番外・元公爵令嬢の追憶6
相変わらず私は歯痒い日々を送っていた。
あれから何度か王子と会ったものの相変わらず父を信じ切っているし、父も用心深く裏の仕事についても使用人への暴力についても、決して証拠を残す事はなかった。せめてとパーティやお茶会に顔を出し、有力貴族で父を訴えられそうな相手を探してみるが、反応は王子とほぼ一緒だった。
「アルデリア公爵は本当にご立派ですね」
「あんな素敵なお父上でフローレンス様も鼻が高いでしょう」
今日も貴族たちに囲まれながら笑顔で返す。
「えぇ。本当に素晴らしい父ですわ」
何をやっているんだろう。
本当は叫びだしたいのに作り笑いを浮かべて心にもない事を言う。
思えば子供の頃は笑う事が出来なかったのに随分変わったものだ。
まるで喜劇役者にでもなった気分だった。
いつものように林でアーサーへの手紙を書いていた時……
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
突然叫び声が聞こえた。
「えっ何!?」
驚いてそのまま立ち上がる。
ここには誰も近づかない筈なのに―――
そのまま声を頼りに探す。
声の元は異母妹だった。
いつの間に入りこんでいたのか、ひたすら泣き叫んでいた。
尋常でない様子だったので思わず声をかけた。
「どうしたの?大丈夫?」
彼女は驚いた様子でこちらを見た後、再び泣いた。
やがて落ち着いた後理由を語ってくれた。
無理やり母親と引き離され連れてこられた事、碌に食事や睡眠もとれず酷い扱いを受けていた事、病気の母親を見殺しにされた事。
「貴方も…父に大切な人を奪われたのね」
私は初めて目の前の異母妹を1人の人間として見た気がした。
そして私も自分の事を語った。アーサーの事、父の人身売買の事、父の罪を暴く計画なども…
そして協力を申し出た。
「私1人なら取り合ってもらえないだろうけど、貴方も一緒に証言してくれれば王子も少しは耳を貸してくれると思うの。どうかしら?」
「…………」
しかし彼女は無言で考えこんだ後、思いもかけないことを言ってきた。
「お断りします。いえ計画には乗りますけどお願いがあります」
「お願い?」
「貴女の婚約者を―――王子を私に譲って下さい」