。
最終的に妹が王子の気を惹き婚約にこぎつける事、私が妹を虐めつつ父の身の回りの品を集める事で役目が決まった。
これから先の連絡は林のこの場所で行う事、ただ毎回同時に林に入ってると怪しまれるので基本的にやりとりは手紙を置いておく事で行う事、打ち合わせが必要な場合のみお互いこの場所で話し合う事となった。
それからは今までが嘘のように順調に進んだ。
あっという間に王子は私を嫌うようになり、代わりに異母妹を気に掛けるようになった。頻繁に訪ねてくるが会うのはエレナばかり。庭先で2人で笑いあっているのも見かけた。
私の方も順調だった。
父は仕事には用心深かったが身の回りの品にはあまり頓着せず、失くしても探さずさっさと代わりの品を用意していた。むしろ金を湯水のように使える事に満足しているようだった。とはいえあまりに集めすぎると気づかれるので少しずつだったが確実に進んでいた。
エレナが学院に入ってからはさらにエレナを虐めるようにした。
もちろん証拠は残さない。それでも周りは私だと気づいていた。
自然と周りから孤立するようになったけどそれでも構わなかった。
むしろ計画が順調に進んでる証なので内心喜んだ。
友人達が控えめに忠告してくれたが気にしなかった。代わりにさりげなく遠ざけた。いずれ私は婚約破棄される。関わらない方が彼女達のためだと思った。